二十七章 マインドマッピング ~ただの親バカだ。~
冬の前。
シュトラルラント王国から、アルケミックエンジン搭載トラックに載せられたログハウスキットが届いた。その頃にはフォレストの開拓案もほとんど完成し、三件のログハウスの建設予定地の地均しも完了していた。
イハトヴの従業員を建設要因に割くことはできない。そこで、陸軍、海軍、冒険者ギルドの各庁舎に身を寄せているセラヴィの元住民を招集し、彼らを建設要因に充てることにした。将来彼らをここに住まわせるかもしれないのだから、妥当な人選であろう。
建築中の彼らの寝泊まりする場所はイハトヴ従業員寮と定めた。それを超える人員が集まった、あるいは集める必要がある場合はキャンプ場を提供し、貸し出し用のテントと焚き火台など暖を取るための設備が必要となりそうだ。
そして、夜の領主邸。
「『数日は』自領でゆっくりできますね」
「はいなのです。でも私は、カルパッチョさんのところで勉強してきたことを少しでも実践して見たくもあるのです。でも、それにはいろいろ都合が……」
「そッスね。自分もイハトヴ運営で忙しくなきゃ探偵仕事もしたかったッス。またレッドフォート州のようなお困りごとが待っているかもしれないと思うと、探偵業ができないのがもどかしいッスね」
「拙者も同様でござる。しかしアレットの場合、探偵事務所をここに開けばよいではござらぬか。あ、そうなると拙者も村に剣術道場を開くのも……」
「おー、そらぁいいッスねー!」
そう言いながらハムやベーコンなどをつまみぶどうジュースを味わう空たちに、フォレストが意見した(未成年であるフォレストやヴィントが起きている時間に酒は飲めない)。
「だったら、それも開拓案に盛り込みましょう。アレットさんは保安庁諮問探偵でもいらっしゃいますし、それだけの立場があれば探偵としての依頼も多く寄せられるはずです。ついでにキャンプを楽しんでいただければ収入にもつながるでしょう!」
「おっ? それいいアイデアッスねぇ。国内各州から依頼殺到、空と一緒に旅をして、真実突き止め依頼料がっぽり。道中で空の過去が見つかれば万々歳ってね!」
「アレット、旅の始まりを覚えていてくれてうれしいです」
「もちろんじゃないッスか! 空いてこその自分らッスよ!」
「ええ。とても幸せなことです」
すると、領主邸のドアがノックされた。
ヴィントが対応すると、そこには護衛を連れたライノックがいた。
「あっ。王様、いらっしゃい」
「うん。丁寧なお出迎え感謝する、ヴィント」
一同は食事と会議(と言うよりは駄弁り)をやめて席を立つが、ライノックは「こちらがアポなし客だ、楽にしてくれ」と言う。
「こんな夜遅くに、一体どうなさったのですか?」
「なーに。今日もフォレストの様子を見にと宿泊に来ただけだ」
そう言うライノックだが、イハトヴに来るまでは彼のメイドとして従事していたリューンは「ただの親バカだ」と誰にも聞こえないようにツッコミを入れた。
「……と言う感じで、プロジェクトは進んでおります、父上」
「うむ、よくやっているようだ。廃材建材の錬成とログハウスキットの購入。前者は資源を無駄なく使いきることができ、後者は建築を効率的に運ぶことができる。ログハウスキット・ヤクスギだが、これは外装と内装さえ整えれば中級貴族の屋敷としても使えそうだな。よし、試しに全部買ってみよう。国庫負担でヤクスギのキットを追加注文せよ」
「よいのですか、父上?」
「何事も検証あってこそだ。上手くいけば投資した以上のものが得られるだろう。ヤクスギを村長邸にするかどうかなら今はさておき、村の議会庁舎と、それが機能するまでの建設要員の雑魚寝宿舎にはなるだろう。民に窮屈な雑魚寝はあまりさせたくないがなぁ」
「わかりました。明朝、シュッツバルト群へ連絡します」
すると、そこにピエリーナが挙手した。
「どうした、ピエリーナ?」
「はいなのです。今回、セラヴィの皆さんの対処のために帰還したのですけれど」
ピエリーナはテーブルの上に、サンクティス工務店の刻印が施された封筒、そして信書を置いた。
「カルパッチョ店長と冒険者ギルドのカウンター長からこんなお誘いを頂いたのです。冒険者ギルド新庁舎が完成したら今度は現存庁舎の解体作業もあって、それとは別に冬になると食糧強奪の事件が多発するため、解体現場補佐要員としてヴィントちゃんとフォレスト殿下とリューンさんが、都内警護要員の冒険者としても私と空さんが欲しいって」
空も続いた。
「その話は一度お断りしようかとも考えていました。先のピエリーナの修学の旅において、我々はフォレスト殿下の付き人としてエルメスに赴いたに過ぎず、我々もまた自領を持っているため、自領をないがしろにして他国のために命はかけられないと。しかも炊き出しの手伝い要因とは言えフォレスト殿下はこの国の王子です、労働要因として欲されても『二つ返事』はできません。……とは言え一度ヘイヤンマオ事件の解決のために動いてしまった手前もあり、我々がお世話になったサンクティス工務店に不義理を働くこともできず、悶々としていたのも事実です。ですが」
そこから先は、アレットたちが引き継いだ。
「建設と警護に関する依頼に関してはもう完全に空の言うとおりなんッスが、ここで簡単に見捨てちゃ後味悪いッスから」
「空が重んじる『仁義』に準じてもらうのがよいでござろうと、拙者とアレットは了承した次第にございます。しかし本来なら護衛をつけるべき貴族となった空とピエリーナを冒険者として雇うと言うのはどうかと思っている葛藤もございます。ましてやフォレスト殿下を労働力として欲するのならば、先に陛下の了承を得るべきでございましょう。それについては昨日親書をお送りした次第ですが、行き違いになったようでございます」
「そうか。ではピエリーナと空がサンティーエに赴くこと自体はよいのだな?」
ライノックの言葉に、アレットとひまりは神妙にうなずいた。
「ではこうしよう。レアガルド王府からサンティーエ共和国議会の冒険庁に次に題する書面を送ろう。題は『貴国冒険庁の自国呉子爵及びマルゲリータ子爵の雇用と冒険報酬に関する特例契約締結及び報酬請求書』の、彼国控えと自国控えの二枚つづりとする。簡単に言えば、『我が国の貴族を冒険者として雇うならそれ相応のギャラを空とピエリーナに支払うべし』ということだな。それに」
ライノックはフォレストを見やった。
「また、恐らくサンクティス工務店の店主はフォレストが村開拓プロジェクトのリーダーであることを知ったことで、民が暮らす街で働きながらたくさんのことを勉強してもらいたいのだろう。フォレスト、隅々まで学んでくるように」
「はい、父上」
こうして、フォレストたち一同のサンティーエ共和国への再遠征が決定した。日に日にたくましくなってゆく息子を見て、父もとてもうれしそうだ。
「では村の開拓とサンティーエの件はこの辺にして、アレット、ひまり。現在のイハトヴの経営状況はどうか?」
「はいッス。セラヴィ出身者とは別に人員募集に応じてくれた従業員が増えたこともあってサービスに対する人員に不足はなく、むしろみんな余裕を持って働いてくれているッス。中にはヴィントみたいな事情を抱えている人もいるッスが『将来設計のためにも安定した収入が欲しい』って言う元冒険者もいたりして、後者は歓迎できても前者に対してはあまりもろ手を挙げて喜べない事実でもあるッスが、経営状況は万事順調ッス。ねぇ、ひまり?」
「然様にございます。体験型アトラクションについては好評。味覚に関しては秋にしか味わえないマツタケスープとキノコ狩り体験が好評でございまして、ゴーレム・ソメイヨシノの試乗体験は季節を問わぬゆえこちらも安定した収入につながってございます。雪が降れば客足が遠のくことが懸念されますが、それに対する策も空の案をもとに講じてございます。……ただ」
「ただ?」
「子供たちがはしゃぐとソメイヨシノも上機嫌で、ガテン系男性客が多かったり誰も乗りに来なかったりすると拗ねることもございます。この先、子供たちの声が少なくなれば、ソメイヨシノも宿泊客に塩対応することが考えられ……」
「忘れていた。ゴーレムにも疑似的とは言え魂があると言うことを」
だが、ここに来てピエリーナがふと思った。
「ゴーレムの『うつ病』……。これは新しい発見なのです!」
「なるほど。人は無論、動物も必要とされなかったり雑に扱われたりすると気分が落ちるものですからね。ゴーレムにも魂があるのであればソメイヨシノの気持ちも分からなくもなく、本格的なうつを患わないことを心から願いましょう。そのためには」
空はピエリーナとヴィントを見やった。
「空、さん……?」
「師匠、何だよいきなり?」
空は答えずアレットとひまりにも視線を向ける。
「いえ、皆さんがたまにソメイヨシノのお相手をすれば、ソメイヨシノもうつにならずに済むのかな、と。ひまりは『ヤマトビューティー』ですし、ヴィントもピエリーナもとても可愛いですし、アレットは探偵姿をやめて赤いドレスに」
「自分はこのスタイルの方がしっくりくるんッス! アルビオンの探偵の正装ッス!」
「せめて自宅にいる時くらい可愛らしいベビードールで」
「だったら空が着ればいいッス!」
「いえ、わたしは軍育ちで黒髪ショートカットで筋肉質で不愛想ですから可愛い系の服なんて似合わないですしソメイヨシノも喜んでくれませんよ」
「おめー……、自分には可愛いって言っておきながら自身の魅力に全く気付いてないっぽいッスね」
「師匠は鈍感だからなー」
すると、空の背後に立ったリューンが彼女の肩を強くつかんだ。
「あ・た・し・は?」
総員、コメントに困り果てた。
その夜。
リューンはアシュレイの大使館に強引に押し掛け、熱湯割りウイスキーを浴びるように飲んで泣きながら果てた。
「何があったのぉー!?」




