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第二十章 織田信音の日常と言う名の野望 ~織田信音公はお茶目な大名のようです。~

 さらに翌日。

 美濃国城下町、八田権兵衛の賭場。

「おう、姫様! 今日は何用でいらっしゃったんで?」

「おう権兵衛! 今日はちょっとした『サミット』じゃ」

「さみ? 何ですかそれ?」

「議会のようなもんじゃ。奥の遊戯場を借りるぞ」

「へぇ。入場料で五人前頂戴しやす」

 未成年であるヴィントは数に入れていない。だが茶と団子代はしっかり人数分勘定した。関係性がどうであれ、商売である以上は客からカネ(銭(ぜに))は頂かねばならない。

 六人前の茶と団子が届き、サミットの概要を信音は説明する。

「まあこんな風に、妾はひとりあるいは少数の護衛のみで下町を歩くのが趣味での。その趣味のおかげで新しい遊戯に触れることができ、民の声を直接聞くことができる。できれば北陸や関西にも行きたいところなのじゃが、小娘の脚どころか馬を飛ばしても散歩という次元で訪ねられるものでもない。せめて我が足の届くところだけは見ておきたいのじゃよ」

「ご立派です。わたしもマグ以外のヤマトの文化には興味があったので、こうして本場に来ることができて何もかも色鮮やかです」

「これで満足するな。春になればヤマト中で桜が咲き乱れる。その絶景たるや、この世そのものが極楽浄土と化したと錯覚するほどじゃ。さて話の枕はここまで。妾がここをサミットの場としたのは、あの『ド短気ドM家臣(=桑原)』がいないところでゆるりとレアガルド及び周辺国家のことを聞きたいからじゃ。署名もくれてやったし、巫女のことも紹介してやったのじゃ。このくらい付き合ってもらってもバチは当たるまい」

 そう言って、信音は大太鼓のバチを自らの頭にこつんと当てた。罰と撥を掛けたようだ。

「お茶目な王国議会議長ですね。それについては是非ご存じ頂きたく」

 そして空とひまりとリィンは、それぞれの立場や視点から見たレアガルド王国に関すること、そしてその国を脅かすカリオストロ協会との戦いのあらましを述べる。またアルビオンにある忠八の会社も詐欺に遭いかけ副社長のキングスレイが知力ひとつで撃退したことも話した。

 ヴィントは直接カリオストロ協会に関係しているわけではなさそうだが、そもそも彼女をひとりとした出稼ぎ労働希望者は奴隷商に騙されていたこともあり、その奴隷商がカリオストロとつながりが無いと問えば否定はできない。カリオストロが様々な悪事を展開していることを考えれば、疑えば疑うほどカリオストロのせいにしたくもなる。

「なるほどのう。だがキングスレイとやらの推理を聞くに、今までお主らが撃退したのはサンティーエの装甲艦シリーズであるならば、逆に言えば副協会長を撃退した今、残る一等装甲艦シリーズの拘束も時間の問題で、カリオストロ協会の別の勢力がもしあるのであれば『振り出しからの調査』になるじゃろうな」

「確かに、そうですね。となれば、カリオストロの方から仕掛けてくるのを待つか、これを機に徹底的に詐欺や不法就労、錬金術工房やゴーレム事業者を当るべきでしょうか」

「星の数ほどもある事業者じゃ、一軒ごと回っていたら何百年後にそれが終わる? そもそも将棋と同じと考えてみい。将棋は王将のコマさえ取れれば勝負は決する。すなわち、カリオストロ二世フランソワ・バルサモなる者を討ち取ればよいのじゃ。残るカリオストロ残党は好きにさせておけ。どうせ自分らでは何ひとつできん小童(こわっぱ)じゃろう。そんなもの、早々にシッポを出してお主らに討たれるのが目に見えとるわ」

「では、やはり一名でも多く署名を募り一日でも早く臨時議会に提出し、臨時議会に動いていただくよりほかはない、と言うことでしょうか」

「現実的な話、そうじゃろうな。しかし地球儀を見るに、パダーノ共和国はサンティーエ帝国、あ、いや今は共和国じゃったな。その国の南に位置しており、サンティーエに率先して動いてもらうしかないじゃろう。しかしパダーノ生まれのカリオストロ協会に、サンティーエ海軍大将だった者の暗躍。借金まみれで誰からもつけ入れられやすいあの国は、果たしてどちらにすがるのじゃろうな」

「つまり臨時議会に協力するとも、パダーノないしカリオストロに付け入られるとも考えられられる、と言うことですね」

「然様。共和制となった国の今の初代大統領は、周辺国どころか国民にすら頭が上がらぬ立場にある。押し付けられた責任から解放されたくもあり、一日でも早くサンティーエを正常に戻したい思いもあり、がんじがらめになった大統領はどのような判断を下すか。妾なら切腹もさせてもらえぬ今、手を差し伸べてくれる者にこそすがりたいがの」

 そこに、リィンが意見した。

「それでは姫様。サンティーエが裏切るかもしれないと言う可能性が示唆された今、レアガルドはどのように動けばようございましょうか?」

「さあの。下手に助言して引っ掻き回したらこちらの責任にもなろう。臨時議会の体制が整ったのなら臨時議会内で解決せい。臨時議会内で互いに監視し合って疑心暗鬼になるなら、いっそ第三者監査機関を入れるがよかろう。……あ。あ~あ、余計なことを言ってしもうたわ」

 ヴィントは「マヌケだな~」と言い放つが、信音の最後の一言にはリィンも深く感謝して静かに頭を下げた。

「しかし、聞けば聞くほどカリオストロは厄介じゃの。我が国も、特に外交の重要拠点たる西土はよりカリオストロ対策を講じるとしても、人はウマい話に飛びつきがちじゃ。それは妾にも言え、他人事にあらず。これからは大陸各地のみならず、更に向こうのアルビオンとも連携せねばならん。カリオストロ対策と共に国交をより深化させるべき時が来たのかもな。キングスレイ・ドイルなる者も気になるからな」

 そう言う信音に、忠八が答える。

「ええ、ぜひお越しください。あるいはキングスレイから姫様に謁見させましょう」

「そうだな。お主の事業も……、って、そうじゃ! お主らは飛行器を作っておったのじゃな。そのための助力もせねばと先日約束しておったのをすっかり忘れとった。どうじゃ? ヤマトで飛行機事業を開く話、お主の方は忘れておるまい?」

「実は忘れていました……。一度カリオストロに目をつけられた我が社にとってもアルビオンにとっても、カリオストロの脅威は看過できないものですから」

「うむ、さもありなん。しかしカリオストロ関係の話も今はし尽くした。ここらで骨休めのためにも飛行器事業について、それもそこそこ真面目に話し合わんか? ここから先は商談じゃ。かしこまらんでよいぞ、ずいずい踏み込んでくるがよい。お主が所属していたと言う亀ヶ池分隊が聞きもせんかった飛行器事業、妾が真面目に聞いてやろうぞ」

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