第二十八章 双方の決闘 ~人の上に立つ者の心得を説きましょう。~
秋も終わりを迎える。
当然、リゾートの利用客も減る。
そこで空が提案した冬季長期宿泊プランを実行に移すべく準備を始める。イハトヴ側で上等な食料と料理を用意するのは当然のことだが、体験型アトラクションとして『凍った湖での湖棲魚釣り』や『ガイド付きスケート、犬ぞり&猟犬ハンティング』、『雪合戦』、『雪見露天風呂』などが提案され、スケートと湖棲魚釣りのために救命ボートを作ってライフセイバーとして冒険者を期間中雇い入れ、露天風呂のためのパーテーション工事をソメイヨシノと共に進めた。工事に関しては、リゾート客には「雪が降るまでのお楽しみ」として期待感をあおっておく。
シュトラルラント王国シュッツバルト群からは追加でヤクスギのキットが届き、各地から集まった元セラヴィの町の住民たちの手でログハウスが建てられた。水回りに関する工事はアルケモートの水道工事業者を呼び、やはりここにも元セラヴィ住民を施工要因に充てた。ゆくゆくは全てのライフラインを村人が施工・維持していかなければならず、そのための修学は必須である。
降雪の季節を目前にして、すべてのログハウスは完成した。ヤクスギは村の議会庁舎とすることが決定しているが村として完成するまでは全員で雑魚寝になる。マツからウメも同様に雑魚寝屋敷だが、そこで暮らすことでどのグレードにはどれだけの人数や世帯に向いているかを肌で感じられる。その結果、最小規模のウメはひとり暮らしから小世帯用に向いており、家族で住む、あるいはシェアハウスするためには、せめてタケグレードから導入したいと言う意見でまとまった。
ところでセラヴィの元領主トリスタン・トワトルだが、現在は爵位を国に返上し、イハトヴに骨を埋めることを選んだ。そのトワトルに村長を任せたいと言う意見がセラヴィ出身者から上がったのだが。
「反対です」
と空が言った。
「どうしてだよ社長さん! セラヴィでもトワトルさんが町長だったんだぞ!?」
「存じています。そしてセラヴィが滅んだ理由も。ギャング・ヘイヤンマオの横暴のせいでかの町は壊滅し、おそらく今では野良猫しか住みつかないゴーストタウンになり果てていることでしょう。ここに来る前のあなたたちはやけになって暴力と酒に溺れ、手を付けられなくなったあなたたちをトワトルさんは見限ってしまいました」
「そりゃあ……、俺たちも悪いと思ってるよ。だがトワトルさんは悪くねえだろ!?」
「いかなる理由あれど、町民を見限るという選択をした時点でトワトル氏はその座にふさわしい人間でなくなりました。ではこんな話をしましょう。これはわたしとアレットが冒険者として輸送ギルド・メイフラワーで従事していた時の話です」
アーダルベルト海賊団壊滅後、輸送船メイフラワー号のクルーのネームタグと雇った冒険者たちの武器を遺品として持ち帰る際、アレットは船長クリストファー・ロバーツに「船長さん、よくあの凶悪なアーダルベルトに大見得切ってたッスね。勇敢でカッコよかったッスよ!」と言ったのだが。
――「いや、正直膝が言うこと聞いてくれなかったよ。だがあれ以上誰も仲間を失いたくなかったし、失うわけにも、そしてきみたちを見捨てて自分だけ逃げることは絶対にできないんだ。なぜなら俺はギルド長だし、メイフラワー号の船長だからだ。船長は何があってもクルーを、海の家族を見捨ててはいけない。そして俺が見捨てたくない存在なんだ。膝が言うことを聞かないなら切り落として、アーダルベルトの奴と刺し違えてでも命を懸けて守るつもりだった。それが、船長ってものさ」
――「そ……!? そんなの、潔いにも程がねえッスか!?」
――「かもな! だがそれが船長、海の男ってものさ! はーっはっはっはっは!」
――「……コマンド。命大事に、ッス」
そこまで話し、空は言った。
「わたしは自領の民のために、イハトヴの従業員のために、どこまで命を懸けられるか分かりません。今でも仲間たちに支えてもらって何とかイハトヴの社長をやれています。そんなわたしがかのような一大事に直面した際、クリストファーさんと同じように立ち向かえるか、トワトル氏のようにあなたたちを見捨ててしまうか、どう判断するのでしょう。そう思った時、わたしはその立場をトワトル氏に預けようとは思えなくなりました」
「う……」
セラヴィ出身の誰もが言葉に詰まる。
空は自分の言葉を曲げようとはしない。
その様子を見ていたピエリーナも、冷静に事態を見守る。彼女もまた、株式会社パワードの元・社長グレン・パワードをイハトヴの代表として雇用するか否かを論じた際、空と同じように厳しいことを言い放っていた。
そして空は言う。
「わたしはわたしの思うところを意見しました。それでなおあなたたちがトワトル氏を推すと言うのなら」
「なら……?」
空は「ふぅ」とひとつため息をついて静かに微笑んだ。
「彼にとって名誉挽回のよい機会です。今度こそ我々を見捨てないでくれと懇願すればいいでしょう」
こうして、トワトルの『暫定村長の就任』が決定した。
ライノックによるフォレスト再遠征承諾および空たちの建築業従事承諾より一週間後。
「それでは皆さん、行ってくるのです!」
「またしばらく車を独占しますが、ご容赦ください」
旅立ちの準備を済ませた空とピエリーナを、イハトヴの一同は見送った。
「んッス。引き続きイハトヴは任されたッスよ!」
「心おきなく行ってくるとよいでござるよ」
「フォレストよ、次期国王として研鑽を積むこと忘れず、しかし時に遊び惚けるのもよいだろう。それもまた勉強、それもまた人生だからな。ヴィントもうちの愚息と仲良くしてやってくれ」
「はい、父上」
「八極拳の先輩として面倒見てやるよ、王様!」
そしてリューンも。
「陛下も毎度毎度遊びに来ていないでしっかり国王としてのお勤めを果たされますよう」
「ここが、特に湖上ホテルのヒビキのサービスが良すぎるのが悪い!」
「……道楽国王め」
出た、ライノックとリューンの漫才ケンカ。主と従者の距離が近いのはよいことだが、毎度やらねば気が済まないのかと一同は呆れて笑う。
車の蒸気エンジンも温まってきた。今回はリューンが車のハンドルを握り、空たちは助手席や後部座席に乗り込む。
そして後部座席にかけたフォレストが、見送りに来たトワトルに言った。
「村の開拓を頼みました。開拓計画はフォーマメント州領主のアレットさんとひまりさんに預けているので、お二方の指示のままに。そしてあなたたちが暮らす村なのですから、あなたたちからも存分に意見を出すとよいでしょう」
「はっ、フォレスト殿下の御心のままに」
以前ならフォレストを「王子様」と呼びながらもタメ口だったトワトルも、彼に忠誠を誓ったからかそれ相応の作法で接するようになった。
「はい。それでは!」
今度こそ出発。
蒸気エンジンはうなり、白い煙を上げる蒸気駆動車は主たちを旅路へといざなう。
空たちが見えなくなると、アレットたちはそれぞれの持ち場へ。そしてライノックも。
「さて、トリスタン・トワトルとやら。そなたの働きぶりを見せてもらおうかな」
「はっ、陛下」




