第二十五章 修学旅行は隣国へ ~村開拓プロジェクト発足です。~
フォーマメント州。
リゾート・イハトヴでは秋の味覚を提供中。イハトヴ男性従業員が大鍋を乗せたカートを押してコテージを回る。
「お客様。こちらは『マツタケ汁』にございます。是非ご賞味あれ」
実はフォーマメント州北東部には『アカマツの森』があり、それを発見したことでひまりが「マツタケがあるのでは?」と探し回ったところ見事に的中。ヤマト遠征時に林業家からマツタケの採取方法を尋ねており、ヤマトから帰ったあとは以前よりも効率よくマツタケが採取できるようになっていた。
「では一杯頂こうか。お幾らだ?」
「はい、一杯五百ガルでございます。お好みでギネー草とグルテンマシュマロもどうぞ」
ギネー草は薬味また彩りとしてわずかに散らす。グルテンマシュマロとは『麩』のことである。
「よき香りだ。味はどれ……。うん、何と香り高い! この水筒にもくれ。二千ガルあれば足りるだろうか」
「ご高評ありがとうございます。洗浄いたしますので、お預かりいたしますね」
「そのようなサービスもしてくれるのか、ありがたい!」
従業員の男性は客の水筒を預かると水で内部を洗ってすすぎ、飲み口を拭い、水をカート備え付けのドレン管に流し込む。水筒のボディーも拭きあげてマツタケ汁を注げばサービス提供として完璧だ。
「心配りが大変細やかだ。ありがとう」
「ありがとうございます。何かございましたらまたお申し付けください」
マツタケ汁が高評であることを確認したひまりは、態度には出さないが心の中で大喜びしていた。
「さて、本日のこれからの予定でござるが、空?」
「はい。『例の件』でライノック陛下がお越しとのことです」
そう話していると、やってきた。
常連のリゾート利用客は、以前なら王家専用馬車が通るたびにかしこまっていたが、ライノックが「よいよい、吾輩も客人だ。寛げ」と言うものだから今では気にした風でもない(イハトヴの外に出ればその限りにあらず)。
ライノックとリューンは馬車を降り、領主陣四人、大使アシュレイ、メイドのヴィント、嫡男フォレストが彼らを出迎えた。
「ようこそお越し下さいました、ライノック陛下」
「お待ちしておりました、父上」
「すっかりその出迎えが定着しているな、空。なかなか様になっているぞ、フォレスト。さて、今日からよろしく頼もう」
そしてリューンが前に出て言う。
「皆様。この度フォレスト・レアガルド殿下の教育係として殿下のおそばに置かせていただきます、リューンと申します。これまで城勤めが主であり、リゾートでの従事においては皆さまに迷惑をおかけすることも多々あるとは存じますが、誠心誠意精進に励む所存でございますれば、何卒よろしくお願い申し上げます。また殿下におかれましては、『陛下からのおさがり』でさぞ残念なことでしょうが、ご容赦くださいませ」
「何が!? 何を!?」
ライノック付きのメイドとしては何度か会ったことがある空たちだが、この時初めて理解した。リューンは人をからかうのが好きなのだと。
領主邸ホール。
第二回フォーマメント州『村(仮)開拓会議』。
議長はアレットが担当した。
「陛下のおっしゃることは分かったッスが、自分らは普通に、そして普通の人材も村民に迎え入れたいと思っているッス。拉致被害や奴隷扱いされて苦しんでいる人を救うのはやぶさかではないッスが、ヴィントと一緒に救済した『出稼ぎ労働詐欺被害者』の半数が帰郷を望んだように、迎え入れた人が定着しないことも考えられるッス。まあそれは本人の意思次第なんで、こちらから定着・定住を強いることはできないんッスよね。なもんで、これから開拓しようとする場所を難民村ではなく、ただ単に『村』と呼ばせてもらうッス」
「それは異論ない。会議の進捗を聞かせてもらおうか」
「了解ッス。ではここから先、プロジェクトリーダーのフォレスト殿下にお任せするッス」
議長をフォレストに交代。超大型水反応紙を貼りつけたホワイトボードに、水を含ませたペンを走らせる。
「プロジェクトリーダーのフォレスト・レアガルドです。現在、村を開拓するにあたり次のことが提案されています」
・村は湖の下流の東側(イハトヴのすぐ南)、川沿いに開拓。
・木材は森を間伐することで得られた間伐材を使う。
・村に水路を引く。
・食料調達と村としての事業は、川での漁業、林業、農業、畜産を考えているが、それには専門家を呼ぶ必要がある。
・そのあてとして、かつて空たち一行が助けたレッドフォート州から逃げ出した盗賊たちを頼る。もし彼らがアンダーウッド村にたどり着き罪滅ぼしの生活を続けていたら、元農家である彼らを頼れるかもしれない。
そして。
「錬金術による建材製造です」
・廃材レンガを使って堅牢なレンガ住宅を作る。
「どういうことだ?」
「はい、父上。まず木材の製造では、どうしても樹皮や不必要な端材が出てしまいます。また木材乾燥工程で虫に食われる、腐ってしまう、などのことが起これば、その木材は使い物になりなくなります。枝など最初から使えません。
そこで、それらの端材を細かいチップ状にして樹脂と混ぜて圧力をかけ、板状にして壁にする、ブロックにしてレンガとして使う、型に詰めて彫刻にする、などの方法が用いられることがあります。また、そこに錬金術素材を混ぜることによって耐熱性、難燃性、剛性などを獲得することができるようです」
「そんな技術が? 聞いたことないぞ」
「はい。この『廃材建材』の錬成法は、アルケモート錬金術商工会と取引をしているサンティーエ共和国所在の工房にあるからです。先の戦争ばかりに目が行きがちなサンティーエですが、かの国は彫刻や絵画と言った美術に造詣があります。建築と美術の方面の錬金術研究が盛んな国でもあり、ゴーレムやホムンクルスを戦争登用してしまったことでいい印象を持たれませんが、戦争に使われた弾薬はもともと鉱石採掘用・老朽化建築物解体用炸薬として販売されていたものであり、国民の皆様は比較的穏やかです。僕も一度そのサンティーエの営業さんに会いに行きましたけど、レアガルド人とあまり変わらない人でした」
「そうか。であれば問題なかろう。それで、このフォーマメント州もその錬金術と廃材由来のレンガを使おうと?」
「そう、思ったのですが……。ピエリーナ?」
フォレストはピエリーナに話を振り、ピエリーナは立ち上がって述べた。




