第二十二章 伊織プロデュース! サイコロ任せの美食地獄ツアーどうでしょう ~……このふたりが頂点で大丈夫でしょうか、大倭皇国は?~
次のサイコロの示す場所。
「やっと……! やっとです!」
出た目は、『・すべてのチルドレンにおめでとう! ゴールの祝福は常盤の国の美食で収めよ!』であった。
「長い道のりでござったな。文字通り」
「やっと帰れるな!」
「帰るんじゃないわ、最後の視察よ」
「僕も見てみたかった、常盤国……!」
「うむ。もうこの目が出てもよいころ合いじゃった」
「もうおしまい? つまんな~い」
伊織は遊び足りなさそうだが、空たちはサイコロの旅がやっと終わることに心から喜んだ。
そして列車に乗って赴くは、旧・武蔵国の南方、現・常盤国。
レンガ造りの駅舎『常盤駅』で貨車から空の蒸気駆動車と皇族専用蒸気駆動車を下ろし、信音は皇族用車に乗せてもらうことに。
信音の案内で連れられてきた最後の美食の地は、食事処が多く並ぶ通りにある『牛鍋屋・いろり』。
「四人掛けの席じゃからな、妾は伊織と忠八といただこう。忠八、少し飛行器の事業について練りたいのじゃが」
「仰せのままに。空さん、皆さん、僕は隣の席に行きますね」
「はい、ごゆっくり」
牛鍋は、四人掛け座敷席の中央にある大きい鍋で煮込んだ薄切りの牛肉や春菊やネギと言った野菜を『割り下』と言うつゆで煮込んだもの。ひまりが取り箸で人数分のお椀に取り分け、ヴィント、リィン、空に配り、最後に自分も食べ始める。
「肉は不思議と優しい食べ応えで、このたれもおいしいですね。うな丼とはまた違った味わいです。鍋料理としては今まで食べてきたものの中で屈指、いえ最高のものかもしれません」
「ヤマト人として心から嬉しく思うでござるよ。ヤマトには東西南北で様々な食文化があるゆえ、各地の料理を堪能してもらえたのであれば、これまでのサイコロの旅も悪くないものでござる」
「今度は北から順々に味わっていきましょう。さすがにサイコロ任せは非効率すぎるので」
「そしてアレットとピエリーナも一緒でござる」
「ええ。リィンとヴィントは、牛鍋どうですか?」
誰もがこんなにおいしい鍋料理は食べたことが無いと絶賛する。それを聞いていたいろりの店長は、シメのうどんを店からの提供だとして人数分配った。
これにて、サイコロ任せの美食の旅は終わった。
「う~ん。名残惜しいけど、あたしはそろそろ皇宮に帰るね。周囲からのお説教をたんまり聞いてまた数か月引きこもらなきゃいけないし、帰りたくないけど」
「じゃがそれがお主の役目じゃろ。皇族がそんなことでどうする」
「やっぱり信音ちゃん冷たーい。それが親友に言うこと?」
「友だからこそ、また近々会うために互いにすべきことはせねばならんと申しておる。覚悟を決めよ。妾もそのつもりで空たちを常盤国まで誘ったのじゃからな」
「分かったよぉ……。それじゃあ護衛のみんな。説教された後のあたしのケアお願いね~」
「じゃが待て」
皇宮まで帰るべく踵を返そうとした伊織だが、信音は引き留めた。
「うひょっ!? まだ遊んでくれるの!?」
「バカを申せ。妾は空たちをここまで案内しに、空たちは視察のためすなわちレアガルドの使者としての仕事のためにここに赴いたのじゃ。つまり、そのための乗車賃や食事代や各種経費はきちんと経費として計上せねばならん。じゃがお主はそれとは無関係なカネも時間も多く使わせてしもうた。これは計上できぬ出費ゆえ、サイコロの旅が始まってから今までの出費は全て萌桜院家に持ってもらうこととする」
「ゑ!?」
その途端、今まで聞いたこともない叫び声が伊織から飛び出した。
「そりゃそうじゃろう。空は美食と各国視察のためと割り切ったようじゃが、本来ならこれは予定にない日程。しかも誰かの秘密をばらすとまで脅しての強制参加。悪質極まりないとしか思えん。どうじゃ? 払うか? 払わぬか?」
「えーっと、楽しんだんだからいいじゃない?」
「その間仕事はすっぽかさせられたぞ? 時間的損失はどうする?」
「でもサイコロを振ったのは空ちゃんだしぃ~」
「脅して振らせたのはお主じゃ」
「空ちゃーん? これも国内視察のための立派な仕事だよね~?」
「予定にない出費で帰国できなくなったらどうするつもりだったのじゃ」
「え~っと……」
「払え。せめて無駄極まりない旅費と日数分の迷惑料くらい納めよ」
「分割とか、できる?」
「妾はともかく、レアガルドの使者らには一括現金払いじゃ」
「……いっそ、踏み倒」
「させるか! たわけ者!」
常盤国視察は、まず萌桜院家である『皇居』の訪問(旅費及び迷惑料の領収)から始まった。
「……なあ師匠」
「ヴィント。あなたが言いたいことは、きっとわたしも思っています」
「だよね」
「ええ。……このふたりが頂点で大丈夫でしょうか、大倭皇国は」
ダメだろう。




