第二十二章 伊織プロデュース! サイコロ任せの美食地獄ツアーどうでしょう ~ヤマトは愚かにも優れた人材も発明もアルビオンに明け渡してしまったと言うことじゃ!~
一日かけて西土は肥前国の肥前港へ。そこから太陽国行きの船を調達して太陽国へ。
空は道中で調達した観光案内を手に太陽国について調べるが、美味や美景に関する案内はあっても太陽国の歴史や文化に関する文言はない。
「と言うわけでリィン。太陽国とはどのようなところなのでしょうか?」
「そうねえ。アルビオンのように島々が密集しているわけではなく、東北から南西にかけて連なる列島からなる『諸島連合王国』かな。その中でも『太陽国本島』は一番大きい国で、船が向かうのも多分そこだと思う。あたしたちライトアームズ家の初代勇者『アイル・シュナ・ライトアームズ』の実家も今は記念館として残ってて、九代続く今でも三年に一度は太陽国で手の『武功交流会』を開いてるんだ」
「そうなのですね。観光と視察のためにも見てみたい気もしますが、この旅は一体いつ終わるのでしょうか」
「一生終わらないかもね」
「それは困ります、お互いのために」
リィンの言うことはさすがに冗談なのだろうが、ここまで自由奔放な女皇に付き合わされては失意さえ覚える。
太陽国、『アガリ港』。
リィンの紹介で、港の飲食街にある中でアルス&リィン兄妹が「ここの料理を食べないと始まらない!」と豪語する食堂『カメーカメー包囲網』に一行は訪れた。
「カメーカメーとはどういう意味でしょうか?」
「『カメー』一語で『召し上がれ』って意味なんだ。お店の猛プッシュ通り、たくさん食べてってほしいな」
「食べることなら任せてください。全メニュー制覇するつもりで臨みます!」
「師匠、なんだかんだ言いながらたぶんこの中で一番盛り上がってるだろ!?」
カメーカメー包囲網が提供する料理は、『ゴーヤーチャンプルー(苦瓜その他肉野菜炒め)』をはじめ、『ラフテー(豚肉煮込み)』『人参シリシリ(そぎ切り野菜の炒め物)』『ジーマーミ豆腐(たれをかけて食すピーナッツ豆腐)』『イラブー汁(燻製にしたウミヘビを煮込んだスープ)』などがあり、空は宣言通りそれらをすべて注文して「どれもこれもおいしいです!」と絶賛して食べつくしてしまいカメーカメー包囲網の店員来客誰をも驚愕させる。その後『サーターアンダギー(太陽国のドーナツ)』を焼酎と共に味わい、「あんたの腹はどうなってるんだ!? まあ儲かるからいいけどさ!」とカメーカメー包囲網店長に顎が外れるほど驚かれてしまった。
その後、ライトアームズ家が交流を持っている道場『金城道場』の師範『金城悠真』、に挨拶し、『守国城』の国王『尚那王』に挨拶をし、港に戻って再びサイコロを振る。そして六番は『・お酒飲みたいでしょ? 薩摩国で火山見酒!』に書き換えられていた。
次なる地、讃岐国亀ヶ池。
「次の目が僕の故郷でよかった! こんな形になったが里帰りができる!」
「よかったな、忠八のおっちゃん!」
「ああ。妻にも会いたいし、きみたちにもタマムシ型飛行器の一号機を見てもらいたい。うどんの前に我が家に立ち寄ってくれないか?」
そしてやってきた、忠八の実家。
庭と大きな蔵のある平屋で、忠八が元軍人であることもあるのかヤマトではなかなか立派な住まいである。忠八が門をくぐると、縁側にはひとりの女性が腰かけてお茶を飲んでいた。
「おい! 寿世、帰ったぞ!」
「えっ? って、あなた忠八さん! あらまあ、どうしてここに!? 今頃アルビオンで飛行器の会社を経営しているんじゃなくて!?」
「紆余曲折あって、今はレアガルド王国の使者としてここにいるんだ。まずは話をしよう。みんな、こちらが僕の妻の寿代だ」
忠八の妻、二宮寿代は、桜色の着物に上品ないでたちの女性だった。わざわざ草履をはいてまで一同を迎え、恭しく首を垂れる。
「あらあら、レアガルドからはるばるお越しくださいました。夫よりご紹介に与りました、二宮寿代と申します。ところで……」
寿代はいつの間にか忠八の革靴を草履で踏み、凄みのある声で忠八に尋ねた。
「ず い ぶ ん か わ い い 子 た ち を お 連 れ で す ね ぇ 、 あ な た ?」
「こ、これはそう言うことではなく……」
「なあ! 奥さん笑ってるのに笑ってないよ!?」
大倭皇国陸軍亀ヶ池分隊庁舎の前、『食事処かめちゃん』。
「ここでもカメだってさ」
「ヴィントちゃん、先日のは太陽語で、ここのは地名由来だと思うよー?」
歴史のある店のため店内は座敷席しかないが、店の外に洋風の円形テーブルと背もたれのある椅子、専用のパラソルも用意しており、外国人客にも対応している。空たちは座敷席にかけた。
一同は忠八と寿代夫妻のおすすめだと言う『てんこ盛り讃岐うどん』を注文。海苔やゆで卵、牛鍋に使う薄切り肉など様々な具が乗っているが、これはラーメンに着想を得たことによるらしい。寿代が説明する。
「讃岐うどんの特徴はね、『イリコ』って魚を出汁に使っていることとコシのある硬い麺が特徴かな。おいしいからぜひ味わってもらいたいわ」
「うん! いっただきまーっす!」
ヴィントはフォークにうどんを巻き付けて大口で頬張る。ここ数日で箸をマスターしたらしい空とリィンだが、ヤマト人がそろって麺をズルズルとすすって食べていることに動揺している様子。そんな空たちの様子にひまりが気付く。
「ん? ああ、これがヤマトの食べ方にござる。確かに大陸西部の人々には行儀が悪く映るでござろうが、麺を景気よくすすって食べることが『粋』と言う物でござるよ」
「そうですか。では、ヤマトに倣って」
ここには行儀まで訓練されたヤマト陸軍兵士も多くいるし、旅を率いるこの国の女皇も大名も同じように麺をすすって食している。これがこの国のテーブルマナーなのだろうと、空もリィンも納得した。
そこに、亀ヶ池分隊の軍人が忠八に「久しぶりだな」と声をかけてきた。親しげ言うよりは、口調や態度から揶揄に近い。
「よぉ、二宮。軍辞めてアルビオンに渡ってまで子供じみた夢を追いかけてってマジか? やめとけいい加減に。人が空を飛べるわけがねえんだからよ」
「飛びましたよ?」
「へっ?」
その言葉に、軍人のみならず食堂の誰もが「えっ!?」と振り返って黙った。
「飛んだ? マジか?」
「ええ。アルビオンにある錬金術を用いた最新型アルケミックエンジンを搭載することで実現しました。何度も『長岡旅団長(隊長)』にも申し上げてきたとおり、僕の飛行理論は完璧だったんです。事実、タマムシ型飛行器でレアガルド王国南方まで飛んでいくことができたのですよ」
忠八はこのヤマトで飛行技術を確立し、飛行器に搭載するためのエンジンもしくはそのエンジンの開発費用を軍に要請し、それがことごとく却下されたためアルビオンに渡っている。その経緯を知っている空が、横から口をはさんだ。
「ヤマト陸軍の皆さん、これは事実です。わたしを領主のひとりとするレアガルド王国南東部に位置するフォーマメント州まで、忠八さんが開発した空飛ぶ機械が飛んできたのですから」
「マジだったのか……。寝言や妄言としか思えなかったことが真実になったとか、もう俺どうしたらいいか分かんねえよ……!」
軍人は本気で忠八の夢など妄言に過ぎないと思っていたようだ。だがかめちゃんの客たちは忠八の夢を応援していたようで、「飛行器の完成おめでとう」「夢が叶ってよかったな」「これでまたひとつヤマトが世界に誇れる実績が生まれた」と喜びと称賛の声を上げたのだが。
「お主ら黙らんか!」
信音が騒ぎ立てる一同を鎮めた。
「こっ、これは織田信音様! こんな地方までようこそお越しくださいました!」
陸軍の兵士たちは、その場で背筋を糺して敬礼する。
「まあこれも視察だな。だがお主ら勘違いするな。二宮忠八は確かにヤマト人だが、忠八の経営する会社はアルビオンにあり、販売元も特許も交通法基準もすべてアルビオンにある。つまり世界的に、そして公式に見れば、これはアルビオン諸島連合王国の名誉じゃ。お主らの上官に伝えよ。お主が二宮の確かな技術を絵空事と嘲笑ったことで二宮はヤマトを見限り、結果ヤマトは愚かにも、世界に誇れる偉大なる発明もその技術者もアルビオンに明け渡してしまったのじゃ、とな」
かつて忠八を嘲笑った者は愕然となるが、彼を応援していた者は「そんなの気にするな! お前は地元の誇りだ!」「発明もとはヤマトにあり!」と励ました。
だが、そんな一同に忠八は言う。
「みんな、約束する。僕はいつの日かこのヤマトの空にも、飛行器を飛ばして御覧に入れることを。そのためにはしっかりとした機体の製造、免状や航行に関する法整備、やることがたくさんある。だからみんな、またアルビオンに赴く僕の背中を押してほしい!」
そして人々は盛り上がり、普段なら雑談程度の賑わいしか見せない食事処もついにお祭り騒ぎになり、空や信音たちには二杯目のうどんやかき揚げなどの具がふるまわれ、しかも店長のご厚意によって一同の食事代を完全無料としてしまった。
「忠八さん、皆さんに慕われていたんですね」
「そのようだね。僕は今日初めて、それを実感したよ」
寿代を残し、次なる旅先へ。
サイコロにはついに『・第二のうどんワールドを味わえ! いざ春日国へ!』の面が追加され、この目が出れば一気に常盤の国までが近くなる。問題は未だ常盤国への面が無いこと。次で振るサイコロにぜひ登用してほしい。
「空、お頼み申し上げる! 必ず春日国行きの面を出していただきとうござる!」
「師匠、頼んだよ!」
「お願いよ、空ちゃん。グルメもいいけど、なすべき視察を終わらせてそろそろレアガルドに帰りたいもの」
「そうは言われてましても、確率は六分の一。目を自在に操る魔法でもあればよいのですが」
「そんなことをしても、あたしの目はごまかせないからねー?」
「本来のサイコロが示す数もこやつの見通すものも『目』だけに、じゃな」
そしてサイコロを振る。
今度は、蝦夷国行きが出てしまった。
伊織以外の一同は駅舎の地面に崩れ落ちる。
そんな彼女たちに、寿代がひと言。
「これはまた……、運任せの視察なのですねー?」
「あぁ寿代。僕の旅の無事を祈り続けてくれ」




