第十九章 ヤマトの姫将軍・織田信音 ~異文化交流です。~
蒸気駆動車を貨物者に載せ、蒸気機関車がひた走ること二日。
律令国『美濃国』。
「この地の名を美濃国と申す。国の中にある各小国『律令国』はレアガルド王国で言うところの州に相当し、貴族に相当する大名が律令国を治めてござる。そのヤマト全ての律令国を制圧したお方こそ、第九代織田家当主、織田信長公にあらせられる」
美濃駅前には、それは立派な織田信長の黄金像が建てられている。
「そうなのですね。そう言えば、ひまりも主に仕えていたと言っていましたが、その方も律令国を治めし大名と言うことでしょうか?」
「然様にござる。国名を『七橋国』と申し、拙者は七橋国の大名に仕えてござった。流行り病で多くの民が倒れ、我が主もまた。そして我が主は正室側室含めて七人の妻をめとっていたが、おなごばかりが生まれてお世継ぎができず、結局『相模国』の大名や名家に嫁がせるに至り、七橋国も相模国の一部となりて今に至ると言うことでござる」
「そうなのですね。そのような歴史が」
「都合が許せば、ぜひ七橋国も観光していただきとうござる。名所と言う名所はあまりござらぬが、龍神が祀られし島があり、海の幸をふんだんに使った郷土料理は美味の一言に尽きるからな」
「美味ですか!? それは何を差し置いても味わいたいものです!」
「言うと思ったでござる。それを楽しみに、まずは織田信音様にご挨拶でござるよ」
だが。
稲葉山城。
「はい!? お会いできないと言うのですか!?」
何と空たちは、門番に入城を断られてしまった。
「何度も申し上げております通り」
「しかし我々はレアガルド王国からの使者として赴いたのです。この通り、織田信音様からの謁見許可状も我らが主より預かっております。それでも信音様にお目通り叶わないと言うのですか?」
「何度も申し上げております通り」
「ではせめて理由だけでもお聞かせください!」
「……引きこもっておられるのだ」
まさかの答えに、空たちも言葉が出なかった。
城下町。
茶屋『愛染』。
先ほどの者とは別の門番の案内で、空たちは団子と緑茶を堪能しながら、彼の話を聞いた。
「現頭首の信音様だが、実は五兄妹の中でも末っ子でいらっしゃるのだ。しかし長男信繁様はご病気で亡くなられ、次男信家様は横暴極まりなく次期頭首には向かずと先代様に寺に出され、長女レン様は足利家に嫁ぎ、残るは次女メイ様と三女ネネ様のみ。しかし先代様も次のお世継ぎ候補を残すことなくいつぞやの流行り病にかかり、命は助かれどお世継ぎを残せぬ体になってしまわれたのです」
「それは……。ご愁傷さまです、では片付かない問題ですね。ではメイ様とネネ様が女王としてひとまず国をまとめねば……、って、それでは信音様はどなたなのですか? 織田家とは別の大名から引き取った養子とかですか?」
「いえ。信音様はすなわちネネ様にございます。実はメイ様は政治や嫁入りよりも農業がお好きで、家臣を引き連れ『上野国』で農家を手伝っているのです。城暮らしよりもよほど自分には合っていると、よく大根やナスやキャベツなどの農作物、養蜂で得たハチミツなどとともに手紙をお送りくださるのです」
「また変わったお姫様ですね」
「それはもう……。残されたネネ様に国をまとめていただくよりほかはなく、ネネ様は織田信音と名を改め、自らがお世継ぎをお産みになるまでヤマトの指揮を執ると名乗りを上げたのですが、近頃は士気も衰え」
「あ、ヤマトギャグですか」
「そのようなつもりはございませんが、とにかく近頃はわけもなく無気力なのでございます。おかげでついたあだ名が『音信不通の第六天』。周辺の大名からもナメられている状態なのです。これでは『反織田派』の大名に城を攻められ天下が奪われるのも時間の問題かと」
「信音様や先代様の味方の大名はどのくらいいらっしゃるのですか?」
「ヤマトを北陸、中央、関西に分けるとするならば、中央の大名はまず九割がたが味方です。地方の大名らも、信長様の代からのお付き合いのある大名は味方に付いてくださってございますな」
「友達づきあいはゼロではない。となると」
空とひまりは顔を見合わせ、ひとつ頷いた。
「『うつ』、ですね」
「はい?」
「では、我々が信音様を引き締めて御覧に入れましょう。まずは入城をお許しいただくか、この近くの遊び場まで信音様にお越しいただくよう説得してください。これも異文化交流です」
「はぁ……」
城下町遊技場『八田権兵衛の賭場』。
普段ならサイコロを使った賭博『丁半博打』で盛り上がるところだが、多くのいかつい男たちを前に空がレアガルドの遊び道具を広げていた。そこに、数人の武士を引き連れてひとりの少女が現れた。
「ここか? 妾を待っておると言う外国人は?」
その少女の身なりは、着物に袴に裃と言うもの。およそ女性が着るものではない。そして長い黒髪は後頭部でひとまとめにしており、前髪も左右に分けて整えている。だが、その表情はすさまじくやる気も覇気もないものであった。
「これはこれは、織田信音様ではござりませぬか! 何用でこのような賭場までお越しくださったので!?」
店名の由来でもある賭場の主、八田権兵衛が、土間まで下りてきて膝をついた。
「おお、権兵衛か。久しいな。苦しゅうない、面を上げい。……いやなに、使いの者がレアガルド王国の文化を披露したいと申すもので、外交と言う名目で息抜きにな」
「然様にございましたか。あちらに控えておる者かと」
信音は権兵衛が掌で示す方を見やる。そこには異国からやって来たと思われる女性が三人と男がひとり、見知った者がひとり。
「おお!? そなたはひまりではないか! 元気にしておったか!?」
なんと信音は草履を脱ぐことも忘れて畳を踏み荒らしてひまりの前にやってきた。
「はっ、お久しぶりにございます。信音様におかれましても、ご機嫌麗しゅう」
「堅苦しい挨拶はなしじゃ! しかしお主、今は何をしておる?」
「レアガルド王国に渡り現地の寺院を参拝し、我が主の骨を奉納する旅を終え、今はここにいる仲間たちとレアガルド王国で頂いた領地を治め、リゾートを……、そうですね、休養のための家を営んでいるところでございます」
「ほー!? お主が大名か!? それはすごい! 亡き主も天国で喜んでおるじゃろう。して、お主らがひまりの仲間か?」
織音の言葉に、空はうなずいた。
「はい。初めまして、織田信音公。わたしはレアガルド陸軍中尉相当非常駐兵、冒険者、フォーマメント州領主陣がひとり、そして株式会社リゾート・イハトヴ社長、名を呉空と申します」
「たいそうなご身分じゃな。して、レアガルドの遊戯を紹介してくれると言うことじゃが、これがそうか?」
「はい。それではご説明いたします」
空が用意したのは、正方形状に四つ並べた囲碁のための碁盤。それだけのフィールドを用意しなければできない遊びとは?




