第二十七章 マインドマッピング ~そうして商売と建築の関係性が成り立つんですね。~
空とフォレストたちが各町を回って建築に関することを学んでいる間、ピエリーナは廃材建材の錬成方法をカルパッチョより学んでいた。
「ふむふむなるほど。錬金術は主に『つなぎ』の部分に使われるのです。各種薬剤を混ぜ込んで錬成炉で専用つなぎ材に錬成、それをチップ状にした木材に徹底的に混ぜ込んでプレス機にかけるのです。そのつなぎの材料とそれらの配合比率や調達方法などがまた……」
だがそうなると、プレス機が無ければ廃材建材は作れないということになるのだが。
「であればピエリーナさん、中古品の購入もしくはリースすればよいでしょう」
「リース、なのです?」
「ええ。つまり月々の機材代を所有者に支払うことで機材を使わせてもらえるサービスのことです。当店のこれらの機材も、もともとはリース品だったものを安く買い取らせていただいた経緯があります。いきなり大掛かりな装置を購入するのではなく、一度の出費が少ない中古品購入やリースから手掛けるというのもひとつの手段かと。あるいは当店から持ち帰った知識を同業者に提供することで利益を得る、プレス機を持っている業者に出た廃材を託してプレス加工してもらうなど、やり方はいくらでもあるでしょう」
「後の方はアリだとして、前の方もそれでいいのです?」
「同業者に知識を教えることで、誰かが開発した知識や技術を普遍的なものとし、業界全体のレベルアップにつなげるわけです。そうでなければ『特異な会社がひとつある』だけで業界全体の成長にはつながらないでしょう。そこから新たなる特異点が生まれ、さらにそれを広める。界隈の成長はそれで成り立っています。だからこそ、ピエリーナさんにはここで得た知識を広く普及させていただきたく存じます。あなたたちもこうして、我々に従事することを見返りに知識を得ているわけですから」
「……はい、分かったのです。よろこんで知識を広めさせていただくのです。でもその場合の相場っていくらになるのです?」
「そうですね。当店であれば、一度の勉強会にひとり十万ガルは頂いていますね。つまりピエリーナさんにはそのくらい従事していただきたいと思っていますし、錬金術とはそのくらい価値があるものであるということです」
プレス機の使い方を学び、その他建築機械の取り扱いに関する免状まで得るのだ。プレス機など大掛かりな機械を持たないピエリーナは、学んだことを帰って活かしきれない可能性が高い。そうならないためにはどうすればいいか、課題は尽きない。
「ではフォーマメント州と実家に連絡して、各種機械を持っている業者さんがいないか聞いてみるのです」
「そうなさるとよいでしょう。さて、この後の当店の予定ですが、って?」
「またなのです……」
ピエリーナが来てから「あの工務店に可愛い錬金術師がいる」と建築業界と錬金術業界の間で有名になり、ピエリーナはちょっとしたアイドルとなっていた。
「はいはーい、写真ならいくらでもご一緒するのです、『押さない駆けない喋らない』なのです! ついでに弊社のリゾートの案内と私の名刺を受け取ってほしいのです。せっかくなのです、カルパッチョ店長と商談のひとつでもしていってほしいのです~」
こうしてリゾートの宣伝とお世話になっているサンクティス工務店への売り上げにつなげる。その後、ギャング・ヘイヤンマオの襲撃と空の帰還、ギャング討伐が始まるのである。
ヘイヤンマオ討伐より三日後。
喫茶店『シャノワール』。
「『大岑の黒猫』は災いを呼びましたが、ここの黒猫はとてもくつろげますね」
「おう。嬢ちゃんたちが悪い猫を追っ払てくれたもんで、いい猫はこうして商売できるんだ。ありがとな」
「皆さんをお守りできたのであれば、何よりです」
シャノワールの内装は木の柱と漆喰の壁、照明は昔ながらのオイルランプ。マスターのこだわりとしてアークルヒーターではなくアルコールランプを用いてコーヒーを淹れている。サイフォン式と言うわけではなくドリップ式で、『火のゆらめきにはリラックス効果があるから』とのこと。
空がマグカップを置いて言う。
「さて、フォレスト殿下。セラヴィの視察は叶いませんでしたが、その代わりにこうしてトワトル伯爵にご助力いただくことになりました。ここからはトワトル伯爵も交えて会議しましょう」
フォレストとトワトルは改めて挨拶し、フォレストを議長としてコーヒーとサンドイッチを口にしながらの会議が開かれる。
「セラヴィの特徴だが、レンガ造りの堅牢な防壁と弩砲による防衛力だ。まあヘイヤンマオに突破された時代遅れの防衛力はさておき、建築においては『美』を意識している。
何も凝った彫刻や漆喰の装飾ばかりが美ではない。左右対称シンメトリーなのは言うまでもないが、線対称に点対称、『黄金比』に『ヤマトの白銀比』などの数学的要素、赤や青や白や黒などの色が人の心にもたらす色彩的要素まで様々ある。
だが開拓の話を聞く限り、自然の上に成り立つ大地だ、完全にシンメトリーに建築することは不可能だ。だったらセラヴィが提供できる要素は、細かな建築と彫刻の技術と、それから色彩とかだな」
「色彩、ですか?」
フォレストのオウム返しに、トワトルは「そうだ」と返して続けた。
「例えば、赤は気分を高揚させる。青は落ち着かせる。緑は癒す、白は清潔感を抱かせるが純白はかえって落ち着かない。黒は闇を連想させ不安に陥れるが『こだわりの強い職人が営む料理屋や工房』の外装としては御誂え向き、などだな。またレンガや木材などの素材の質感を生かすことも、壁はクロスを貼るなどして彩ることもできる。が、クロスにも様々な色や柄がある。それをしかるべきところに使わないと、みっともない家になるから気を付けることだ」
「確かに、玉座の間の内装をそのまま僕の部屋にしたら一気に落ち着かなくなりますね!」
「そういうことだ。内装から家具までしかるべきものを用意して施工する。『まさにセラヴィ、これぞ人生』と言うことさ」
「分かりました。ピエリーナさん、内装はアルケモートの職人さんにお任せしてもいいですよね?」
「それはもちろんなのです、殿下。フォーマメント州がアルケモートの職人に仕事を振ればそれだけ絆は強固なものになるのです。ついでに私の実家も儲かるのです」
「あれ? ピエリーナさんのご実家って靴屋では?」
「靴作りには接着剤も必要なのです。その接着剤を私の実家や各錬金術工房から買った内装職人さんがクロスを壁に貼っていけばいいのです」
「なるほど、そうして商売と建築の関係性が成り立つんですね」
話は進むが、ここでトワトルが内装に関して注意した。
「色彩のセンスに関してはアドバイスできる。だが装飾に関しては自国で勉強し直した方がいい。俺様はサンティーエ人、お前たちはレアガルド人。細かいところでセンスの違いがあるかもしれない。まずはレアガルドらしさを忘れない建築センスにしなければいけない。お前たちがサンティーエに勉強に来た理由は、主に建築に関するエコロジーのはずだ。まずはそこをしっかりと学び、どんな村にしたいかのコンセプトを固めなければならん。そのところ、プロジェクトリーダーである王子様はどう考える?」
「はい。これまで何度かここにいるメンバーで会議はしてきました。そしてセラヴィを訪問する前に訪問した町で命の循環こそが大事であると教わりました。これから開拓する村は、人々にとって暮らしやすいばかりでなく、自然との共生や命の循環を重きに置いた村にしたいと思っています」
「いい考えだ」
こうしてトワトルを交えた会議は二時間続き、それまでに一人当たりコーヒー五杯と軽食三皿を平らげてしまった。
「今夜の晩御飯、要らないのですぅ~」
「そうですか? わたしなら余裕で食べられますが」
「……本当に空さんの胃袋ってどうなっているのです?」




