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第二十七章 マインドマッピング ~私が師匠を可愛がってあげるよ。~

 ところで、ピエリーナはサンクティス工務店の女性用社員寮の空き部屋を使っていたが、空たちが視察の旅から帰ってきた後は彼女らと共にヤマト式旅館『ホテル・ファミーユ』を使っている。経費節約のためにと五人全員で一部屋の契約だ。ちなみに、畳敷きの倭室である。

 夜、大浴場上がりのヴィントが帰ってくると、空は座布団にかけ緑茶を飲みながら美術に関する本を読んでいた。どうやら絵画や彫刻の写真とそれに関する美術評論家の意見をまとめたムックのようだが。

「……ヒトの裸。そんなのが本当に美術なの、師匠?」

「美術とエロティシズムの関係性。サンティーエに入国して初めて知った概念で学問です。しかし、人体に魅力を抱くことは生物学の上でも重要なことかもしれませんね」

「美術と生物学がどう関係するのさ」

「関係しますよ。リューンさんも言っていたエロティシズムですが、それは生命が子孫を残すために必要な本能なのかもしれません。我々もまた地球上に生きる生命体の一種であるならば、動物で言うところの交尾交配をしてより優れた子孫を残し続けて少しずつ進化してゆくのです。性に興味を抱く、それは生命として至極当然の感情なのかもしれません。しかしその感情がひどく歪曲し暴走した時、それは美術でも生物学でもなくなるのでしょう。記憶喪失のわたしには、もはや学問から未知のことを探ってゆくよりほかがなく」

 そこに、別の声が飛んできた。

「空さん、たまに羞恥心が壊れているのです」

「ピエリーナ?」

 どうやらピエリーナも風呂上がりだったようで、猫の着ぐるみワンピースを纏っていた。

「空さんが言うことは科学的観点からして正しいと思うのです。でも性衝動や性欲って言うのはそれを言葉にすることや行動に表すことは慎むべきことなのです。空さんは、自分の裸を他人に見られて恥ずかしくないのです?」

「……それは、まあ、恥ずかしい、ですね?」

「そう言うことなのですっ! 未知のことを勉強することは記憶喪失に限らず私にもほかの誰にも大切なことなのです。それでも慎むべきは慎むべきかと思うのです」

「確かに……。こうしてヴィントに自分の見解を述べていても、胸の奥がざわつく感覚は抑えきれません。話していて恥ずかしく思う気持ちは確かに……。なるほど、この胸のざわつきに苦しまずに済むために、慎むべきは慎み、それを人知れずひとりで」

「だーかーら! それを言葉にするのをやめるのですーっ! そこまで言っといて何が人知れずなのですーっ!?」

 真面目過ぎるのも考え物である。

「……師匠。この旅が終わったらさ、私が師匠を可愛がってあげるよ」

 性に関してはヴィントの方が余程大人である。(ブリッツ)がいるからだろうか。


 翌朝。

 サンクティス工務店。

 朝礼にて、カルパッチョ・デ・サンクティスが言った。

「さて、先週商談にお越しくださった『マキシ不動産』様の案件の契約が、先日締結されました。ご存じない方にも説明しますが、マキシ不動産様が担当なさっている『冒険者ギルド・エルメスカウンター』の新庁舎建造をご依頼いただいていた次第です」

 その言葉に、サンクティス工務店の誰もが「うおおお、大型案件だ!」と声を荒げて喜んだ。どういうことかが分からない空たちに追加説明がある。

「実は冒険者ギルド現庁舎には歴史があり、それだけ言うと聞こえはいいですがつまり庁舎の老朽化が激しいということです。そこで、火災で焼失した元大富豪の屋敷跡地に冒険者ギルド庁舎を建造する運びとなりました。

 これは大きいですよ。なにせクライアントのクライアントを辿ればサンティーエ共和国の冒険庁ですからね。この一件をこなすだけで、当店は半年遊んで暮らせるギャラを手にすることができるわけです。裏を返せば決して失敗できない案件ですので、皆さん心してかかるように」

 そこに、ピエリーナが質問した。

「今、金持ちの屋敷が焼失したとおっしゃったのですけれど、そんなところに公共事業の庁舎を建ててもいいのです?」

「その心配には及びません。何せ火災の原因と言うのが」

「言うのが……?」

「商売敵とのケンカの果てに、タバコの吸い殻かアルコールランプの火がカーペットに移ってしまったというものらしいです。ケンカの原因はその金持ちである事業者に逆恨みした同業者にあるということですので、立地条件だとか近隣トラブルだとか、そう言った理由はありませんのでご心配なさいませんよう」

「分かったのです。でも、逆恨みで暴力事件でタバコの火で屋敷全焼って、どんなにおバカな事件なのです?」

 誰もがコメントに困る。逆恨みと短気は損しか生まない。

「然もありなん。と言うわけですので、全従業員の皆さんにはもちろん、空さん、ピエリーナさんにも建築要因としてご助力いただき、ヴィントさんとフォレスト殿下にも炊き出しなどの軽作業を依頼させていただきます。メイドのリューンさんは殿下のサポートを。期間内はフォーマメント州に四人分のギャラをお支払いするものとし、ピエリーナさんに対しては廃材建材錬成受講料の相殺と、過剰分はギャラとしてお支払いしましょう。今日の昼から作業開始です。機材の準備を済ませたら、休憩するなり食事をするなり思い思いに過ごしてください。当然、アルコールは超厳禁ですよ」

 アルコールに関してこそ然もありなん。これから仕事なのだから。

「ではお言葉に甘えて、食べます!」

「師匠マジでブレねえな!?」

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