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エピローグ 旅団の帰還 ~だと言うのに、帰ってきた気がしません!~

 フォーマメント州湖水地方、リゾート・イハトヴ。

 アルスも遊びに来ており、空たちはアレットとピエリーナにも土産話を聞かせる。

「はぇ!? なんッスかその引きこもりツートップは!? そんなんでヤマト大丈夫なんッスか!?」

「……正直それはわたしも思いました。しかしその引きこもりにも理由があって、信音公は頭の固くしかも『ブラック企業のパワハラ上司』のような家臣のせいで仕事のノルマを底上げされてグロッキーに陥り、歴代女皇は政治にはあまり干渉せず神々に祈りを捧げる日々なのだそうです。しかも伊織陛下はアークルの波長を調整することで人の心を読むことができ、人の醜い面ばかりを見てしまい、ひどい人間不信に陥ったというレベルでして」

 伊織の能力に関して、「領主のお仲間だけになら暴露してもいいよ~。でも絶対に秘密は三途の川の向こう岸(死後の世界)まで持って行ってね~」と伊織に言われている。ヤマトの機密、どこまで緩いのかと疑いたくもなる。

「あー、素直を通り越した純粋な人とは別のベクトルで『本音と建前が通用しない』タイプの人間ッスか。確かに、秘密にしておきたいことや人につきたくても我慢している悪態を全部暴かれちゃこっちとしても不快ッスし、その悪態が自分や自分に親しい者に向けられていると知ればその人も人間不信にもなるッスよ」

「ええ。まあ、だからこそサイコロの旅で無茶苦茶な旅を楽しみたかったのでしょう。人の悪意はさておき、ご当地グルメの美味だけはウソをつきませんからね」

 すると、ピエリーナが言った。

「それでも話を聞いていると、女皇様は『どこか人間不信になり切れていない感じがする』のです」

「人間不信になり切れていない、ですか?」

「はいなのです。人の醜い面ばかりをその能力で見せつけられ、祈りを捧げる日々とは関係なしに引きこもりになった。でもお殿様(信音)のことは親友って呼んで親しみ、空さんたちに人の心を読める能力を無断で暴露されてもお殿様を怒鳴らず、それどころかヤマト各地のグルメをめぐるサイコロの旅に連れて行く、根っからの人間不信がそんなことするはずがないのです。たぶんなのですけど、『少なくてもいいから心から信じられる人が欲しい』のではないのです?」

「なるほど、そう言うことですか。わたしもこの人本当に人間不信なのかと何度も思ったものですが」

 ひまりも続く。

「しかしサイコロの旅か。いつまでこんなことが続くのかと何度も思ったものでござるが、よき思い出も増え、見分も広がり、今度はサイコロなしにしてピエリーナたちをヤマトに招待したいと思った旅でござった。このリゾート・イハトヴの経営に大きな余裕ができたら、今度は拙者と空が案内役となり、この四人で楽しむと致そう」

 こうして一同は盛り上がる。

 一方で、忠八の飛行器模型の販売に関する権利だが、それについてはアレットたちやアルケモートのブランシュ・ローリエ(ローリエの工房の店主)がまとめており、飛行器の商標に関する権利や製造に関するレギュレーション、権利所有者である忠八(二宮航空力学研究所)の取り分などにもきちんと納得し、忠八は判を押した。

「これで僕の飛行器をこの国に託すことができる。我々は会社に戻り、今度は乗り物としての飛行器を世に出していきたいと思う。ミス・ブランシュ・ローリエ、今後ともよろしくお願いいたします」

「こちらこそ、よろしく~?」


 その時、領主邸のドアが開きライノックが現れた。

「これは皆の者、お集まりで」

「陛下!? どうしてここに!?」

「どうしてって、空。息子の八極拳の修業の続きをまたお願いしたいのだよ」

 ライノックのそばには、第一王子フォレストがいた。

「よっ、よろしくお願いします、呉空師匠!」

「そうでした、もうひとり可愛い弟子を取っていたのでした。はい、こちらこそよろしくお願いします。せっかくですし、ヴィントもどうですか?」

「おー! 先輩として怠けてるところは見せられないからな。一緒に頑張ろうな、モヤシ王子!」

「うん、ヴィント。後輩としてこれからもよろしく」

「と言うわけで、アレット。土産話の続きはまた今夜に」

 だがそうはいかなかった。

「おーい! 来ちゃったよー!」

 何とライノックの後ろには、皇族専用馬車が停まっていたのである。

 そこから降りてきたのは、専属の護衛を連れた萌桜院伊織と、「げんなり」した様子の織田信音であった。

「伊織陛下、信音公! どうしてこんなところへ!?」

「こんなところって遜(へりくだ)っちゃあいけないよ、社長さん。いやあ、やっぱり空ちゃんたちとのお別れが寂しいのもあるけど、リゾートを経営してるってのを思い出したら行きたくなっちゃってね。ねー、信音ちゃん?」

「うるさいわ。実のところ上皇様の折檻が地獄過ぎて煉獄過ぎて逃げ出してきたんじゃろが。そんなことばっかりして、今度帰国した時には先日まで以上の大折檻が待っておるぞ」

「しーらない。あんな『親ガチャハズレ』の毒親なんて」

 親不孝なんてものではない酷い言いようだ。

 そんな信音と伊織に、ライノックは跪いて挨拶した(立場は対等だが、背丈に差がある)。

「これはこれは織田信音公、萌桜院伊織陛下、ようこそ我が国にお越しくださった。吾輩も今日は訪問者であるため何のおもてなしもできないが、ご滞在の間はごゆるりとお寛ぎ下され」

「苦しゅうない、ライノック陛下。まったく妾にも新議会発足に関わる重要な公務があると言うのに、こやつの『おもり』に、しかも本人から駆り出されてもううんざりじゃ。お主からも何か言ってやってくれ」

 だが伊織は湖上ホテル・ヒビキの一週間の予約とレアガルド通貨の現金支払いを済ませてしまった。受け付けたのは空であった。

「と言うわけで一週間よろしくね、空ちゃん!」

「はい、陛下。『船のゲスト』であるからには最高のおもてなしを約束しますが、途中で上皇様が連れ戻しに来てもわたしは手も口も出『せ』ないので、そのおつもりで」

「え~? つれなぁ~い!」

 船のゲストと言いう言い回しには、「ああなるほど」とひまりとリィンと忠八はくすっと笑った。

 その一方で、アレットは初めて目にするヤマトの女皇を見やって信じられない物を見ているような顔でつぶやいた。

「あれが、人間不信で引きこもりの女皇様ッスか……? どー見たってアウトドアでアクティブ、かつ人懐っこい子犬のようにしか見えないんっスが……?」

「いいえなのです、あれは完全に引きこもりなのです。そもそも引きこもりは怠惰な性格がしからしめる以外にも、現実逃避のためにすることもあるのです。女皇様はきっと、カンヅメ状態でお祈りをする退屈な日々やお厳しいお母様からの折檻から逃避するためにアウトドアな手段を使ってまで『このイハトヴまで引きこもりに来た』のです」

「あー納得ッス。それじゃあ連れ戻し要員がお越しになるまで、自分らも友達になってヤマトとの深い関係を築いていくッスかね」

「はいなのです。お殿様はゲームがお好き、女皇様は非常識で楽しいことがお好きと言うことで、お気に召してくださるものを何か用意しておくのです。ゴーレムのソメイヨシノに乗っていただけたら、きっと満足なのです?」

「たぶん……。それで頼むッス」

 こうして信音と伊織のイハトヴ滞在が決まったのだが、わずか三日後に萌桜院勇実がやってきて『レスリング』の『ジャイアントスイング』からの『公開お尻百叩きの刑』、さらに『激マズ青汁一気飲みの刑』を決め、『顔面おしろい厚化粧&お歯黒べったりの羞恥プレイ』でとどめを刺し、伊織はヤマトまでその顔で帰らされる破目になった。帰国の際、信音はイハトヴの取締役員、従業員、来客のすべてに「迷惑をかけたのう……」と頭を下げて詫びて勇実に続いた。

 そしてアレットとピエリーナは唖然たる表情でただつぶやく。

「ヤマト、色々非常識ッス」

「はい、なのです……」

「あー、お二方。あれがヤマトの常識ではないことだけはご承知いただきとうござる」

「と言って納得してもらえる気がしないんですが……」

 ヤマトのトップ一団が旅立ったところで、忠八と寿代も旅立ちの支度が済んだ。

「それでは空さん、ひまりさん、アレットさん、ピエリーナさん。この国での飛行器模型販売に関する取りまとめができたので、僕たちはこれからアルビオンに帰ろうと思う。けど僕は爵位も何もない一般人だ。もし可能なら、ライノック陛下に伝えてほしい。大変お世話になりました。恩人にして親友がいるこの国に、きっとまた帰ってきます。と」

「はい、呉空が承りました。その親友、我々のことで合っているでしょうか?」

「もちろん。ではまた近いうちに会おう。今度こそ墜落しないで飛んでくるよ」

 そして寿代も。

「夫ともども大変お世話になりました。夫と共にまたお邪魔しに来ますね。ヴィントちゃん、うちに養子に来てもいいのよ?」

「う、苦手……」

「ヴィントはわたしの大切なメイドで八極拳の後継者なので譲りません」

「半分は冗談よ、ウフフ。でもいつの日か息子か娘を会わせたくもあるわね。それでは」

「はい、道中ご無事で」

 イハトヴは『蒸気駆動タクシー』も有料サービスとして提供している。忠八と寿代を乗せたイハトヴのタクシーを見送りながら、一同はひとつため息をついた。

「騒々しいヤマトからの賓客がお帰りになられ、夢見る少年のような社長とお別れせざるを得ず、少し寂しくなりそうです」

「はいなのです。でもきっと、これからたくさんの出会いがあるはずなのです!」

「そッスね。その出会いを大切にするためにも、イハトヴの経営、がんばっていくッスよ!」

「うむ。しかしとは言えカリオストロ協会との全面衝突はまだ前準備が整ったばかり。世界にはアーダルベルト海賊団のような凶悪な賊どもも多くはびこっている。そんな奴等から親愛なる方々やイハトヴのお客様たちをお守りするためにも、我々はもっと精進せねばならぬでござる」

 ひまりの言葉に、誰もが頷く。

 そしてそこに、リィン&アルス兄妹も。

「あたしたちがいることも、忘れないでね?」

「ああ。そのための勇者を、どうかこれからも頼ってほしい」

「はい、アルスさん、リィン。これからも、共にレアガルドの皆さんとともに幸せを謳歌していきましょう。……そしてたまにでいいので、わたしの過去を探す旅にもお付き合い頂ければ」

 そう言う空にアルスは「それはもちろん!」と全力で返すのだが、「黙れこのストーカー」とリィンにエルボーアッパーを食らわされて地に伏せ、一同から「愉快な兄弟だな」と笑われた。

 そしてヴィントも。

「ああ。ここにいると、ホントに退屈しないなー」


 レアガルドからヤマトに向かう列車の中。

「……あ、まっず」

 顔中おしろいに、口を開けば真っ黒な歯がのぞく、そんな伊織が漏らしたひとこと。

「どうしたんじゃ、伊織?」

「今回の逃避行の本当の目的を忘れてた。あのゲオルグ・アーダルベルトが構えていた武器なんだけどね、あれ錬金術で作られたタクティカルナイフだったんだよね。しかもゲオルグのナイフの性能とゲオルグがカリオストロのコマとして足るか否かを見定めるために『今は名も無きカリオストロの新機関』が監視していたって事実も伝えたかったんだけど」

「はぁぁぁぁぁ。……今一度問おう。お主はバカか!?」

 列車中に響き渡る大声で信音は怒鳴り、同時にどこから取り出したのか『ハリセン』を伊織の脳天に見舞う。あくまでツッコミ道具なので、強烈な音に反してダメージはさほどでもないが。

「ひぎゅあ!?」

「……疲労困憊(ひろう こんぱい)、精疲力尽(せいひ りきじん)、造反無動(ぞうはん むどう)、意気沮喪(いき そそう)。もういい加減にせぬか。貴様の道楽に振り回され付き合わされる者の立場に少しは立ってみろ!」

「えーっと、何言ってるか」

「左右(とかく)レアガルド王国領主ライノックに親書を送れ! 貴様が知る、これからカリオストロ協会がもたらすであろう脅威を、余すことなく、詳細に、信書に記して次の駅に着けば速達で送れ! よいな!?」

「ひいいいいいいい! 信音ちゃんが怖いよぉおお!」

 そして次の駅に着くまで、伊織は両足と腰を束縛された状態でライノックに充てるべきカリオストロの動きに関する詳細を信書に記させられたのであった。


 同じ頃。

 パダーノ共和国、カリオストロ協会。

「……そうか、ゲオルグ・アーダルベルトは死んだか。ちっ、チェスのポーンにも使えぬゴミめ。せっかく最新鋭の武器とヤマト最強の潜水艦をくれてやったのに、兵器性能を活かしきれず全滅するとは。つまりは所詮その程度の者だったと言うことか」

 いつかアレットにそう言わせた「血のように真っ赤な高級ワイン」を飲みながら、フランソワ・バルサモ=カリオストロ二世はデスクチェアに深く自身を預けた。

「陸がダメ。海もダメ。であれば、闇を行くか……」




 八拳演義 – A Saga of the Sky-Color Warrior Girl 遠征の物語

 THE END.




 …………


 ここからは遥か未来の話となる。

 アルビオンが定めた『航空技術に関するガイドライン(航空法、飛行器製造と運用にかかわる安全要綱、飛行器製造技術に関する二宮忠八及び二宮航空力学研究所が有する権利、などなど)』が制定され、飛行器は『フライヤーシップ/航空船』と呼び名を改められ、多くの会社が航空船の開発に着手するようになる。

 だがそれに伴い航空事故が多発し、多くの死傷者を出し墜落された町の損壊などが相次ぐようになる。そしてその多くは忠八の会社『以外』が製造した航空機がほとんどであり、そのすべてが安全に関するガイドラインを遵守していなかった。

 なにも忠八の会社も航空機事故を起こさなかったわけではない。墜落や死者発生は免れたものの、エンジントラブルや人的過失で航行の途中で不時着することやバードストライクに見舞われたことも一度や二度ではない。そのたびに世界標準を持つアルビオンは、ガイドラインを改良してゆく。

 そして齢五十を迎えた忠八は会社を熱意ある後継者に譲り、寿代及び彼女との間にできた子供たちを連れて日本に帰り、今度は製薬会社を設立してたった数年で軌道に乗せてしまったのである。そこには、陸軍時代において上官であった長岡外史の協力もあった。

 そして航空船の運用だが。

 忠八の意向通り、二宮航空力学研究所の航空船は戦争に使われることはなかった。しかし戦場において制空権を欲する各国の海軍は小型航空船を戦力として用い、『戦闘艇』及び『航空母艦』が製造されるようになる。それを機に世界中の戦場の様子は一気に変わってしまった。

 老・忠八はこれを憂いもした。衛生兵であった忠八自身、飛行器を戦場に登用すれば早急に負傷者の手当てができると上申しており、彼自身が戦闘艇を作っていたかもしれない。それでも忘れてはいけないのだ、かつて旧サンティーエ帝国が起こした悲劇を。忠八はひとりの技術者としてそのような過ちをこの手で起こさないために二宮製飛行器を戦場に送らないことを会社経営の絶対条件とし、ヤマトでは製薬会社経営の傍ら神主の資格を取得して出身地である『香川県(かつての讃岐国)』に『飛行神社』を建立し、飛行神社の神主として空の平和を未来永劫祈り続けるのである。

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