第二十三章 いい日旅立ち、南へ ~そんな! 彼はわたしとアレットで倒したはずです!~
城を出て赴くは、砂州でつながれた陸繋島『河の島』。陸から河の島までは砂州の上に橋も渡されている。
一同は渡し舟に乗って島の裏側まで赴き、逆の道順をたどる形で島を観光して島の入り口を目指す。島の裏側には陸地とを結ぶ渡し船の船着き場があり、下りれば迫力のある崖を見上げることができる。その崖にかけられた階段を昇れば、多種多様な小規模飲食店が並ぶ。当然これに空が食いつかないわけがない。
「やれやれ。空、ここで時間まで食っては観光名所を見る頃には日が暮れるでござろう。少し食欲は押さえて、まずは庭園と神社を回ると致そう」
「そうですね。残念ですが、またの機会にしましょう」
島の中央には『河島神社・中津宮』と『サムエル・ロッカー庭園』があり、河島神社ではこの地の守り神『五角龍』を祭っており、サムエル・ロッカー庭園はヤマトとアルビオンの様式が見事に融合した庭園である。そもそも故ロッカーは貿易商であり、この河の島の河島神社の庭園をいたく気に入り買い取って別荘地としたらしい。今では観光協会がロッカーの死後の状態で維持・管理している。
庭園を楽しみ神社をお参りした後は、ここと入り口をつなぐ森の遊歩道を歩いて河島神社・辺津宮を参拝し、鳥居を過ぎた先の一本道を下ってゆく。空の食欲はついに制御不可能となり、まずは串焼きの状態で売っている魚介類から味わってゆく。リィンと新田はあきれるが、もはや見慣れたひまりとヴィントも「まあこれだけおいしそうで珍しいものが並んでいれば食べたくもなる」と、空と一緒に串焼き系の美食を堪能しながら食べ歩き形式で一本道を下ってゆく。これが地元レアガルドだったら、貴族と言う肩書が邪魔をしてこんな品のないことはできない。
「さて空。美食はここからが本番にござる」
「だから逆ルートで観光してきたと言うことですね?」
「然様。河の島の美食と言えば、何と言ってもシラス丼にござる。シラスとはヤマト語で稚魚の総称であり、ここではイワシ類のシラスが多く獲れることで有名でござる。生もしくは釜茹でのシラスにネギトロ(マグロのすき身を準ペースト状にしたものにネギを合わせた料理)を乗せて、卵を乗せて満月に見立てた月見丼として仕上げ、最後に醤油をまぶせば『絶品月見シラス丼』を味わえるというもの。ぜひ観光の最後に空に味わってもらいたく」
「そうだったんですね。それでは、いただきましょう」
ひまりの勧めで訪れたのは、『食堂しらす』。もうそのままのネーミングだとヴィントは突っ込む。ひまりは河の島巡りの逆の道順にかかる時間を計算して海軍の兵士に時間予約を願い出ていたようで、さほど待たずして座敷席に案内された。リィンは正座に慣れていないため「この座り方、足がしびれるのよね……」と座敷席への苦手意識をかすかに漏らした。だがそんな外国人向けに、正座用座椅子も用意されている。
そして月見シラス丼が人数分運ばれてくる。生と釜茹でを両方味わいたい人のためにと考案された『昼夜シラス丼』としても提供されており、空は生丼、釜茹で丼、卵混ぜ生丼、卵混ぜ釜茹で丼と順番に味わい、「どれもおいしすぎて感動を抑えられません!」と結局三杯は食べてしまった。空の食欲には誰が何度唖然となったか数えられないが、ひまりは「地元の美味を味わってもらえたことは素直に嬉しく思う」と食欲全開の空を見てほほ笑んだ。
その時だ。
一羽の鷹が食堂しらすまで飛んできて、新田の左肩に泊まった。左足には紙切れが結ばれている。それを見て新田が言う。
「これは、海軍の『鷹報』! 緊急事態のようであります!」
新田の言葉に戦慄するひまりたち。新田は鷹から緊急報告の伝令書をほどいて読む。
「……緊急事態発生。新田は鎮守府へ即時帰還。使者の皆様にも助力を請う。だそうであります!」
「分かりました。ひまり、皆さん!」
そして一同は食堂を飛び出し、蒸気駆動車に飛び乗って鎮守府に向かった。支払いは「釣りは不要!」とひまりが帳場机(レジカウンター)に千円紙幣一枚を叩きつけて済ませた(千円はそれだけで一か月の食費が賄える大金である)。
相模鎮守府。
新田及び空たちが到着すると、指令室には伊藤が待っていた。伊藤の手元には魔導通信にて信号が打刻された帯状印刷紙がある。
「伊藤少将! 新田、唯今レアガルドの使者様をお連れし帰投したであります!」
「ご苦労。新田少尉は魔導通信にて『平垣灯台』と連絡を取れ。お客人。ことのあらましですが、相模湾に突如謎の船舶が出現したとのこと。駿河でも安房でも観測できなかったことから海中から突如出現したとしか思えず、それはまっすぐ平垣に向かっているようです。それと、信音公よりもうひとつ言伝を預かっております。相模湾に異変あらば使者らに伝えねばならんことがある、と」
「信音公が? それで、公はなんと?」
「はっ。『呉空、河上ひまり、リィン・フィル・ライトアームズ、二宮忠八。以上四名は、海軍に協力し脅威を掃え。お主らは客人らゆえ、強制はせぬ。じゃが我が国のために戦ってくれるのであれば、お主ら、レアガルド王国、二宮航空力学研究所に対しそれ相応の恩赦をたまわろう』……と」
そう言う伊藤に、四人は顔を見合わせ、代表して空が答えた。
「戦います!」
「改めて感謝します。敵の正体ですが、信音公いわく、おそらく敵船は潜水艦。そして敵は海賊。その名を」
それは、驚くべきものであった。
「『アーダルベルト海賊団』と言うそうです」
「なっ!?」
普段であれば滅多に動揺を表に出さない空が、ひどく狼狽して伊藤に食って掛かるように言う。
「そんな! 彼らはわたしたちが殲滅したはずです! 敵船は我々が鹵獲したはずなのに、なぜですか!?」
そんな空に、ヴィントが尋ねる。
「師匠、何なのそれ?」
「はい。わたしが冒険者を始めたばかりの頃、わたし、アレット、わたしたちの雇い主であった海上輸送ギルド・メイフラワーの皆さんと共に殲滅した海賊団です。団長グスタフ・アーダルベルトは死亡、残る団員も保安庁に引き渡したはずです。それなのに!?」
空の言葉に、伊藤はうなずいて答えた。
「信音公が『ある筋』から入手した、確かな情報です」
それはアカシックレコード閲覧することができる伊織によるものである。
「率いるは、レアガルドの南で沈んだグスタフの弟、ゲオルグ・アーダルベルト。グスタフが重火器フリークなら弟は刃物フリーク、獰猛さと残虐さは兄とよく似ており、人を惨殺することに喜びを感じる、もはや人でなしです。国際的に指名手配されている海賊であるゆえ、海軍に知らぬ者はおりません」
「人殺しを喜ぶ、極悪非道の海賊、ゲオルグ・アーダルベルト……。いいでしょう。まだまだ弟がいても妹がいても、罪なき者に手を上げると言うのであれば何度でも倒して差し上げます」
そして、空は戦意を固めた。
「……奴らの向かう先は、どこですか?」




