第二十四章 宿命の再戦 ~ロマンなの? 沈まないの? バカなの?~
信音の作戦説明その二。
「えっ? 船で逃げる?」
オウム返しする伊織に、信音はうなずいた。
「恐らくな。いくらアーダルベルトが近接戦闘に優れているからとて、地上で待ち構える大勢の海軍兵士と銃火器とシールドを相手にすれば苦戦は必至じゃろう。
ゲオルグ・アーダルベルトが取るべき手段はひとつ。奴は間違いなく海上包囲網を突破しようとする。そしてお主がアカシックレコードから読み取ったゲオルグのこれまでの行動から、奴は魚雷全弾容赦なく針路上の船にぶつけて突破口を開く。そんな真似をされればいくら我が国の戦艦だろうと無事では済まぬ。
ゆえに一隻、近頃ガタが来ていると聞く艦に『囮』になってもらう。後任艦はまた作ればよい。派手な花火が海上で咲けば、爆炎に紛れて敵艦はそのただ中を突っ切り最短距離で逃亡する。そこからが作戦の本番じゃ。デコイ代わりの艦の向こうに本命の戦力を集結させ、三隻の戦艦で敵艦を包囲する。恐れをなして白旗を掲げてくれればそれでよし、なお抵抗するようであれば三方向から最大火力を見舞ってくれる。砲門を開くからには全弾気持ちよく炎を上げてやるのじゃ。アーダルベルトもそれが好きじゃろ?」
「うーん……。ねえ。アカシックレコードを読んでおいてなんだけど、敵さんってばせっかく潜水艦持ってるんだから、潜って逃げればよくない?」
「連中は海賊。優れた潜水艦と言えど正規の操縦訓練を受けていない賊に細密な操縦ができるとは思えず、魚雷を回避しながら水深200キュビトの海底を巧みに進めるとは思えぬ。それにお主が申したであろう、正面突破こそゲオルグのやり方じゃと。漢らしいというか、『漢のロマン』なんじゃろうな」
「魚雷食うより大ダメージな突破方法がロマンなの? 沈まないの? バカなの?」
「バカじゃから海賊やっとるんじゃろ」
相模灘、戦艦の包囲陣。
まず『魔術自動操艦』によって無人操舵を可能とした海軍の戦闘用船舶『駆逐艦フブキ』『巡洋艦タカオ』『同アタゴ』『二等巡洋艦キタカミ』『同オオイ』の五隻がアーダルベルト海賊団所有潜水艦の航行を阻むように、艦隊左舷で迎え撃つ形で陣を敷く。その中央に位置するアタゴの向こう側に『超ド級戦艦ヤマト』『同コンゴウ』『同キイ』を配備。
ヤマト作戦指令室、ヤマト船長『長渕朗』が船の模型を配備した海図を広げて作戦を説明した。
「現在、主力戦艦三隻はアタゴの背に隠れている。もしアタゴが爆破されたら敵艦は間違いなくアタゴがいた地点を通り、爆炎を突っ切って我々の懐に自ら飛び込んできてくれることだろう。だがそれ以外が狙われた時、アタゴ及び戦力艦隊は陣形を変えて常に敵艦から一隻に見えるように一直線に並んで敵艦に接近。デコイが沈み敵艦が爆炎を突っ切ったところで総攻撃を開始する。
……しかし私はこのアタゴが狙われると考えています。このような陣形を指示した信音様も同じお考えで、ひょっとしたら駿河国及び『安房国』からの援軍が来るかもしれないと踏み、であればその間を通って太平洋に逃げるのが作戦としては常識だからです。いくら人殺しや船舶爆破が趣味のアーダルベルトでも、逃走経路はシンプルな方がいいですからね。敵が降伏してくれるのであればそれで良し。抵抗するなら徹底砲撃。さて、敵はどのような手段で来るのでしょうな」
長渕の解説に、空、ひまり、リィン、忠八は強くうなずく。そして空は長渕に返した。
「降伏してくれることを望みますが、敵はあのアーダルベルトの弟です。奴は、最後の最後まで破壊と殺戮を楽しみに来るでしょう」
「分かりました。手ぬるい考えや希望的観測は無しです。作戦に関わる全ての兵たちに通達! 我が艦隊の目的、敵勢力の完全制圧! 制圧作戦に変更はない。心構えは整えておけ!」
状況開始。
アーダルベルト海賊団海賊船『潜水艦攻撃』。
信音と長渕の思った通り、敵艦はアタゴに向かう。
アタゴは撃てる魚雷をすべて撃つが、これまで何度となく向けられた攻撃をアングリフは難なく回避してしまう。そしてアングリフはアタゴに近づいてきたところで八門すべての魚雷発射管から魚雷を発射してきた。魚雷は炸裂弾に改造してあるようで、アタゴは被弾するなり艦底部から大爆発を起こして左舷が木っ端みじんに吹っ飛んでしまった。残る右
舷は『東エイゼル大洋』側に押し出され、それによって生まれた大きな波がヤマト艦隊を襲う。
アーダルベルトはタクティカルナイフのグリップを艦長席に叩きつけて、まるで子供のように興奮する。
「ひゃーっはぁあああ! 見たか、ヤマトのクソったれども。これぞ最新兵器『アルケミック・ブーストミサイル』の威力よお! ヤマトのザコ艦の瓦礫に突っ込め! 頭突きでとどめさしてやらあ!」
しかしヤマト海軍も五隻の包囲がただの囮だと悟られてはいけない。タカオら四隻は艦首をアングリフに向けて全速航行、砲門を向ける。
アングリフ、アタゴの残骸に接近。アングリフ艦体は余程頑丈なのだろう、艦首艤装には多くの傷やペンキの剥がれなどがあるが、それでも艤装のひずみや内部の水漏れひとつ起こしている様子はない。そしてアーダルベルトの指揮で、アングリフは爆炎に突っ込みアタゴの艦体右半分も容赦なく引き裂いて爆炎の向こう側へと躍り出た。
だがその時だ。
「団長! 本艦前方に艦影あり! 繰り返す、艦影あり!」
「んだと!? そりゃマジか!?」
「マジです! ん、ではなくて、はい!」
アーダルベルトも艦長席から望遠鏡をのぞく。
確かに、潜水艦アングリフの前に一隻の巨大な戦闘艇があった。
「マジか……! 俺たちはまんまと敵陣に誘い込まれたってことか……!?」
言葉を失うアーダルベルトだが、観測士は更なる報告を上げる。
「四時の方向に一隻、八時の方向に一隻! 本艦、三方から囲まれています!」
「後方二隻の船首エンブレム確認! ヤマト海軍の紋章です!」
ヤマト海軍の紋章。
ヤマトの『国花の桜』の花に海軍の象徴である錨を重ねたものを大倭皇国海軍の紋章とし、黄金に輝くそれを艦首に飾ることでヤマト海軍籍の艦であることを示しているのである。
「ハメられた、だと……? この、ゲオルグ・アーダルベルトが……!?」
だが部下たちは思った。そりゃ毎度毎度ド派手に周囲の船を舶木っ端みじんにして去ってゆく海賊団の行動などたやすく読めるわ、と。
海賊が三方から海軍に囲まれた、もはや窮地。それでもやはり、ゲオルグ・アーダルベルトと言う男はこんなことで降伏する往生際のいい海賊ではなかった。
そして、アーダルベルトは決断を下した。
「包囲網が何だ! 前方の軍艦をぶっ壊せ! その後潜水行動! 後方二隻の追跡を許すな!」
信音の作戦説明その三。
「……と言う展開になるじゃろう」




