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二十六章 冒険再開! ~命と資源とアークルの循環を大事に。これが開拓の秘訣なんですね。~

 次なる視察先、『セルクルの里山』。

 セルクルは南に大河、北に深い森のある『セルクル山(大きなカルデラが由来)』を持つ村である。

 村長の老人『ジョルジョ・スィ・ヤンス』が村を案内した。

「ここはそりゃあ昔から続く村でな。この森では素晴らしい木の実が採取でき、土壌もよく、いい木の実や木きをかじり豊富な昆虫を食って生きる動物や鳥たちが多くてな。この村は『循環』によって成り立っているんだ」

「循環、ですか?」

 フォレストのオウム返しに、ジョルジョはうなずいた。

「里山の開拓と家屋修繕、家具作りのために木を()り、その木を昔より苗木から育て、『食物連鎖』のバランスを保ち、作物をダメする害虫を鳥たちに食べてもらい、害なさぬ虫を邪険にせず、ミツバチを育て、そのミツバチに果物を育ててもらい、ほんの少しのハチミツを分けてもらい……。こうしてわしらはたくさんの虫と動物と共に暮らし、彼らを狩ることとで命をつないでいるのだ。わしらを生かしてくれているこの森と川への恩恵を忘れてはいけないということだな」

 すると、空はひとつ思い出した。

「フォレスト殿下。わたしは冒険者としてデッドデザートを渡ったことがあります。死の砂漠などと言う恐ろしい名で呼ばれながら、そこでは小さな命が必死に生きていました。時に人間が出したゴミなどの不要物を食べて砂漠の動物たちは生き、次に訪れた人間がそれを狩って食べるのです。命の循環は、どんな環境でも作り出せるということかもしれません」

「そうなんですね、空師匠。命の循環ですか。……でも、ここは盗賊対策を得にしていないように思いますが」

 そう疑念を抱くフォレストに、ジョルジョは答えた。

「そんな自分本位の者、ここで長く暮らせるわけがなかろう。一方的に略取しようとしても保存のきかない(なま)ものに下ごしらえが必要な食材の素材。奴らにとっちゃ何の得にもならんし、仮に攻め込まれたとしても『まぁこれでも持ってけ』って酸っぱいミカンと渋い柿でも渡しておけばいいのさ」

「なるほど。この里山が大事にしている循環から外れた自分勝手な輩には手を出した時点で天罰が下りそうですね」

「どれ、一同。今日はここに泊まっていきなされ。『ハチミツパンケーキ』は、この村の女衆の大好物でな」

 それはとても甘そうだと空は一も二もなく飛びついた。

 その日の夜は、パンケーキのほかには川魚の塩コショウ焼きに山菜と猪骨のスープにイノシシ肉のステーキ、デザートにピーナッツ豆腐(太陽国のジーマーミ豆腐と同じ素材と酷似した製法)に『魚醤』をかけた冷ややっこが用意された。科学技術に由来する道具や機械が乏しい里山では質素なものが出て来るかと空たちは思ったが、まさか里の恵みを昔ながらの加工法でおいしく頂けるとはと感動が止まらなかった。ジョルジョたち里山の村民は、空やフォレストたちの食べっぷりを見て「もっと食え、感動を祖国で広めてくれ!」と食べ終わってもなお進めてくるあたり、空は「太陽国のカメーカメー包囲網(食堂)のようです」と思った。


 翌朝。

 フォレストが旅の一同を集めた。

「皆さん、今日の日程の確認です。

 カルパッチョ・デ・サンクティス店長の紹介でこれまで工務店とご縁のある三つの町や村を巡ってきましたけど、次の町が今回の視察の旅の最後となり、視察が終わり次第サンクティス工務店へと帰投します。今から撤収にかかれば、今日の昼過ぎには次の目的地に到着できるはずです。体調に不調のあるかがいらっしゃれば、ご遠慮なさらず今のうちに申し出てくださいね?」

 だが誰もおらず。

 一同はキャンプ設備を撤去し、村の人々に感謝と別れを言って最後の町へと旅立った。


 その昼。

「見えてきましたよ、殿下。ご覧ください。立派な町です」

「うわぁぁ……っ!」

 後部座席から前のめりになるフォレストの目に飛び込んできたのは、立派な門と、その左右に伸びるレンガの防壁。やぐらには弩砲が備え付けられ、砲撃手と弓兵隊が警備している。城門にも門番がおり、どうやら保安庁分隊員がその任についているようだ。

「町の名を『セラヴィ』。名前の由来は、サンティーエ人がよく口にすると言われる『|C’est la vie 《これが人生だ》!』と言う慣用句だとされているようです。人生を表す一文(いちぶん)のようにここには生きるためのすべてが詰まっていると、カルパッチョ店長はおっしゃっていました。が……?」

 空の「が」、の後をリューンが続ける。

「あれが人生なのかしら」

 門番は門柱に背中を預けて居眠りし、空たちを身元確認もせず通し、セラヴィの町の人々は昼から酒に酔って大通りに伏せ、居酒屋では大の大人たちがケンカ騒ぎを起こし、子どもたちは茶碗を持ってカネを乞い、貴族と思われる者が一頭の馬が引く小さな馬車に乗って空たちがくぐったばかりの門を出ようとする。

「お嬢ちゃんたち、旅人かい?」

 目はうつろで言行もなかなか粗暴。御者を雇う金もないのか、貴族が馬の手綱を握りながら空たちに尋ねた。ちなみに馬車の中には荷物がいっぱいである。

「まあそんなところです」

「悪いことは言わん、ここはよしときな。カネなんて銀行にさえ一ガルも残っちゃいねえ、滅亡待ったなしの町だ。おかげで盗賊も麻薬の商人も誰も寄り付かん」

「麻薬の売人は容赦なく罰するところですが、一体何があったんですか? お金ならわたしが出します。近くの居酒屋でお話でも」

「やめろ。毒を盛られて殺されて有り金みんな持っていかれる。明日にゃお前ら、ブタの餌だ」

 その言葉に、空たち一同は酷く戦慄した。

「まあちょっとだけなら話を聞かせてやる。俺様は『トリスタン・トワトル』。この町の領主で伯爵家家長だ。それでもご覧の通りこの町を見捨てて逃げる理由だが、この町に居座った『黒眼猫(ヘイヤンマオ)』って大岑ギャングがこんなありさまにしちまったのさ。この世の天国のつもりで爺さんが開拓してここまで大きな砦のある町にしたってのに、たった半年ギャングが居座ってこれよ」

「そうだったんですね。それで、ヘイヤンマオは今どちらに?」

「知るか。三日前、西に向かって旅立ったよ」

「西、ですか……。ちょうど我々も、この町の建築について学んだら西にあるエルメスに帰ろうとしていたところです。トワトル伯爵、我々にご同行ください」

「……え? じゃあお前らが、あの信書の」

「車へどうぞ。まずは、この町をこんなありさまにしたギャングを殴りに行きます。皆さん、フォレスト殿下!」

 空の決断に、真っ先にフォレストが頷いた。

「もちろんです、空師匠。国は違えど、善良な民をこのような目に合わせる者には法の裁きと正義の鉄槌を下すべきでしょう!」

 そしてヴィントとリューンも。

「師匠、ここでやらなきゃ八極拳の名が廃っちまうよ!」

「それに、ピエリーナやカルパッチョ店長、そしてエルメスの皆さんが心配です」

 護衛の冒険者たちも。

「護衛とは別にギャラがもらえるなら、いっちょ戦ってやってもいいぜ?」

「ああ。拠点のエルメスが潰されたら、俺らも困るからな」

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