第十九章 ヤマトの姫将軍・織田信音 ~ヤマト国民として僕はどう反論したら?~
信音以下一同、エスプレッソコーヒーを飲みながら。
「あのお人よし国王からの書とお主らからの報告。確かにパダーノ共和国に端を発する組織カリオストロ協会とやらは、なかなかに面倒な奴らのようじゃ。お主らがこうして陸路と海路を使ってここまで来られたこともあるし、錬金術と機械技術に秀でしヤマトがいつ狙われてもおかしくなく、決して他人事ではない。よかろう、『カリオストロ抵抗臨時議会』に協力してやろうではないか」
信音の酔いが完全に冷めたところで本題を切り出す。すべてを把握した信音は署名に協力的な態度を示すが、多くの家臣たちは疑念を隠さず言葉にする。
「『カリスト』協会だって? 聞いたこともないぞ、そんなの」
「署名の体で我が国を何らかの形で利用しようとしているのではないか?」
「得体のしれないものに、我が国や姫様の名を使わせるわけにはいかん!」
「魔王様、即決などせずお考え直しを!」
だが。
「『たわけ』がああああああ!」
ざわつく家臣たちを、自らの大声と名銃『ネイビー1851』の銃声で黙らせた。
「ま、まお……」
「バカか貴様ら? アルミス州の一件を始まりとし、その先の事件のあらましまで詳細に事件簿としてまとめ、王国議会も対応の限界を認め、その上で我らに助力を求めてきておるのだ。こんな長ったるく退屈でしかない物語を考えてまで誰をたばかる? ただの錬金術事業者を騙る詐欺師に自らの領土や領民がむしばまれてゆくと言う失態を何故こんな異国の小娘に暴露する? 連中は恥を忍んで我らに協力を求めてきておるのだ。奴らの断腸の思いも汲めんのか、この能無しのくず野郎ども!」
それは言い過ぎでは? 空たちは青ざめた。
そのうち、魔王と呼ぶ信音に名前を忘れられた桑原志和が挙手して意見した。彼は『筆頭家老』の立場にある。
「まっ、魔王様。レアガルドの状況はよく分かりました。しかし、やはり即断はよろしからぬことかと。熟考に熟考を重ね……」
「そうじゃな。何事も即断は良くない。……と思うかバカタレ!」
「ひっ!?」
「これは! 即断せねば! ならぬことが! なぜ! 分からぬ!?」
信音は拳銃のバレルを握り、グリップの底で家老桑原の頭をコンコンと叩きながら滾々と説教した。
「これは一刻を争う事態じゃ。こうしている間にも、カリオストロなる連中は近い国から順に蹂躙しておるに違いない。『カネのために手段を選ばぬ女というのは恐ろしいもの』じゃ。『人を人とも思わぬ者は、人の生き血すらワインに変えて、人の命すら金に換えてしまう』ものじゃ。そんな連中が世界の半分を掌握してみろ、どうなる?」
「どう、なりますか?」
「明日じゃ! 明日、世界は、滅びるのじゃ!」
ついに、信音は「ごつっ!」と音が鳴るほど桑原の頭を叩いた。
「これ、パワハラですよね」
「レアガルドであれば『コンプライアンス違反』でござろうな」
「ヤマト、こんな陰湿な国だったんだな」
「んー、お姫様がドSなだけかもしれないわね」
「ヤマト国民として僕はどう反論したら」
だが、それは桑原には効果があったようで。
「ああ、魔王様。久方ぶりに刺激的でいらっしゃる……」
「キモいわ!」
ついに、信音はその家老の頭を踏み潰した。彼にとってはご褒美であったようだ。
「彼は、ドMと」
リィンは青褪めて引いた。
「ち、違いますぞ、断じて違いますぞ。吾輩はご幼少のころから面倒を見させていただいていた魔王様の成長が心から嬉しく」
「黙れこの被虐趣味の変態家老が! ……使者らよ、答えよう。お主らが求める署名に我が名を記すことで、妾はカリオストロ抵抗臨時議会に協力の意を示す。こんなものでよければいくらでも書いてやる。カリオストロ協会とやらの壊滅は、すなわち我が国に悪意が伸びることを阻止することでもあるからな。また我ら大倭皇国の民に一切の損はない。それどころかカリオストロ協会とやらの存在と彼奴等のカビともゴキブリとも取れる侵食力と意地汚さが知れただけでも儲けもの。無知はすなわち脅威。知ることで策も講じられよう。呉空。河上ひまり。ヴィント・フォン・リヒトホーフェン、リィン・フィル・ライトアームズ、二宮忠八。妾は、お主らに感謝の意を示さずに今宵は眠れぬであろう。褒美は後日取らす。さあ、署名の百枚や千枚、いや一万枚、軽く書いて見せようぞ! はーっはっはっはっは!」
腰元のクマは思った。
「あ、酒抜けてないや」
さらに翌日。
「本当に千枚書いてくださいました。徹夜で」
大広間の上段、布団の前に机を用意して魔導ランタンで明かりをつけて『濁酒』を飲みながらヤマト紙にカリオストロ抵抗臨時議会に対する協力の同意を示す文言と署名をした書類を積み上げていたのであった。空たち五人がかりで確認すると、一字一句の違いなく、そして押印も忘れず、完璧な署名を遂行したのであった。
信音は半分寝言で言う。
「お~い、クマぁ。約束通り書いてやったぞー。様々な便を用意してレアガルドにサンティーエにシュトラルラント、ああ、えーと、カリオストロ抵抗臨時議会に名を連ねし国々に送りつけておけ。これで妾の役目も終わりじゃ。ゆえに、寝るぞ」
そして信音は、『朝っぱらから寝酒に酔って爆睡した』。
空は戦慄しながら思った。
「自由過ぎます。領主がこれでヤマトが成り立っていると言うことは、わたしもイハトヴの社長としてこのくらい自由に経営」
「師匠! こいつは見本にしちゃダメなやつだよ!」
はてさて。
署名は得られたとはいえ、
空たちのヤマト滞在、どうなることやら……。




