プロローグ ようこそフォレスト! ~殿下を呼び捨てにするのは全力でお断りします!~
季節は秋の始まり。
フォーマメント州、リゾート・イハトヴ。
空とひまりがヤマトまで遠征している間、アレットとピエリーナおよび取締役が務めたことは、横暴貴族に破壊された施設の復元と既存のサービスの質の向上である。
警備用ゴーレムであるソメイヨシノは、施設復元のほか試乗アトラクションとして採用され、それを機にイハトヴのマスコットキャラクターとして定着してしまった。遠征出発前のひまりは「警備用ゴーレムにござる故、美観を損なうと思って湖に隠していたのでござるが」と言うが、経営陣の半数とライノックから「もったいない!」と怒鳴られてしまった。
ところでピエリーナはきちんとゴーレム操縦の訓練をひまりから受けており、貴族襲撃の際は無免であったが緊急措置として起動させ、空とひまりの遠征中にきちんと免状を取っている。
イハトヴ各施設の修復も終わり、従業員寮も第三棟まで完成。まだまだ従業員を受け入れられ、もう少しサービスの数や人員を増やそうかと思っていた矢先、ある話が持ち上がった。
それは、ライノックが息子フォレストを連れてイハトヴに訪れた時のこと。
フォレストがヴィントと八極拳の套路をこなしている間、その様子を眺めながらライノックが空に持ちかけた。
「えっ? 殿下をここに、ですか?」
「そうだ。ここにいる間は殿下と呼ばず、ただフォレストと呼んでイハトヴに従事させたい。教育係もつける。どうだろうか」
「殿下を呼び捨てにするのだけは、どうかご勘弁を!」
話は次の通り。
フォレストには学校のほかにも城での勉強や次期国王としての修学もある。そのため八極拳の修業のたびに隔週日曜日にイハトヴに通っていては時間も交通費も一気に消費する。であれば、勉強は城の教育係だけに任せて勉強と八極拳修行と同年代の少年少女との交流にフォレストのすべての時間を使いたいとのこと。また、イハトヴで働くことで城の外の世界を見ることができる良い社会勉強にもなる。
だが、王子が新米貴族の開業したてのリゾートでほかの従者と肩を並べて働くのは外聞がよろしくない。そのため、領主邸のそばに『王家の避暑地』を新たに建て、ライノックたちがいつ訪れてもいい体制を整えつつフォレストを従者付きでそこに住まわせ、フォレストには『新事業のリーダー』と言う立場を与えるのである。
「なるほど、従事させるというのは新事業のリーダーに任命するということですか。陛下はこのイハトヴに新しいサービスをご提供くださると言うことでしょうか?」
「厳密には違うがな。貴卿らはせっかくこの湖水地方をまるっと手に入れたのだ、未開拓の地域も開拓しない手はない。そこで未開拓地の開拓を新たなる事業とする」
「計画はあるのでしょうか」
「無論だ。ヴェイダー(元侯爵)の一部領土をフォーマメント州に組み込み空港として開発することはすでに決まっているが、それは二宮の飛行器が実用化されてからの話になり、ピエリーナに振った仕事が本格的に動き出すのもその後になるだろう。そこで、ピエリーナとフォレストを共同プロジェクトメンバーとし、フォレストには人を動かすための仕事を担わせたい。そのための事業こそ、『村の開拓』だ」
空は懐から手帳を取り出し、ペン差しから万年筆を抜いて「詳しくお伺いします」と言った。
「先日ヤマトに赴いた際、貴君らは『蝦夷国/アイヌモシリ』まで足を運んだであろう。その歴史は、純粋に農業や酪農をしたい者、本土での悪徳大名から逃げてきた者、犯罪者たちの移住先や逃亡先に選ばれるなどし、一部の侵略勢力が強引にアイヌモシリに押しかけ勝手にヤマトの領土扱いして蝦夷国と呼ぶに至った。
その歴史はどこかアルビオン諸島王国連合の『旧王制時代の圧政』に苦しんだ者たちが新大陸に渡り行った『旧メリクス荒国の開拓』に似ている。
その類似点とこのイハトヴの人員調達の背景の類似点を見出し、ここを『行く当て無き者の安住の地』としたい。そちらからしてみればあまり愉快な話ではないかもしれんが」
「どういうことですか?」
「ここでの従業員は皆、行く当てのない者を貴卿らが拾った形だ。ゴーレム暴走事件で職を失ったパワードの元従業員たち、奴隷商などに人生を奪われた犯罪被害者たち、そう言った者たちを救済し、雇用することでこのリゾートは成り立っている。そしてイハトヴとは、ヤマトの文豪が小説の中に登場させた『理想郷』に由来するそうではないか」
「そうですね。フォーマメント州と言いリゾート・イハトヴと言い、ひまりのネーミングセンスは抜群です」
「であれば、ここをまさに理想郷のような場所にしたい。そのための資金は国が出そう。我々は金銭面以外ではこれ以上の犯罪が増えぬように『保安機構と軍備』を強化し、我々の力及ばぬ場合はこのフォーマメント州の協力を仰ぎたいと言うことだ」
「そう言うことであれば、委細承知しました。領主陣による会議を開き、開拓案を進めましょう」
「その領主陣会議に、できればフォレストも混ぜてはくれなかろうか」
「あ、そういうお話でしたね。無論、喜んで」
その日より三日かけて、レアガルド王家避暑地(別荘)建設と『難民村(仮称)』の開拓案が会議された。しかし村の開拓には知恵も知識もない四人である。土木業『株式会社チーム・ハギワラ』の代表『ダイスケ・ハギワラ(ヤマト名:萩原大輔)代表取締役社長』を招いて草案をまとめた。
そして今回のプロジェクトの中心人物であるフォレストが、今回の会議に集まった議員一同に挨拶をした。
「この度マネージャーに任命されました、ライノック・レアガルド国王が嫡男フォレスト・レアガルドと申します。難民村開拓に際しまして、何卒ご助力のほどよろしくお願い申し上げます!」




