第二十四章 宿命の再戦 ~こういう事態を皮肉と言うのでしょう。~
そして、アーダルベルトは決断を下した。
「包囲網が何だ! 前方の軍艦をぶっ壊せ! その後潜水行動! 後方二隻の追跡を許すな!」
信音の作戦説明その三。
「……と言う展開になるじゃろう」
「そだねー。でも潜水艦が潜水行動可能になる海域まで逃げ切られたらおしまいだよね?」
「そうじゃな。その前に何としても叩かねばならん。しかしお主の話によればアーダルベルト海賊団が所有する潜水艦は、我が国にて対艦隊戦でも生き残れるように設計・製造された、耐久性と速力に優れた『久利工廠』製『亥型潜水艦』、アルビオン海軍に納品したそれを配備一日で略取されたものと言うではないか。聞いただけで攻略は難航すると推測できるぞ。アーダルベルト海賊団が猛攻を絶え逃げ切れば潜水艦の性能が立証されるが我が国の海軍の恥となり、潜水艦が沈めば作戦成功を喜べても潜水艦の耐久性の低さを問わねばならぬかもしれん。我が国が誇りし最強の盾と最強の鉾。ぶつけた結果次第で結局どちらかを責めねばならぬ、つらい作戦じゃよ」
「あーぅ……」
「じゃがまあ、兵器の強化など放っておいても未来から求められる命題よ。今はただ、不沈の船を攻略したと言う吉報を、茶でも飲んで待とうではないか」
ヤマト艦隊。
ヤマト艦長長渕は、ヤマト、コンゴウ、キイ三隻の砲雷長に命じた。
「狙うは敵艦尖頭部及びスクリュー! 全艦主砲副砲攻撃用意! てぇっ!」
ヤマト後部砲、コンゴウ及びキイ前部砲、一気に砲撃を開始。全弾命中するが、艤装が多少ひずんだだけで沈む様子は見られない。それでも長渕はありったけの砲弾を叩きこめと命令する。
一方、アングリフ艦内ではアーダルベルトがいら立ちを隠せないでいた。
「おい! あのうるさい雑魚どもを黙らせろ! 魚雷ぶっ放て!」
「りょっ、了解!」
アングリフより魚雷が発射される。前を行くヤマトに命中し、艤装をかすめて沈んでいくものもあれば命中してスクリューを破壊するものもある。しかし国名を冠した船、そう簡単には沈まない。
ヤマト機関部より伝声管を通じて報告ある。
「機関部被弾! エンジンは生きていますがスクリューの軸が歪み、航行不可となりました!」
「了解。全艦に通達、この艦は間もなく止まる! ヤマト戦闘行動中止! 以下の指揮はキイに託す!」
信音の作戦説明その最後。
「と、ヤマトは止まるじゃろう。じゃが『カーボン強化艤装』にカネを掛けたヤマトは魚雷ごときでは簡単には沈まぬ。スクリューが壊れても敵艦の足止めくらいにはなるじゃろう。そこでキイとコンゴウが一気に仕掛ける。それで沈めばよし。もし海賊どもが潜水艦を捨ててキイかコンゴウのどちらかを略取して逃げおおせようものなら、それがコンゴウならゴーレムコアの破壊。キイであれば総力戦じゃ」
「え? 戦艦ってゴーレムだったの? そこまでアカシックレコード読んでなかった~!」
「そうじゃ。ゴーレムコアの製造方法としては、建機や警備用ゴーレムと同じじゃな。レアガルドの何と言ったか? 『株式会社パワード』のエンジニアはよい仕事をする。上が不祥事を起こして倒産したのが実に惜しい」
それは暴走事故を起こす前のボルタのことである。
信音は皇居通信室に置いてある折り畳み式将棋盤を取り出し、それを開いてコマを並べる。
敵陣には王将を囲うように多くのコマを配備し、信音の陣には王将は置かずチェスのポーンとルークとビショップを囲うようにして歩のコマを敵陣に攻め込ませる。
「海軍兵と海賊、衝突すれば多くの死者が出るじゃろう。だがそこは気にするところではない。ひとりでも多くの兵を生かして返したいのも山々じゃが、戦場はそうはさせてくれぬもの。それに兵士は命がけの仕事に自ら志願したもの。その命を国のために使わせてもらうとし、主戦力は最後の最後に温存しておく。レアガルドの客人が戦わずに済むに越したことはない。じゃが相手は悪名高きアーダルベルト。並の兵士で叶わねば、空たちに託すしかない。あとは伊織。お主の判断にすべてを賭ける。これで空たちがアーダルベルトより弱いと言うことがあれば当然アーダルベルトに勝てるわけもなし、国際的指名手配犯をむざむざ逃がしてしまい我が国は諸外国からの笑いもの。そうなれば妾は、世継ぎを残さず民の前で腹を切らねばならんのだぞ?」
軽口を言っているようで、歩の駒を進める信音の指は震えている。
そんな彼女に、伊織はのんきな口調で言った。
「大丈夫。アカシックレコードで見たからね。アーダルベルトの残虐さと戦いにおける迷いのなさ、空ちゃん、ひまりちゃん、リィンちゃん、忠八さんの総合的な強さを。……まぁでも油断だけはしないことだねー?」
「……おい。それを何というか分かるか? 『フラグ』と言うのじゃ!」
以上、作戦説明終了。そのフラグが回収されないことを、信音は全力で祈る。
ヤマト艦隊。
ヤマトのスクリューを破壊しても艦隊を沈められないのでは逃走に邪魔なだけ。キイとコンゴウはアングリフとの距離を詰めてくる。
こうなれば船を奪うのみ。アングリフは四時の方角を行くキイに接舷し、ハッチを開いて現れた海賊たちはライフルやガトリングガンやランチャーなどの遠距離攻撃でキイに乗り込もうとする。キイの兵士たちもそう簡単に乗艦を許すかとやはり飛び道具や放水機で応戦する。
そんなキイに。
「沈みませんか」
先程まで、戦艦ヤマトに乗り込んでいた空、ひまり、リィン、忠八が乗り移っていた。実はこれもまた信音が出した作戦であり、ヤマトへはあくまで作戦の最終確認のために乗り込んでいたのであり空たちは最初からここで作戦に当たる手はずだったのである。
そのキイ艦長たる『工藤秀幸』が、空に答えた。
「そのようですね。さすがは久利工廠製の潜水艦。そう簡単には沈んでもらっては……、今は沈んでほしいですが」
「さすがは錬金術と工業に秀でたヤマト製の潜水艦ですね。まさかヤマトで製造された艦が海賊の手に落ち、こうしてヤマトを脅かす日が来るとは、ヤマト人の誰も思わなかったことでしょう」
「耳が痛いやら頭を抱えたいやら、全くでございます」
そんな空と工藤に、ひまりとリィン返す。
「武装とは、賊どもに対抗するための国防手段であり、侵略を謀る国に向けてちらつかせる抑止力でなければならぬ。しかしそのための手段が海賊に堕ちてしまうなど、この上ない脅威としか言えぬでござる」
「そうね。でも今回が初めてじゃないでしょ? アーダルベルト兄も、どこかの海軍か輸送ギルドから船を奪ってたって話じゃない」
「はい、レアガルド王国海軍からです」
忠八も尋ね、空が答える。
「でもどうするんだい? この船に海賊たちが、アーダルベルトまで乗り込んできてしまったのだが」
「長渕艦長はキイにすべてを託しました。キイの艦長の命令あるまで、我々は」
その時、工藤は命じた。と言うより、依頼懇願するような口調で空たちに言った。
「レアガルドのお客人。改めてお願い申し上げます。あなた方のお力を是非とも、我が軍にお貸しください」
「いよいよ我々の出陣ですか。はい、お任せください。……ひまり、リィン、忠八さん」
空の言葉に、3人も力強くうなずき、それぞれの武器を手にする。
空は槍を、ひまりは刀を、リィンは長剣を、忠八は銃剣銃を。
「工藤艦長。行ってまいります」




