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二十七章 マインドマッピング ~失敗が許されないのは、人の命が掛かっている時だ。~

 二日後。

 レアガルド王国議会。

「……そうか。フォレスト、そう判断したか」

 会議の途中で息子フォレストからの信書を受け取ったライノックは、椅子に背中を預けて深くうなった。議長のサティルスは「どうなさいますか?」と尋ねるのだが。

「別にどうもしない。フォーマメント州はついこの前まで王家所有の手つかずの未開地。息子の次期国王としての勉強にはうってつけであり、フォレストの将来のために必要不可欠な多少の失敗などこの王府がカバーできるだろう。だが失敗で許されないのは人命が掛かっている時だ。今はセラヴィの民を冒険者ギルド・エルメスカウンターと我が国の陸軍庁と海軍庁で保護しているが、我が国の預かり人員分は出稼ぎ労働者扱いで税金が絡んで保護対象の取り分が少ない。王国議会にできることはひとつしかない。それは、『息子たちが情けで拾った犬は親たる吾輩が責任を持って餌を与え散歩させる』のみ」

「……え? 犬扱いですか?」

「ものの例えだ。だがそれは、サンティーエ共和国に更なる貸しを作ることにもなる。こちらとしては未来での利益が見込めるが、かの国は借金返済に策を弄してばかりで国民のことを全く見てやれていない。まったく、先の侵略戦争で背負った咎は底知れぬほど深い。先人は絶望的なほど愚かなことをしてくれたものだ。自国の民にどう詫び続けるつもりかな?」


 同じ頃。

 リゾート・イハトヴ、領主邸。

「そッスか。空たちはいったん帰ってくるッスか。となりゃ、事情も事情ッスし村の開拓を、せめて毎度毎度空が拾ってくる犬たちを保護するためのキャットハウスもなんとかしなきゃいけないわけで」

 ここでも難民を「拾われた犬」と言い表していた。

「その犬の拾い主に、拙者らも含まれているわけでござるが?」

「あははー。そうなんッスよねー。困っている人を見捨てられないのが自分らってもんッス」

「この世は因果応報、持ちつ持たれつでござる。拙者らもまた、これまで多くの方々に助けていただいて今に至るのでござる。彼らに直接返せぬ恩は、他者に五(りん)(105パーセント)増しで返すものでござるよ」

「そッスねぇ」


 翌週。

 空たち一行の帰還。そして緊急会議。

 議長はフォレストが担当する。会議には、大使アシュレイ、ちょうど休みに別荘まで来ていたピエリーナの両親(ジャコモ&カテリーナ夫妻)と武術の師匠ジェフリー(素材買い付け)も同席していた。

「サンティーエ共和国セラヴィの町での一件は信書を通して共有できていると思いますが、改めて状況を整理します」

 ギャング・ヘイヤンマオの横暴のせいでセラヴィは壊滅。町民の多くは逃げ出し、フォレストたちが訪問した時は領主すらその町を見限ろうとしていた。だがフォレストはその領主トリスタン・トワトル伯爵を建築に関するアドバイザーとして迎え入れ、残された町民のうち希望者はフォーマメント州がこれから開拓する村の住民になってもらい、それまでは陸軍や海軍に従事する、あるいは空もお世話になった新人冒険者向け雑魚寝宿舎で冒険者として生活してもらうことになった。

 これからフォレストが提案するのは、リゾート・イハトヴ従業員用宿舎の空き部屋を提供し、これから迎える冬の間にもできる開拓を進めると言うもの。それに対し「雪と極寒の中できることは少ないのでは?」と言う意見も持ち上がるのだが。

「ふっふっふ~ん。そこはサンティーエの職人さんから紹介していただいて、シュトラルラント王国『シュッツバルト群』のエルフ、『自称永遠の十七歳の美少女錬金術師アキラ・ゲンナイ』さんからいいものをもらってきていまーっす!」

 フォレストのその言葉に、アレットとひまりは「アイドルか」とツッコミを入れようとして全力で飲み込んだ。フォレストは構わず会議を続ける。

「『ログハウスキット』のパンフレットです。父の了承を得て『マツ』『タケ』『ウメ』のキットを一式ずつ、国の予算で購入を約束してきました。つきましてはキット到着し次第、開拓予定地に一軒ずつ建設し、満足いただけたら更なるキットの購入をお願いしたいと考えています。それと」

「それと? 何ッスか?」

「マツのさらに上のグレードとして『ヤクスギ』があり、このパンフレットをご覧いただければ分かる通り……、キットでありながらこの領主邸よりも少し小さいくらいのログハウスが建ってしまうんですよね。どうしますか?」

 それにはひまりが意見した。

「マツを建ててから検討いたしましょう。いずれにしろ村長宅や議会の場は必要になりましょうし、マツがその役目を果たせるのでしたら無理に購入する必要もございますまい。問題は予算。経営一年目のリゾート経営もトントン拍子と言うわけでもなく、冬を迎えれば宿泊客も少なくなることでございましょう」

 すると、空が「それです!」と叫んだ。

「空?」

「宿泊客の足が遠のくのは仕方がありません。であれば、『期間限定の別荘としてご利用いただく長期宿泊コース』を設定してはいかがでしょうか? そしてセラヴィの皆様には領主邸そばのキャンプ場を提供し、ここを拠点に生活していただきましょう」

「おお! よき案にござるな! あとはセラヴィの皆方の食料と娯楽を提供できれば」

「はい。コテージやキャンプ場が長らく使われなくなってしまう問題も解決でき、かつ安定した収入が見込めます。ログハウスキット大量購入のための予算が集まるかどうかは分かりませんが、少なくともイハトヴの利益にはなります」

「んッス。ちょっとチラシを作ってみるッスかね。ついでに宿泊客にも大量にお持ち帰りいただくッスよ。それが宣伝になるッスからね」

「ありがとうございます! あ、すみません。会議の方向がずれてしまいましたね。村の開拓に舵を切り直しましょう」

「なんのッス。開拓にもお金が必要ッスからね。お金と言えば、税制も考えとかなきゃいけないッス。そこは小規模な村の税制をベースに考えるとするッスかね」

 フォレストは更に大きな紙を貼り増ししてマインドマッピングの枝を広げてゆく。これは開拓の始まりが楽しみだ。フォレストの意気込みは高い。その様子を見て、空たちも互いを見合って笑い合う。楽しみなのは誰もが同じだ。

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