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第二十八章 双方の決闘 ~言葉が通じない相手は、力を以って黙らせます。~

 再び、サンクティス工務店。

 機械の動きが悪いと作業員が木材加工機に油をさしていると、聞き覚えのあるエンジン音が響いてきた。レアガルド王国陸軍の軍用蒸気駆動車の蒸気エンジン音だ。

「おっ? 皆さんお帰りのようですね。おいラウル、店長を呼べ! って!?」

 作業員『ハンツ』は目を剥いて驚いた。

 あまりの寒さに、空たち一同は両手で上半身を抱えて顔を真っ白にして震えていたのだから。

「さ……、寒いです……!」

「そりゃーそうでしょう! 装甲の無い軍用車で今にも雨や雪でも降りそうな曇り空の中風を受けて走って来たんですから!」

 ハンツはドラム缶を加工して作ったストーブに大量の薪を入れて灯油をかけて火をつけた。店長カルパッチョが出迎えようとした時には五人が五人ともストーブの火のぬくもりに取りつかれていた。

「……まずはお風呂ですね」

 カルパッチョは一同を近くの大衆浴場まで案内し、旅の疲れと寒さから解き放たれたところでこれより先の拠点とするための宿として、以前も使ったホテル・ファミーユ竹の間1-5に荷物を預ける。また今度の旅には別ルートでレアガルド王国騎士団より二名の斥候が向かい、彼らは陰からフォレストを守る任務に就くが、それを空たちは知らされているが、フォレスト本人は知らない。

 引き続き旅団のリーダーを担うフォレストが、確認がてら仕切る。

「さて。僕、リューン、ヴィントはサンクティス工務店での従事で、仕事内容は建設現場での炊き出しの準備と言うことで、これからサンクティス工務店に向かいます。空師匠とピエリーナさんは冒険者として都内警護でしたね。お二方のご武運を祈ります」

「ありがとうなのです、フォレスト殿下。それでは空さん」

「はい。ただ殿下はレアガルド王家の王子なんです。くれぐれも無理はなさらず、リューンさんたちを頼ることをお忘れなく。それでは、行ってまいります」

 そして両者は分かれる。


 冒険者ギルド・エルメスカウンター、新庁舎。

 太い柱に真っ白な壁、シンプルながら力強く威厳のあるたたずまい。よく磨かれた木製の扉の真上には、旧ギルド庁舎から継承した、しかし全く新しく作られたギルドの紋章が飾られている。また庁舎最上部は屋根ではなく屋上となっており、大剣をイメージしたオブジェの裏側が出入りできる『塔屋』となっている。戦闘訓練はできないが、バーベキューなどのレクリエーション施設として利用可能だ。

 庁舎内部は、一階に冒険者用ホール、ドリンクサーバー、クエスト掲示板、カウンター、書類倉庫、トイレや給湯室などの水回りとなっており、地下が保存食や武器などの倉庫、二階中央部は吹き抜けとなっており回廊の外側に執務室や会議室などの用途別の部屋がある。

 内装は近代的(モダン)かつ豪華なもの。冒険者稼業は個人事業だが冒険者ギルドの運営は国務であるため、公的機関庁舎としてふさわしい内装でなければならない。また命がけのクエストを受けることもある冒険者にこそ、粗雑ではなくむしろ華やかな『帰るべき場所』として提供しなければならないのである。

 ちなみに出前サービスの掲示板と魔導通信機もあり、冒険者は出前で頼んだ食事をギルド庁舎で味わうことができる。キャンセルとアルコール注文は不可である。

「新しい冒険の始まりです」

「なのです!」

 空たちはカウンターまでやってきて受付嬢に言うのだが。

「あぁ、あなたがカウンター長が言っていた特別な冒険者様ですね。カウンター長から伺っております」

「特別かどうかは知りませんが、確かにわたしはレアガルド王国冒険者で子爵の呉空です。そして」

「同じ立場のピエリーナ・マルゲリータなのです。本日よりお世話になるのです、よろしくお願い申し上げるのです」

「はい。それでは依頼内容を確認しますが、冬季限定、強盗阻止任務、略奪及び各種犯罪行為取り締まり任務を、『Sランク相当の待遇』と言うことで、レアガルド王国議会冒険庁より人員貸与条件を頂いております。つきましては本日より任務に就いていただければありがたく思います」

「承りました。では、わたしの配属先はどちらに」

 すると、庁舎ホールが騒然となった。

「え? あれが冒険者?」

「どう見てもひょろっこいお嬢ちゃんたちじゃねえか」

「アオザイの子は槍持ってるけど、隣の子はあんなちっこくて戦えるのか?」

「子爵って言ってたぞ。どうせあれだ。武功をカネで買った系のやつだ」

 ――あー、そうきましたかー。

 空は軽くため息をついた。受付嬢は「まあ冒険者の中にはああいう礼儀知らずな方も多いのでお気を悪くなさいませんよう」と言うのだが。

「わたしたちの任務が単独任務であるならば構いませんが、集団行動が求められるのであればそうはいきません。わたしたちは戦えると言うことを何らかの形で示さなければ、任務に支障をきたすことが考えられます」

「それは確かに」

 空の説得を受け、受付嬢は不遜な態度の冒険者たちに「この方々はレアガルド王国陸軍少尉として相応の訓練を受け、冒険者として盗賊団を殲滅・撃退した戦果があり、あのヘイヤンマオを完全制圧し、その実力を当カウンター長が認め、カウンター長直々にご依頼申し上げた次第です」と説明したのだが。

「へっ、信用ならねえな!」

 そう、とある冒険者パーティーを率いる男が空に食って掛かった。

「ヘイヤンマオだぞ? 四台の車とガトリングガンで効率よく町の武装を封じ、役所の職員人質に取って横暴働く卑怯で狡猾で横暴な奴らだ。そんな奴をたったふたりで? 何かの間違いだろ、そんなもん!」

 そう言う男に空は反論した。

「ギャングだからこそ制圧は簡単なんです。人質を取れば手出しはできないだろう、その慢心こそ反撃のチャンスだと言うことです。そして夜になれば酒を飲んで宴を開く。そこに忍び込んで闇に紛れてひとりずつ制圧する。少数精鋭で敵陣中枢にたどり着けば、あとは一気に殲滅する。多少手間ですが、わたしは陸軍で丁寧で確実な行動こそ任務遂行の成功率を高めると言うことを教わりました。ゆえに、わたしたちは制圧に成功できたわけです」

「ぐっ……。だが、そんな槍一本でどうなる?」

「できます。ヘイヤンマオは多少荒事に手慣れているようですが、あとはガトリングガンを持っている程度。個人個人の実力は低く、トップ以外はわたしたちの敵ではありませんでしたよ」

「ほっ、ほーん……? じゃあヘイヤンマオは実は弱かったと。じゃあお前の実力も大したことねえってことか? だよなあ?」

 冒険者、いくら何でも空たちを舐め腐り過ぎである。いつもなら冷静な空も、この時ばかりは眉間にしわを寄せて怒気を強めた。ピエリーナに至っては怒りをあらわにして憤慨していた。

「カッチーンなのです! 空さん、いくら何でもあの人たち、私たちを馬鹿にし過ぎではないのです!?」

「ええ、まったく。……そちらの方、言ってくれますね。さすがに苛立ちを禁じ得ません。あなたたちとは拳を交えたことはありませんが、その立ち居振る舞いだけであなたたちの功夫がわたしたちに及ばないことは明白。その実力の差が分からないようでは、話になりません」

「何だとコラ!? このアマ、もっぺん言ってみやがれ!」

「はぁ……。どうせ口で言ってもどうせ納得しないでしょう。わたしの名前は呉空。八極拳を恐れぬ者からかかってきてください」

「空さん! やっちゃってくださいなのです!」

「……ダメだこりゃ!」

 ヤマトの伝説のコメディアンよろしく、カウンターの受付嬢は頭を抱えた。

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