第二十四章 宿命の再戦 ~暴力と恐怖で支配するトップは見限られて当たり前ですよ。~
相模国、平垣町。
七橋町同様に海に面する町で、もともとは旧七橋国の領地でもあった。七橋町ほどの名所はないが、海の幸を用いた食事処や地元の茶葉を用いた茶屋が多くあり、常盤国に続く大通があることもあって流通の拠点にもなっている。
そんな平和な町に、火災を知らせる鐘の音が鳴り響き、漁港では『町役場』からの伝令による緊急避難命令が出された。町民たちは一斉に避難を開始する。
そんな平垣町の漁港に、一隻の船がほかの漁船を薙ぎ払う形で強引に接舷した。デッキから細長いブリッジがせり出したような形状の船舶、潜水艦である。そしてその潜水艦ブリッジのハッチが開き、武器を腰に提げた大勢の男たちが飛び出してくる。彼らこそアーダルベルト海賊団の団員であり、最後に現れた品の悪いスーツに黒髪オールバックに人を見下すような目をした男が団長ゲオルグ・アーダルベルトである。
「……おい。誰もいねえじゃねえか」
アーダルベルトが艦首より港を見下ろしてみれば、漁港関係者は誰ひとりいない。それどころか町からも人の姿が消え失せていたのである。
「どうなってやがる。説明しろよギャンズ!」
アーダルベルトが背中越しに問うと、ギャンズと呼ばれた海賊が答えた。
「わっ、分かりません……。しかし確かに先ほどに望遠鏡で確認した時には、まだここには人が」
「いたってのか? じゃあこのありさまは何だ? 誰もいなきゃ誰も殺せねえだろうが」
「で、ですが食料とカネは御覧の通りじゃないですか」
そう。最初から誰もいないのではなく、漁港関係者は何も知らされず訳も分からず緊急避難命令を受けて漁港を去ったのだ。そのまま置き去りにされた荷物だけが漁港に残っている。
「だから?」
「はい……?」
「俺の楽しみがなくなっただろ? この落とし前どうつけてくれるんだ? え?」
「お、落とし前と言われましても!」
その時、アーダルベルトは振り向きざまに右腕を振った。
その瞬間、ギャンズの頭は高く舞い上がった。
アーダルベルトの右手には『幅広肉厚のタクティカルナイフ』が握られ、それはギャンズの首をはねていたのである。
だが、ほかの海賊は騒ぐこともせずただ震え上がって立ちすくむのみ。
そして思う。
――こいつの機嫌がちょっと悪くなるだけで人が死ぬんだもんな。明日は我が身ならぬ次は我が身だもんな。もうホント、頭イカレてやがるぜ。
そしてアーダルベルトは言う。
「おい誰か、町民かっさらって来い。ギャンズだけじゃ足りねえ。この新型ナイフの切れ味を試すにゃあ、あと最低百人は殺してえ」
それを身内でやられたら海賊団は全滅だ。海賊たちは首振り人形のように強くうなずいて船を降りてゆく。
すると。
「何だ!? 車が向かってくるぞ!」
漁港にやってくる軍用高出力アルケミックエンジン式バギーとトラックが見える。そして軍用車からは海軍用セーラー服を纏う海軍兵たちがぞろぞろと現れ、全員ライフルを構えている。
「なっ! ヤマトの海軍だ! 待ち伏せされてたんだ!」
「俺たちの行動が読まれてたってことか!?」
うろたえ、そして退く海賊たち。
チッと舌打ちして海軍の一団をにらみつけるアーダルベルト。
そんな彼らに、バギーの運転席にかける男『山村順二』大佐が魔導メガホンで呼びかける。
「我々は大倭皇国海軍である! アーダルベルト海賊団に告ぐ! お前たちは完全に包囲されている。総員下船し身柄を我々に引き渡せ。さすれば命だけは助けてやる。抵抗あるいは逃亡を図れば命そこで終わると思え! 二度は告げぬ!」
海賊の中にはおとなしく武器を下ろそうと考える者もいる。
だが、アーダルベルトは徹底抗戦の構えを取った。『魔導伝声管』にて、作戦指令室に言った。
「魚雷発射用意。左舷一番。撃て」
その命令の直後、海上に露出している魚雷発射管より魚雷が飛び出した。海軍兵たちは魚雷の軌道上にいなかったが、魚雷は漁港を滑りながら進み、漁港の門柱に激突して大爆発を起こし、一帯を吹っ飛ばしてしまった。
山村は冷や汗を流しながらふっと強気に笑った。
「これも信音様の的確な作戦司令によるものか。感謝いたしますぞ、信音様!」
魚雷噴射による爆風の巻き添えを食らった海賊たちに、アーダルベルトは叫んだ。
「お前ら。徹底的に戦って、死んで来い」
さかのぼること、三時間ほど前。
常盤国、皇居・魔導通信室。
信音は緊急魔導回線にて海軍七橋分隊の伊藤隊長に作戦内容を伝えていたのである。
「ねぇ信音ちゃん。どんな作戦を立てたの?」
暗号化したすべての作戦の信号を打ち終えると、その印刷紙を見ながら信音は答えた。
「まず伊織、お主が見たすべてを伝えることはできん。お主の能力、アカシックレコードの閲覧能力に関しては極秘事項じゃし、それを悟られるようなことは言えぬ。ゆえにある筋からの情報とだけ説明し、それをもとに立てた作戦がこうじゃ。
略奪という海賊仕事とは別に、ゲオルグ・アーダルベルトなる者は狂気的なまでに人殺しが好きじゃ。人を殺すのに一切のためらいが無い。そして敵の最大の武装は潜水艦の魚雷。魚雷発射管の右舷・左舷の一番は海上に露出するため、地上への攻撃も可能じゃ。ゆえに、魚雷の軌道上に布陣せぬことが戦闘用意の絶対条件。
いざ戦闘が始まれば火力の強さがモノを言う。総員に銃器を支給し、空が絶賛する強化ガラスシールドをあるだけかき集めさせる。あとはかつての戦で織田信長様が立てた通り、防御と銃撃の二段構えで敵を『撃つ』のじゃ」
平垣漁港。
漁港に降りた海賊たちの大半が武器を捨て、両手を上げながら海軍の兵士たちの前に走ってきた。
「もううんざりなんだよ! あんな外道のもとで海賊やってられっか! 兵隊さん、俺たちを助けてくれ!」
「どっちみち船長に殺されちまうんだ! このヤマトで生き直させてくれ! 奴隷でも構わねえ!」
多くの海賊たちの裏切りに、アーダルベルトは頭に青筋を浮かべて怒りをあらわにした。そしてデッキ上に持ち出した魔導ガトリングガンを乱射する。
「てめえええらあああああ! 何を無様さらしてやがるんだああああああ! 戦え! 戦って死にやがれ! 死んで俺様を楽しませろおおおおお!」
だが距離のある裏切り者に銃弾が届くことはない。薬莢だけが無駄に散らばってゆく。
武器を構えて一度は臨戦姿勢を見せた地上の海賊たちも、裏切り者の海賊に続いて武器を捨てて投降してゆく。地上部隊全員のまさかの『秒速裏切り』に、さすがのアーダルベルトも唖然となった。
「……団長? アーダルベルト団長?」
唖然となるあまり固まって動かなくなったアーダルベルトに歩み寄る海賊だが、アーダルベルトの右手が動いた瞬間彼の全身は細切れとなり崩れ落ちた。頭さえも十字に切り刻まれては、彼は自分が死んだことすら気付いていないだろう。
「……出航だ。総員艦内に戻れ」
アーダルベルトは魔導伝声管で作戦指令室に言った。
「両舷全速後退! 離岸次第、取り舵回頭180度ぉ!」




