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二十七章 マインドマッピング ~何だよデカパイメイド!?~

 会議と食事が終わり。

 フォレストはリューンと共にロビーで勉強しているところであった。人目がある方がはかどるだろうと、城にいたころからフォレストは自室よりも食堂などで勉強することが多かった。

 そこに、旅館が用意した浴衣に身を包んだヴィントが声をかけてきた。

「お? お疲れ、モヤシ王子、デカパイメイド」

「あっ、ヴィント」

「あら、どうしたのかしら?」

「どうしたってことはないけどさ、寝る前に歯磨きと、サービスのお茶っ()を取ってくるように師匠に言われてさ。緑茶は寝る前に飲むといいらしいよ。師匠の遠征先のヤマト人が言ってた」

 そう言って、ヴィントは茶葉入りの缶をふたりに見せた。

「そうなのね。何がいいのかしら」

「ヤマトの『薬学錬金術師』の話だと、『カテチン』って言う成分が虫歯と息が臭くなるのを防ぐんだって」

 残念。カテキンである。

「おっ? ヴィント、それ最近習ったよ。カテキンには酸化(老化)、食中毒、疾病(いわゆる風邪など)とかの抑制に効果が期待されていて、味と香りにはリラックスの効果があるんだ。ヤマトってすごいよね!」

「だね。ヤマトだけじゃない、大岑帝国、『台華(タイファ)民国』、ヴィエナハム共和国とかエイゼル大陸の東側の国には健康にいい食材や調理が多いんだって」

「そうなんだね。リューン、僕たちも今日は寝る前に緑茶飲まない?」

 フォレストの提案に、リューンは「かしこまりました」と言って席を立った。

「ではお湯を沸かしてまいりますので、殿下はヴィントと一緒に勉強なさるとよいでしょう。お先に失礼しますね」

 リューンはヴィントが持つ茶葉の缶を預かり、一同が泊まる部屋へと向かっていった。

 ロビーに残されたフォレストと、立ち尽くすヴィント。

 茫然とするフォレストだが、ヴィントは頭を掻きながら「何言ってんだ」とつぶやく。

「お湯なら今頃師匠が沸かしてるっての」

「それならさ、せっかくだし話でもしない?」

「話?」

「うん。例えば今日までの解体現場での仕事のこととか、フォーマメント州に帰ったらどんな風に開拓を進めていきたいとか、思い出話やみんなの前でできない内緒話なんて、いいんじゃないかな?」

「ふーん? そう言うのをさっきのデカパイメイドや城の人とかとやってたんだ」

「やってたね。サンバー大臣とは夜中にベーコンをつまみ食いしながら」

「悪い奴め」

 そう言って、ヴィントはリューンが座っていた椅子に掛けた。

 テーブルの上には、ノートのほかにはヴィントが見たことのない教科書ばかりが並んでいた。

「そうだ。出稼ぎに出てから勉強止まったままだった」

「なら僕が教えようか? 課題で間違いなく高得点取れるものなら教えられるよ」

「それなら今度、フォーマメントに帰ったらお願い。でさ。解体現場の仕事どうだったよ。キャンプには慣れても、ああいう力仕事は初めてなんじゃないの?」

「初めてだったね。でも悪くはなかったかな。土方(どかた)の人と違って炊き出し中心だったし、リューンや炊き出し担当の人のフォローもあったし、何より城のお抱え料理人さんの大変さを少しでも知ることができたかな。ああいった仕事を城で働く人のために毎日こなしてくれているんだって思ったら、仕事って大変なんだなって思えたよ」

「だな。私も領主邸やイハトヴで働いてて思う。働くって大変なのな」

「うん。でもそれが誰かに必要とされて、働いただけ感謝されてお金ももらえる。働くのは生きるために必要なだけじゃない、誰かに必要とされる喜びを知ることなんだって思ったよ。サンクティス店長に声をかけてもらって、よかった」

「そっか。いい王様になるための勉強になったってことか」

「そうだよ、まさに。だからヴィント、ここで学んだことをレアガルドに帰って生かしていこう。そのために必要な知恵や力、貸してくれないかな?」

「ったりめーじゃん!」

 そうしてフォレストとヴィントは、しばしこれまでの労働環境やそこで思ったこと、そしてこの先のフォーマメント州の村の開拓について、意見を交換し思いを馳せる。壁掛け時計が午後9時を示したことに気付いたヴィントは、「先に寝てるな」と言って椅子を立った。

 髪と浴衣の裾を揺らしながら去ってゆくヴィントを、フォレストは静かな笑顔で見送った。

「ヴィント・フォン・リヒトホーフェン、かぁ……。素直で可愛くて猫みたいで、なんかいいなぁ……」

 そしてヴィントの小さな後ろ姿は、一行の客室に向かう廊下へと消えて行った。

 フォレストは勉強していたノートに目を落とす。だがその目には、勉強内容など映ってはおらず。

「王子と師匠のメイドじゃなくて、友達になれたらいいなぁ……」


 一同の客室、『竹の間1-5』。

 空とピエリーナは静かに緑茶を飲んでいた。

 色っぽいネグリジェ姿のリューンは、ヴィントを見やりながら「はぁぁぁぁぁ……」と盛大にため息を浮いた。

「何だよデカパイメイド!? 私に文句あんのか!?」

「文句があるのは殿下よ。もう少しカワイ子ちゃんと青春しなさいよ」

「は!?」

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