第二十四章 宿命の再戦 ~寿代、恐い顔しないでくれないか!?~
翌日。
相模国、七橋町。
海軍負担でリストランテ・ディ・マーレで朝食を取り、集うは七橋港。
海軍籍艦艇『駆逐艦イナズマ』前。西に向かう旅客船は一週間後の到着、しかも肥前までは何ヵ国か寄港するため、海軍が目的地直行の船旅を提案したのだ。
旅立つ空たち五人を、海軍七橋分隊の一同が見送りに来ていた。
「伊藤隊長、海軍の皆様。我々を歓迎していただき、こうして肥前まで送り届けてくださることを心から感謝します。そしてアーダルベルト海賊団殲滅作戦に当たり共闘できたこと、大変誇りに思います」
空は軍籍を持っているが、今の立場はレアガルドの使者。貴族式の挨拶で別れを告げる。
「こちらこそです、呉様、皆様。我々もあなた方との共闘を、生涯の誇りといたします。それでは道中、お気をつけて」
伊藤以下海軍兵たちは、海軍式の敬礼で空たちを見送った。
その後イナズマは七橋町を出港。寄り道もせず讃岐国に向かい、忠八の妻の寿代を迎えに行き『食事処かめちゃん』へ。再び讃岐うどんを味わう空たちに、今度は偉そうな軍人が声をかけてきた、
「久しいね、二宮君」
「こっ! これは『長岡少将』! はっ、ご無沙汰しております!」
忠八が背筋を正して敬礼した相手こそ、『長岡外史旅団長(分隊隊長)』である。空たちの長岡に対する印象は「重力に逆らうピンと立った髭」であった。
「部下から聞いたよ。今はレアガルドの使者としてここにあり、そしてアルビオンでは飛行器を完成させ空を飛んだようだね」
「はっ。おかげさまで」
「おかげって、吾輩は何もしていない。それどころか君の飛行理論を信じず、先のレムリア大海戦の後始末に追われたこともあって君の話もろくに聞かず、君に見限られてしまうのも当然だ。その節は本当に申し訳なかった。この通り、我が不明を反省し、君の尊厳や技術を軽んじたことをお詫びする。大変申し訳なかった」
そして長岡は帽子を脱いで深く頭を下げ忠八に詫びる。だが元上官から頭を下げられては忠八もたまったものではない。
「そんな! 頭をお上げください、少将! 紆余曲折ありましたが、私はこうして事業として飛行器を完成させ、乗り物として広く普及させようと尽力中です。当時の悔しさをばねに今の私がいるのです。また衛生兵としても亀ヶ池分隊に従事できたことを今も誇りに思います。ですのでそのようにご自身をお責めになさいませんように!」
「そうか。そう言ってもらえて救われたよ。……二宮君、これからも頑張りたまえ。飛行器開発の功績をアルビオンに明け渡してしまったのは大変悔しいが、人類の偉業を成し遂げた君を、吾輩は生涯応援しよう」
「ありがとうございます、少将!」
長岡は忠八と同席する空たちとも挨拶をかわし、人数分のお茶を注文した。その話の中で「アルビオンの会社はどんな会社なのかね?」と言う話になり、忠八はキングスレイ・ドイルとの出会いから話し始め、忠八が見せた写真を見て長岡は面白そうに自慢の髭を撫でるのだが。
「ほぉ、なかなかの別嬪さんではないか。しかしこの若さで、しかも女性でいくつもの会社を経営しているとは、この女性は唯者ではないな」
「はい。方々忙しいと言うのに私のパトロンになってくれて、会社の副社長にまでなってくれて、彼がいなかったら飛行器開発もままならなかったでしょう」
「そうか。よい出会いに恵まれたのだな。……って、え? 『彼』? この方は女性ではないのか?」
「幼いころからの劣等感を解消するためにドレスを着るようになったそうで、恋愛対象もきちんと女性だそうですよ。だから、な、寿代? こわぁ~い目で僕を見るのやめてくれないかなあ!?」
これには空たちも笑いを禁じ得ない。
寿代の怒り(キングスレイへの嫉妬)が収まったところで、そばを平らげて店を出る。
「そうか。寿代さんと共にアルビオンへ」
「はい。私も妻がいないのが寂しいもので、同じくらい妻にも寂しがらせたくもないので。キングスレイは好青年で美人ですし、妻の良き友になってくれることでしょう。まあ手を出そうものなら拳骨のひとつもくれてやりますが」
ヤキモチ焼きなのは忠八も同じのようだ。
「分かった。この町から美人さんが消えるのは残念だが、奥方、お達者で」
「ええ。長岡さまも」
長岡と寿代は互いに会釈をし、寿代は忠八についていった。
再び駆逐艦イナズマに乗り、一同は帰路へ。
肥前に集まる異国文化を見て回ってパダーノ料理を味わって、海軍の海技士たちとはここでお別れ。大陸とヤマトをつなぐ旅客船に乗り、伊織の『公務手形』を示すことで割引料金にて大陸へ渡る。機関車が引く列車での大陸横断中、停泊する駅で乗客を狙った盗賊に遭遇したが、空たちが撃退。忠八も銃剣銃術を駆使して盗賊を退け、寿代に「素敵ですよー!」と褒められる一幕も。
最後まで気の抜けない旅が終わり、シュトラルラント、サンティーエを経て、レアガルドまで帰ってきた。
レアガルド王国王城、玉座の間。
ライノックに面を上げよと言われ、空、ひまり、リィン、ヴィント、忠八、寿代は彼の前に並んだ。
「一同、久しいな。そして奥方の二宮寿代殿、ようこそ我が国へ」
忠八の通訳で、寿代も「素敵な城にお招きいただきありがとうございます」と返した。
「うむ。さて土産話や思い出話もしたいところだが、まずはヤマトへの遠征の任、誠にご苦労であった。よもや先代大名、女皇、その先代の三名からの署名を頂けたことはうれしい誤算であった。先代二名の署名がどこまで通じるかは分からんが、ヤマトがこれほどまでにカリオストロ対策臨時議会に協力的であり、我が国に友好的であるかを改めて知ることができた。お前たちの働きはあまりに大きい。その働きをぜひ誇ってくれ」
代表して空が答えた。
「ありがとうございます。我々の留守の間、カリオストロ関連の動きはありましたか?」
「あったとも。あのキングスレイ・ドイルが方々に手を回し、『一等装甲艦クラスの幹部』の残り全員を縛り上げることができた。まさかストリートチルドレンを『少年探偵団』に育て二宮の会社の社屋で優遇し、シュトラルラント王国を通じて大泥棒ルピナスや義賊弓構前まで動かすとは、あやつ、まことに何者なのだろうな?」
空たちは思った。キングスレイ・ドイル、知れば知るほど謎だらけの美女(男)だ、と。
「だが、これでカリオストロ二世のたくらみがすべてついえたわけではないだろう。装甲艦シリーズはマトロ前海軍庁長官が指揮していたこと。カリオストロ二世がマトロ以外の腹心あるいはコマを持っているとしたら、どこでまた動き出すか分かったものではない。しかもゼロからの対策となる。だからこそその親玉であるカリオストロ二世ことフランソワ・バルサモの身柄を一日でも早く拘束し、カリオストロ協会そのものを解体しなければならん。ゆえに、空、ひまり、リィン。お前
たちの手の届く範囲で構わない。これからも我が国の民を守ってもらいたい。その中には当然、お前たち自身も含まれていることを忘れないでもらいたい」
「はい、心得ております」
「うん。さて」
ライノックは、今度は忠八に話を振った。
「この度は里帰りも味わってもらいたくて貴君も我が国の使者に任命したが、これからどう振舞うつもりだ?」
「はい。まだ途中だったレアガルドでの飛行器模型の販売や権利に関することを煮詰め、その後は妻と共にアルビオンに戻り、キングスレイや女王陛下と共に飛行器を乗り物とした際の法整備などをまとめてまいります」
「よかろう。ところで旅は楽しかったか?」
「はい、とても良い旅とさせていただきました。ライノック陛下には感謝が尽きません」
「それはよかった。美人な奥方との再会どころか連れてきてしまうとは。奥方、勇敢で有能な夫をこれからも支え続けてもらいたい」
「夫婦ともどももったいないお言葉でございます。はい、御心のままに」
そして使者としての帰還の報告を終え、その後は庭園の東屋でのティータイムを楽しみながら旅の思い出などを語り、城を後にして懐かしのフォーマメント州へと蒸気駆動車を走らせる。
……のだが。
「師匠~。これ結構ハズいんだけど」
「我慢してください、ふたつの意味で」
助手席では、寿代の両腕にヴィントが収まる形で二人掛けしている。しかも寿代がヴィントを猫のように撫でまわす。ヴィントにとっては伊織に引き続きである。
「う~ん、ヴィントちゃんかっわいぃ~っ! 私もこんな感じのかわいい子が欲しいわ~! ね、忠八さん!」
「そ、そうだねえ」
忠八はひまりとリィンとともに後部座席にかける。女性ばかりの旅団でひとりだけ男性と言うこともあってただでさえ肩身の狭い思いをしているのに、『そういう話』はしないでもらいたい。
「ヴィント、仕方がないでござるよ。この軍用車は五人掛けで、しかも六人分の荷物を搭載しているゆえ」
「ま、女性は何かと物入りだからね。帰るまでのがまーんがまーん」
「分かったよぉ。で、イハトヴまであと何時間かかるの?」
空はハンドルを捌きながら地図を一瞥。答えたのは。
「一日半、と言ったところでしょうか」
「……寝ていい?」
「では寝ている間に思いっきり可愛がってもらってください」
そして空は助手席を見て思った。
――……ヴィントって、人慣れしていない不器用な猫のようで可愛いんですよね。
二宮忠八の障害及び飛行器に関する参考資料:
二宮忠八・伝 世界の飛行機発明の先駆者 生駒忠一郎/KTC中央出版




