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二十六章 冒険再開! ~鈀子拳。八極拳との関係は、果たしてあるのでしょうか……?~

 ピエリーナは二挺拳銃を構えた。

「かかってくるのです!」

「ナメやがって、ふっざけるなよ……! 死ね! 『鈀子拳(バ・ヅ・チュアン)』……」

「えっ!?」

 その男が繰り出したのは、まさかの技であった。

「『冲捶』!」

 ギャングのボスは一瞬にして、右拳を掲げてピエリーナとの距離を縮めた。

 拳が眼前に迫るも、ピエリーナは巧みなフットワークで回避。しかしその表情には動揺が色濃く表れていた。

 ――それは、空さんの八極拳!?

 攻撃が回避された鈀子拳。だがピエリーナの反撃を許さず次なる攻撃が彼女を襲う。

「『単鞭』!」

 右拳がダメなら左腕。そう言わんばかりにギャングのボスは左腕を振り上げピエリーナの右腕から拳銃を弾き飛ばす。

「やっぱりなのです! その武術は!」

「お? 知ってるのか、この武術を。そうさ、オレの名前は『凋猛焔(チャン マオイェン)』。『岩手(ヤンショウ)猛焔』の二つ名を轟かせたこともあったもんだ。オレに楯突いたらどうなるか、その体に教え込んでやらあ!」

 失った拳銃を拾っている暇はない。ピエリーナはカポエラとタップダンスで鍛えたフットワークでギャングのボス・猛焔の攻撃をかいくぐるのだが。

 ――バ・ヅ・チュアン!? まるっきり空さんの八極拳なのです! しかも鋭く素早く重い。一撃受けたら私なんて簡単に吹っ飛んじゃうのです。でも見知った技だから対処もしやすいのです。次に来る技は!

 来た。

「鈀子拳、『掄砸(ろんそう)』!」

 それは腕に遠心力を乗せた技である。猛焔は振り回す左腕でピエリーナの左腕の軌道を拳銃ごとそらし、ピエリーナの頭上に右拳を振り落とそうとしていた。

「ひゃーっはっはぁ!」

「読めたのです!」

 ピエリーナは胴をひねるようにして上半身を急激に移動させ、猛焔の右拳を回避した。そして繰り出すのは。

「カポエラ応用技、『二重旋回アルマーダ』!」

 かつてアッシュランド州アリュールにてカリオストロ協会のソルトに見舞ったハイキック、そのオリジナル進化技が炸裂。それは猛焔の右拳をかすめて猛焔のあごに二発とも命中。彼は天井を見上げながら崩れ落ちた。

「げぶぉ……!」

「ふぅ。……空さんの八極拳に似ておきながら、強さは空さんには及ばないのです!」


 翌朝、ヘイヤンマオ使いっ走りの冒険者の敵陣制圧報告を受けた冒険者ギルドが駆け付けてみれば、猛焔以下大岑ギャングの一同は誰ひとりの例外なくパラコードにて両手両足を縛られ正門前に積み上げられていた。さすがに冒険者の装備では運べないので、陸軍の護送用トラックに放り込み、そのまま刑務所へ。

 ヘイヤンマオに使われていた冒険者たちの沙汰だが、「我が軍も手をこまねいていたのだ、諸君らだけに責を負わせることはできない」とし、軍としては冒険者をお咎めなしとした。それでも冒険者たちは罪の意識から逃れることはできず都民たちも納得できなかったため、拉致及び性暴力被害女性全員からビンタを受け冒険者ランクを最低であるFランクに降格するという扱いに処された。

 だが空にとっては、事件はそれで終わりではなかった。


 陸軍エルメス分隊刑務所。

 同・猛焔の独房。

「……何でえ」

 囚人服を着せられた猛焔の前には、鉄格子をはさんでアオザイ姿の空がいた。

「あなたたちは、と言うよりあなたは何者なのですか? ヘイヤンマオの成り立ちとあなたの過去を、わたしは知りたいんです」

「それがどうした? お前に俺を取り調べる権限でもあるのか?」

「ありません。しかし、あなたの武術には気になるものがあるのです」

「オレの武術だぁ? まあ、別に隠すことなんぞ何もないが……。オレは大岑帝国北方の田舎町出身だ。一時期は傭兵部隊にいたこともあり、そこで鈀子拳を習得したんだ。だがある時、俺たちは護衛対象のカネと荷物を盗んだ疑いをかけられ、証拠が出ていないにもかかわらず罪が確定してしまったんだ。当時の傭兵部隊のメンバーのうち脱獄できた連中で組織したのが黒眼猫だ。そこから先はゴロツキや様々な落伍者が集まって今に至る、ってわけだ」

「なるほど。ギャングでありながら一瞬とは言えピエリーナを圧倒するほど戦えるのはそう言うことですか。では、あなたが習得した鈀子拳に、『八極拳』と言う別名はありませんか? それと、わたしの名前は呉空と言いますが、『呉と言う家名』に覚えは?」

 空は手帳を取り出し、「八極拳」「呉空」と書いて猛焔に見せた。

「知らねえな。しかし何だその御大層な流派の名前は」

「ご存じありませんか。ではもうこれ以上あなたに用はありませんが」

「が?」

「あなたは最初からギャングではなかったと言うことを聞けて、少しは嬉しかったです。罪を償い心を改めたなら、Fランク冒険者からやり直すことをお勧めします。それでは」

 そう言って、空はアオザイの裾をはためかせて猛焔の前から去ろうとする。

 そんな空に、猛焔は言った。

「そんなにオレの武術が八極拳なる武術と似ているってなら、いつかオレの故郷を訪ねるといい。大岑帝国の『砦北省(さいほくしょう)霜州(そうしゅう)』と言う。田舎は実り豊かでいいところだが『省議会』は腐ってやがる。そこで冒険者やるなら、お偉方からのクエストだけは絶対に受けるな。オレのようになる」

「それは……ッ! いえ。貴重なお話とご忠告を、大変感謝します」

 そして空は右拳を左手に添える『拱手』であいさつをし、今度こそ刑務所を去った。

 帰りの道中、空はその名を何度も繰り返した。

「鈀子拳……。八極拳との関係は、果たしてあるのでしょうか……?」

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