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八拳演義 – A Saga of the Sky-Color Warrior Girl ~記憶喪失の武術少女・空(クー)は、自分探しの旅を始めました。~  作者: 旅わんこ
第二十二章 伊織プロデュース! サイコロ任せの美食地獄ツアーどうでしょう
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第二十二章 伊織プロデュース! サイコロ任せの美食地獄ツアーどうでしょう ~地獄の旅が始まんぞこれ!?~

 翌日に常盤国訪問を控えた夜。

 稲葉山城、女湯。

 リィンは信音や空たちに尋ねた。

「そもそもですが、神様って本当にいるのでしょうか?」

「何じゃお主、藪から棒に。まあ昔から人々は、おると信じておるから神話としてしたためたり偶像を神と見立てて祈りを捧げておるのじゃろう。科学的に見れば誰も見たことのないものを確かに存在するとは言い難く、しかし陰陽師など一部の霊的能力、海外ではシャーマニズムと呼ぶが、そのような力を持つ者は確かに神の言葉を聞いたと言い、見事に観測しえぬ事実を言い当て、時には予言すらする。伊織のアカシックレコードを閲覧する能力は神の存在を証明するものとは言えぬが、あやつの能力を含め神の導きとしか説明できぬこともまたこの世には多くあるからなあ」

「そうですか。空はどう考えるの?」

「はい。信音公のおっしゃることに深くうなずきはしましたが、ひまりからレアガルド伝記のことを聞き、またかつてシュトラル創世教がほかの宗教を迫害した歴史があったこと、神ではなく『毘盧遮那仏』を祀る宗教『遮那教』があることから、世界には多くの宗教があるのだと言うことを陸軍で学び、ひまりを旅の仲間と迎えてからわたしなりに宗教を科学してみることにしました」

 信音もそれには興味を示したらしく、「ほう、それでお主の答えは?」と食いつく。

「はい。ヤマトにも神は語り継がれ、それは八百万に宿るとされ、ヤマト北方にある『蝦夷国(えぞのくに)』の先住民『アイヌ民族』では、神は動物の姿をして我々の前に現れると語られています。国、地域、民族によって神の概念は様々。しかし共通している点は、『神は人々を導く存在である』『神は人々に敬われる一方で恐れられる存在である』『神は観測されていない概念であり、その概念によって人の心は救われている』『神は乗り越えられる試練を与えると言う布教者ほど身勝手な宗教的盲目者に近い』『結果、全人類を救い切れていない神もまた万能ではないことから、人間から信仰を得ている神もまた人々によって救われている』、そしてここからが重要なのですが、『神は八百万でありながら神は唯一絶対の存在として語る宗教もあり、動物や人の姿を得て現れたり自然そのものに神が宿っていたり、あるいは偶像崇拝が許されない姿なき唯一絶対神の存在が語れていたり、これらは幾重にも矛盾している』。その矛盾を一発で解決できる答えはすなわち、『神は世界そのものである。と言う考え』に至ります」

「神が、世界そのものじゃと……?」

「はい。これは少し脱線する話になりますが、ヤマトで言う鬼や魑魅魍魎、大岑帝国の神龍、大陸西方のモンスター、大陸中南部の悪魔ヤカ……、まあ我々が知るヤカは人間の冒険者でしたが、ほかにも世界中で語り継がれる妖怪もまた、誰も見たことも観測することもできず語り継がれてきたもので、それらはだいたい自然現象とともに語られることが多いものです。

 例えばヤマトで言えば川で子供を引きずり込むとされる妖怪『河童』ですが、川が生み出す水の流れから抜け出せなくなる事故から子どもを守るために語られる『戒めから生まれた妖怪』と推測できます。つまり神も妖怪も自然現象や人々の感謝の念や畏怖の念から生まれたと推測することができ、もとを糺せば自然であり、文化であり、人の心であり、世界です。繰り返しわたしなりの答えですが、ゆえに『神は世界そのものである』と言うことです」

「なるほどのう。世界こそが神であるか。であるならば伊織は、いや萌桜院家は古来より誰に対して祈りを捧げておるのじゃ? 世界か?」

「それは素晴らしいですね。世界に祈りを捧げることでこの世界の平穏と安寧を願うということですか。ヤマト、何と素敵な国でしょうか」

「そんな仰々しいものか? おそらく昔の人も、自分が信じたいものを神と定めて災害や戦争から我らを守り給えとすがっていたに違いなかろう」

「やはり、神は自然から生まれたようですね」

「かもなあ」

 ヴィントは宗教やら哲学やらについていくのが難しそうで、のぼせるほどでもないお湯の中でのぼせてリィンに介抱されていた。ひまりは空の意見を聞き、ふとレアガルド伝記について思い出す。

「では、エンシェントエイゼルンサーガをもとにレアガルド伝記を執筆したと言う神の声を聞いた者は、世界そのものと精神的あるいは霊的なつながりがあったと言うことでござろうか。それこそ、伊織陛下と酷似した能力を持っていたとか」

「考えられるのう。レアガルド戦記、各宗教の在り方、伊織の力、アカシックレコード……。この世には科学では読み解けんことが多い。だがそれらの謎を解き明かそうとするのもまた面白いものじゃな」

「然様にございますな。……そろそろヴィントも限界でござるな。今日はこのあたりで上がらせていただきたく存じます」

「ん。妾はあと酒を一杯飲んでから上がるぞ~」

「はっ。空、あとはお頼み申す」

「分かりました。先に寝ていてくださって構いません」

「ああ。おやすみ、よい夜を」

「おやすみなさい」

 その後、木のお盆に乗せたとっくりが空(カラ)になるまで信音は酒を楽しみ、空に支えられながら千鳥足で風呂を出た。


 翌朝。

 空の蒸気駆動車、織田家と萌桜院家専用馬車にて、『美濃駅』に到着。ここから先は鉄道で向かう手はずなのだが、ここに来てそれまでおとなしかった伊織が大きめのサイコロを手にして一同を集めた。

「みんなちゅーもーく! これからこのサイコロで、あたしたちの旅の行き先を決めたいと思いまーす!」

「は? 何を申すか、伊織。向かうは常盤国の開発地であろうが?」

「このまま行ってもつまんないじゃーん。旅には面白みがないと。ねぇ、貴族になるまで旅をしてた空ちゃんとひまりちゃん?」

 伊織に話を振られた空とひまりは口をあんぐりと開けて顔を見合ったが、この場合頷いていいものだろうか。空が慎重に言葉を選びながら答える。

「旅に目的地があるなら、道中でおいしいご飯を食べたり絶景を楽しんだりするのはアリだと思いますが、旅路から脱線しすぎた寄り道はしたことが無いですよ?」

「じゃあしよう! 今日はしよう! と言うわけでサイコロ作って来たよ~?」

 伊織が作ったサイコロは、拳ほどの大きさもあるものであった。しかも面には目(数字)が彫られているのではなく、張り付けられたヤマト紙に字が書いてあった。

 その内容は。


・まずは腹ごしらえ! 駅舎フードコートで五平餅を食べよう!

・いきなり北方遠征! 蝦夷国で本場の豚丼だーい!

・まずは海だ! 七橋国(現・相模国七橋町)で開戦/海鮮どーん!

・ヤマトのおもてなし! 山城国(やましろのくに)で古都料理を味わい尽くせ!

・燧灘(ひうちなだ)を眺めながら! 讃岐国(さぬきのくに)でうどんを味わうどん!

・船に乗ってはるか南へ! 太陽国(ティダ・クク)と言ったらゴーヤーチャンプルー!


「と言うわけで、振って出た面のところまでご飯食べに行くよー!」

 ……と言う物であった。

 一同唖然。そしてしばしの沈黙ののち、信音は絶叫する。

「バカか!? お主バカなのか!? 今からお主は実家に帰り我らは開拓地視察の任があると言うのに、今から出た目次第では遠くに赴きただ単に飯を食いに行くだと!? しかもなぜそれをここでやる!?」

「いっぺんにまくしたてないでよメンドい。だって旅は面白い方がいいじゃない? せっかくのレアガルドの使者さんたちに美味しいもの食べてほしいじゃない? 二宮さんは里帰りができるじゃない? それにこのサイコロを城で取り出したら絶対に信音ちゃん引きこもっちゃうじゃない? 一大決心ってのは、逃げ道をふさいでからするものなのだよっ!」

「そんなことをしておる暇があるか! 北方はともかく西方の美食堪能と忠八の里帰りなど帰り道にでもしてもらえよう! 少しは客人の都合を考えたらどうじゃ!」

「それ信音ちゃんが言う~? サインもらう任務だけだった使者さんを引き留めて城下町観光させといて?」

「文化交流とカリオストロ協会に関する両国の意見交換のためじゃ! それに付き合わせる規模がおかしいわ! おい護衛たち!」

 もう信音も付き合いきれない。いい加減に伊織を連れて帰ってほしいが、「制御が外れた伊織陛下の暴走ぶりは信音公もご存じでございましょう」と完全にあきらめていた。

「と言うわけで、『サイコロの旅』スタート! はい、空ちゃんがサイコロ振ってね?」

 伊織は空にサイコロを手渡す。出る目次第ではいきなり蝦夷国か太陽国か。

「責任重大です。できれば近場で、できれば駅舎で……。ちなみに陛下」

「辞退したいとか言い出したら、この場の誰かが抱える墓場まで持っていきたい秘密を新聞にして発行しちゃうからね?」

「記憶喪失であるわたしにはそんなものなどないとしても、ほかの人の秘密を暴露させるわけにはいきません! 責任を持って投げさせていただきます!」

 もう駄目だ。地獄の旅の始まりだ。ひまり、ヴィント、リィン、忠八、信音、そして彼女の衛兵たちは酷く頭を抱えた。

 伊織は歌う。

「サイコロフレフレサイコロフレフレ、乾坤一擲美味求め~♪ サイコロフレフレサイコロフレフレ、旅は道連れ世は情け~♪ どぞっ!」

「てぇっ!」

 賽は投げられた。

 空が出したサイコロの目は、六番。

 太陽国への航海が決まってしまった。

「おい師匠! いきなりかよ!?」

「皆さん、申し訳ありません……」

 空、公衆の面前で土下座した(失意にくれて崩れ落ちた)。

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