第二十八章 双方の決闘 ~てめーの横暴をうらめ!~
一方、冒険者ギルド・エルメスカウンター旧庁舎。
フォレストとヴィントとリューン、カルパッチョ以下サンクティス工務店従業員たち、またこの事業のために集められた人員一同は、黙々と自分たちの為すべきことをこなす。周辺の建物や通行人に注意を払いながら、作業員は解体と廃材輸送をこなし、フォレストと新庁舎建設で一緒になった女性職員は作業員のための炊き出しに専念する。
「王子様、今回もご一緒できてうれしいです。一緒に頑張りましょうね!」
「はい。あっ、今回もハンドクリームありますよ。ぜひ使ってください」
「ありがとうございます。あっ、この前いただいたハンドクリームの箱、ジュエリーケースにしているんですよ」
「それはありがたいです! 今回のもぜひ活用してくださいね」
カルパッチョはスーツにヘルメットと言う出で立ちの男性とファイルを交換していた。その人物こそ、サンティーエ共和国『冒険庁長官イル・シャリオン』である。
「シャリオン長官は初めての謁見ですね。あちらのお方こそ、レアガルド王国王家第一王子フォレスト・レアガルド殿下にあらせられます。フォレスト殿下は唯今、ある州の重要な地域の開拓のプロジェクトをライノック・レアガルド陛下より任されておいでで、我が工務店との縁もあってこうして我が事業にご尽力いただいているのでございます」
「そうですか。王子というお立場だと言うのに何と素晴らしいお心がけでしょうな。いやー、我が国最後の皇帝にも、あの王子の爪の垢を煎じて飲ませてやりたいですな!」
「あまり人の悪口を叩きたくはございませんが、お気持ちは分かります。フォレスト殿下は本当に自国の民や我々のことを思い、力を尽くしておいでです。私めもできる限りのご恩返しをさせていただきたいと存じております」
カルパッチョと言葉を交わしたシャリオンは書類をメイドに預けてフォレストに挨拶に行き、国の事業への助力の感謝の言葉を述べた。
昼時、すべての作業員が仕事の手を止めてフォレストたちが作った鍋にありつき、サンクティス工務店から持ってきたドラム缶ストーブで暖を取る。「最近冷えてきたなあ」と多くの作業員たちが寒さを愚痴る中、エルメスの子供たちは元気いっぱいにはしゃぐ。この日、学校は午前で終わったようだ。
シャリオンはフォレストの隣で料理を配りながら、彼に尋ねた。
「ところで、王子は学校には通われていないのですか?」
「前まではちゃんと通っていました。ただ学校では『モヤシ王子』『弱そう』ってからかわれて、強くなりたいと空師匠に弟子入りし、今はフォーマメント州で国王たる父から命じられた開拓の仕事をしつつ、勉強はここにいるリューンから教わっています」
そのリューンはフォレストの背後で、シャリオンに一礼した。
「ほぉ、そのような経緯が。であれば、これからも精進なさいませ。あなたは努力家であらせられる。将来、立派な国王としてご即位なされるでしょう」
「ありがとうございます。せめてヴィントからモヤシ王子って呼ばれなくならなきゃって思いますよ。それでも、ヴィントにだけはモヤシ王子って呼ばれても不思議といやな気分はしないので、ちょっとジレンマですが」
「はっはっは。あの子は少しやんちゃで生意気そうだ。王子も苦労なさいますなあ」
「ええ。ヴィントはとても元気で可愛くて、僕にたくさん苦労をさせてほしいです」
ヴィントは女性とともに使用済みの食器を洗う仕事をしていた。手が荒れる仕事であるため、フォレストも参加してのローテーション制を採用している。
「王子は、また学校に通いたいとお思いですか?」
「それは、少し前までであれば義務だと思っていました。王子だからって城にこもってばかりではなく、『学校という小さな社会を見て来るべし』と、王位継承権の有無に関係なく王族は歴代、学校に通ってきたんです。僕には低学年の時は友達もいたんですけど、四年生に上がった途端にモヤシだひ弱だって言われるようになって、友達は貴族社会のヒエラルキーのせいで疎遠になって、彼らのところに行こうとすると周囲の子が『付き合う相手は爵位で選べ』みたいに言って引きはがしてきて。だから、学校に通いたいかって言うよりは、あの頃の友達とまた遊びたいなって思うんですよね」
「そうですか……」
「でも、今は充実しています。呉空さんが僕の武術の師匠で、空師匠のメイドのヴィントとも一緒に仕事ができて、父からはひとつ大きなプロジェクトを任せてもらって、毎日が大変だけど楽しいんです。学校に通うことが社会勉強だって言うなら、今こうして働いていることもまた立派な社会勉強だと思いますし、今はヴィントって言う年の近い旅の仲間がいますから」
「ええ。素晴らしいお考えです、王子」
その時だった。
解体現場からさほど離れていない場所が騒がしい。フォレストが見てみれば、数人の中学生がひとりの中学生を取り囲んで騒いでいた。
「やめて、返してよ!」
「へーだ。返してほしかったら自力で取り返してみろやーい」
「悔しかったら侯爵にでもなってみやがれ!」
どうやら背の高い少年たちが、背の低い少年のカバンを取り上げて空中パスして返さずにいじめているようだ。しかも背の低い少年は取り返そうと上ばかり見上げており、背の高い少年のうちのひとりに足を引っかけられて転ばされた上、背を踏みつけられてしまった。
「げふっ!」
「はっはっは! ザマぁないな! なぁ。貧乏子爵が学校なんか来てんじゃねえよ、貧乏が移る。うちも貧乏になったらお前のせいだからな」
その様子を見て、作業員たちは「またあのガキどもか」とため息をつく。「誰なんですか?」とフォレストが尋ねれば、「この近くにある『エルメス都立大学附属中学校』の生徒たちです。金髪のやつは『クレベルト州』知事んとこの三男坊ですが、横暴なガキ大将で通ってるただのクソガキです」とのことだ。
「そうですか。立派な立場の者が下の立場の者を辱めるなど言語道断。シャリオンさん、すみませんが席を外します。リューン、一緒に!」
背の高い少年たち、そして州知事が嫡男『アッカー・クレベルト』は、背の低い少年『ジャン・エフォル』が地に這い涙するさまをゲラゲラ笑いながら見下ろしていた。
「どうしてだよ……。どうして毎日そうやって意地悪するんだよ……。父さんからは立ち向かえって言うし、でもみんなは集団だし! 勝てっこないよ! もうボクなんてほっといてくれよ!」
「何が勝てっこないよだこの弱虫毛虫。お前の家の爵位が子爵なのが悪いんだろ? 恨むならお前の親をうらめよな。貧乏子しゃ」
だが。
「てめーの横暴をうらめ!」




