第二十六章 冒険再開! ~殿下、非常に勉強熱心でいらっしゃいますね。~
そして空たちは大検を腰に下げる衛兵レヴァンティンに村を案内された。
レヴァンティンの案内で知ったムスペルハイムル村の次の通り。
空たちが通ってきたような道はムスペルハイムル村を囲む森にいくつかあり、村から森に入るための門は構えられているが、森の外から村に向かうための道に続く門が構えられていないのは盗賊対策である。その代わり、村民や賓客が迷わないように森の中に小さな見張り台が備え付けられており、害獣よけのための線香や罠が欠かせない。
さて盗賊に攻め入られたり火災が起こったりなどの危機に見舞われた際は、人の命以外の何を捨ててでも湖に集合し、手漕ぎボートで避難するという方法を取っている。しかもパドルはわざと扱いづらい構造をしており、盗賊の手にボートが渡ってもそう簡単に追いつけないようにするためだ。
その後、盗賊が村を捨てるか火災が収まるまで人々は村から少し離れたほとりにある『隔絶された食糧庫』で命つなぐのだが、その食糧庫の形状や所在地は完全極秘である。それができなくなった場合は湖から続く川を下るのだが、途中で滝があるためボートを持って移動することになる。この『自然の砦』も、ムスペルハイムル村を盗賊から守るための要である。
村はほとんど自給自足。養蚕業もしており、絹糸やそれを編んだ組み紐や布などをエルメスの都に売りに行くこともあると言うが、その際は盗賊を警戒して夜間の移動に限定している。とにかくこの村は、小さい一方で食料が豊富であることはもちろんこの村の成り立ち(大昔の戦火から逃れた人々が開拓したという経緯)もあり、生存のための戦略は絶対におろそかにできないのである。
すると、空は思った。
「フォレスト殿下。確か勇者アルス・ライトアームズさんが領地としてお持ちの『ライトアームズ州』ではムスペルハイムル村と同様に養蚕業が盛んです。アルスさんに師事して我が州でも養蚕を試してみて、できるなら継続、その結果市場にあふれて値崩れしてライトアームズ州に迷惑をかけるようであれば廃止、ライトアームズ州と共同でできる事業があればアルスさんに相談、と言うのはどうでしょう?」
「分かりました、空師匠。メモするので待っててくださいね……」
フォレストは『フォーマメント州村開拓備忘録』と題した手帳に空のアイデアを書き留めてゆく。色のついた付箋を巧みに使うことで、これまでレヴァンティンから聞いてきたことと身内の意見とを区別してまとめるようだ。
すると、レヴァンティンが意見した。
「どうだろう、客人たち。我が村の収穫を手伝ってくれたら、米や干し柿などの保存食と、一日分の野菜を謝礼として支払いたい」
「分かりました。わたしとヴィントは収穫のお手伝いをします。皆さんはどうしますか?」
リューンは「殿下に何かあってからでは困りますので」とフォレストの収穫手伝いを見送らせ、その代わりにふたりで大勢のためのスープを作ってねぎらうことに。だが結果フォレストにとってこれがよかったようで、この村で育てている野菜や果物を片っ端からメモしていった。結局、スープづくりは全てリューンが担当した。冒険者たちは「護衛とは別に駄賃になるなら」と快諾した。
この日は一晩ムスペルハイムル村の村長邸横の物置小屋でキャンプし、翌朝駄賃代わりの保存食と野菜をもらって村を出た。空は「貴重な話が聞けて良かった」と曇りない笑顔でハンドルを握るが、「王族相手に物置はねえだろ、田舎だな」と冒険者たちは呆れ気味だった。
「仕方ないですよ。あの村はなかなか警戒心が高く、お客さんを寝泊まりさせるスペースなんて最初から考えてもいなかったでしょう。僕なら大丈夫ですので、僕の代わりに怒らないでくださいね?」
「王子様がそう言うなら、分かったよ。けどこっから先も田舎を回るなら、キャンプや野宿も覚悟しろよ。豪邸暮らしが大丈夫か?」
「おっ? 王子だからって舐めないでください。これでもひと通り訓練はしてきましたので!」
フォレストの言葉に、それは頼もしいと冒険者たちは笑う。
次なる視察先、『ジャンヌ聖堂村』。
『聖人ジャンヌ』を祀る厳かな聖堂が立つ農村だが、盗賊団対策など一切していない。




