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第二十三章 いい日旅立ち、南へ ~許してくれるなら木炭地球一周分買ってっていいよぉ……。~

 信音は最新の常盤国東部の地図を広げ、その上に『サインペン』と呼ばれる羊毛製の筆を走らせる。

「まず、妾たちがいるのはここ、古くからこの地にある皇族専用の屋敷、皇居じゃ。少し脱線するが、なお謎とされる『邪馬台国(やまたいこく)』という大昔の律令国がどこにあるのか、それがこの常盤国にある皇居周辺なのか、どこかの代でここに転居してきたのかまでは、アカシックレコードを閲覧できる伊織にも、時代があまりに古すぎて分からんそうじゃ。

 そして今、この皇居のそばに妾は新たなる議会の議事堂を建設中。そして周囲にも新議会議員のための宿舎を建てようとしておる。実際に見てもらった方が早かろう。木炭と水を調達せい、すぐに案内するぞ。……無論、萌桜院家が持ってくれるよな?」

 サイコロの旅に空たちを巻き込んだ伊織は、先代女皇たる『萌桜院勇実(いさみ)』によって「私は織田信音公とレアガルドの使者の皆さまを数日間もくだらない道楽につき合わせた悪い女皇です」という看板を持たされていた。この罰、屈辱と恥辱以外の何物でもない。

「いいよぉ……。それで許してくれるなら木炭地球一周分買ってっていいよぉ……」


 蒸気駆動車を走らせながら、開拓の様子を視察する。

 町民から軍人から火盗まで、多くの人間が土木事業者として駆り出されている。美濃や讃岐ではやや偉そうに威張り散らしていた官職だが、皆が同じ事業に携われば仲良く支え合って仕事をしている。

「少しだけ、わたしも手伝っていいですか?」

「構わんが、土木に携わるおなごはおらんぞ。お主はレアガルドの使者と言うお客人でもあるし、あの屋台で『カレーライス』でも振舞ってくれ」

 レムリア王国の料理(カリル)をヤマト風に工夫したものがカレー(スープカレー)で、皿に盛った白米に同量のカレーをかけたものがカレーライスである。

「かしこまりました。ひまり、あなたはどうしますか?」

「では、拙者も手伝わせていただきとうござる」

「あたしはパス。見てきたものをレポートにまとめておきたいからね」

 忠八は元軍医として負傷者の手当てを手伝い、できることが無いヴィントは信音と共にそれぞれの働きぶりを見ていた。

 炊き出しの屋台では、男性陸軍兵が空たちに丁寧に仕事を教える。

「嬢ちゃん、なかなか手際がいいな。レアガルドにもコメはあるのか?」

「いえ、麺かパンばかりです。コメはマグと言う町で頂きましたが、やはり本場ヤマトのコメがおいしいですね。そこにカレーをかけて食す、何と魅力的な美食なのでしょう」

「今、ローテーションで食事の時間が始まったばかりで、手伝いに来てもらったのは本当に助かる。波が引いたら一緒に食おうぜ。俺は大倭皇国陸軍『浅草分隊』隊長、階級は中佐、『松平慶貴(まつだいら よしたか)』と言う。よろしく」

「レアガルドの陸軍においては中尉相当非常駐兵、呉空と申します。こちらは元武士の河上ひまりです。こちらこそ、よろしくお願いいたします」

 炊き出しの波が引き、空とひまりは慶貴とともにカレーライスを味わい、慶貴は「手伝ってくれてありがとう」とふたりに礼を述べる。

「さて、視察の続きじゃ。見ての通り、議会の中枢を我が稲葉山城から議事堂に移すにあたり、あまりに多くのものを新しくしておる。当然反発もあったが、現状維持は他国との差をつけられることでもあり、我が国の発展のためにも開発は必要不可欠。そして更なる国力増強を狙っておる。議会の在り方を大陸と合わせ、戦力の組織構造もまたしかり。更にヤマトはその姿を大きく変えようとしておる。これはどの律令国の大名にも布告(発表)していない重要機密なのじゃが、それは完成間近の議事堂にて話そう」

 そして赴くは、『大倭皇国議会議事堂』。略称:議事堂。

 円形ステージのような議席に、横一列に並ぶ議長など立場のある者が座る席がある。信音はその議席の中央最上段に座すことになるだろう。一段下がったバルコニーのような場所は、質疑に対する応答の場所であろう。

 信音は議長席に座し、応答の間に並ぶ一同に言う。

「実は、ヤマトの国土及び領海を、アイヌ及び太陽国と同じくしようと思っておる。この話はすでに双方の代表と話し合い、近々三国を合わせた『大倭連合皇国《ヤマトれんごうこうこく》』と名を改めることが決定しておる。それにあたってすべての律令国制度を廃して城を大名の住まいとし、新たなる各律令国の議会の場を制定してもらい、律令国をその地の規模に応じて『都・道・府・県』と改める。事実上、『ヤマトと言うひとつの巨大な国が完成する』のじゃ」

 信音の重大発表に、ひまりが質問する。

「その理由をお聞かせください。どうしてここまで、アイヌとティダを巻き込んだ国の大改革が必要なのでしょうか?」

「答えよう。お主らが使者として参る前、妾はレアガルド王国が領主ライノックより、カリオストロ協会の周辺侵略の報せを受け、それに伴いお主らから求められる署名に協力するように頼まれておる。それにあたり伊織とも相談し、伊織はアカシックレコードを読む能力で、このままではレムリア、大岑、ヴィリーキイ、『ヤックル』、『ハン』、そしてこのヤマトまでもが食い物にされてしまうだろうと推測した。事実、パダーノを中心とした周辺国はじわじわ食い物にされておる。その脅威に対抗するためには、ヤマトは周辺国を巻き込んででも国力を増強せねばならんのじゃ。

 それだけではない。妾のひい爺さんこと織田家三代前『織田信博(のぶひろ)』支配時代には、メリクス共和国から同盟の誘いが来た。だがその同盟と言う物が不公平なもので、我が国が応じねば力で支配すると言う横暴なものじゃった。それに対抗すべく、ヤマトは大岑帝国の協力を仰いだがこれもなかなかに貸し借りの大きな交換条件を結ばされようとしており、はるか遠いレアガルドに助力を求め、レアガルドとヤマトは友好関係を結び、メリクスをはねのけて今に至るまで友好を結んでおる。つまり場合によってはカリオストロばかりが敵ではないと言うことじゃ。

 今回の署名の力でカリオストロ協会を壊滅させることができるとしよう。じゃが歴史は語る。これまでにも強欲や悪意が国を侵略し、滅ぼし、自らもまた滅ぼされ、こうして人間は戦争でしかものを語れなくなってきた。

 その時、織田家に力で支配される小国が群がるヤマトに何ができる? ひとつの国家にいくつもの律令国があると言う意思決定者が複数あるような国が外国の大いなる脅威にどう対抗する? 自然との共存を重んじるアイヌ、ヤマトと比べるまでもない小さな島国ティダは、そのような脅威にどうあらがう? ならば今こそ意思決定者をひとり、ないし国の中枢の議会と定め、小さな国々はひとつの大国とならねばならんと言うことじゃ。そしてその初代意思決定者こそ妾とし、我が意を継いでヤマトを真の大国にせんと立ち上がる勇気ある者を妾は求める。来たれ、ヤマトを背負う覚悟を胸に宿す者よ。その時、本当の維新は達成されるのじゃ。

 ……そうじゃな。我が意の概要は、以上であろう」

 メリクスの話は誰もが初耳のようで、唖然たる表情で聞き入っていた。

 政治についてはよく分からないヴィントだが、彼女は彼女なりにこうまとめた。

「つまり殿様。今ヤマトは東からは力任せの国に迫られ、西からはカリオストロに食い物にされようとしていて、今ここでアイヌとティダまで巻き込んでまでヤマトが強くならなきゃ国全体がヤバい、ってこと?」

「その通りじゃ。ゆえに妾がせねばならんのじゃよ。ヤマトを諸外国の脅威から守るための大改革を、議事堂(ここ)でな!」

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