第十八章 八極拳VS獣王拳 ~新技披露と決着です!~
「召し上がれ。私が作ったのよ」
「ふゅううううううう! これが、これがプリン……! 王族や上流貴族の晩餐会でしか出ないと言われる幻のスイーツではありませんか! それを作れるなんて!」
「レシピは簡単だからね、ここの料理人にも作って作れないことはないわ。でも、空さんはこれを機にしばらく食べられなくなるかもね?」
「え……? それはどういうことですか……?」
天国から地獄へ一転。ひどく絶望する空に、「早すぎるが本題を話すしかないな」とゴールドメイルが切り出す。
「仕方ないようだ、ゴールドメイル。フリューゲルもそれを言うタイミングを選べ、と言うかできれば言うな。空にこんな顔させたくなかったのに」
そんなやり取りを見ていて、エヴィルのジョンはため息をつく。
そしてアルスが領主邸に訪れた本題を話す。
「一同、プリンを食べながらでいいから聞いてくれ。……知っての通り、カリオストロ協会の本拠地はパダーノにあり、パダーノ王府が同協会を擁護しているのか、詐欺や拉致などの被害に遭っている我が国、サンティーエ、シュトラルラントのどの国も手出しができない。
そこで陛下をひとりとする『カリオストロ抵抗臨時議会』はある決断をした。カリオストロとは無縁の国のトップにパダーノ共和国への強制行政を支援するための署名を募り、その署名をパダーノ共和国議会に提出することでカリオストロ協会の解散及び協会庁舎の家宅捜索、悪事の証拠が見つかり次第カリオストロ二世の身柄拘束に踏み切る。そこで陛下は、呉空男爵及び河上ひまり男爵、きみたちにレアガルド王国からの使者として大倭皇国に赴いてもらいたいとのご意向をお示しになられた。
陛下はこうもおっしゃった。これは長旅になる。だが記憶喪失である呉卿にとっては過去を探す旅にすることもできる。強制はしない。断っても構わない。だがこれを機にもっと広い世界を見てみようとは思わないか? 返事は任せる。……と」
「陛下。そうですか。そこまでのご配慮に痛み入ります。では、ひまり?」
空が振り向けば、唇にクリームをつけたひまりがふっと微笑んだ。
「旅にご一緒願えますか?」
「無論にござるよ」
こうして、空とひまりの旅立ちが決定した。
「んじゃ、あとは社長業の引継ぎッスね! 空、自分に任せてもらえないッスか?」
「お願いします。アレットであれば、きっとわたし以上に素敵なリゾートにしてくれるでしょう。ピエリーナも、このリゾートをお願いしますね」
「はいなのです!」
だが話は終わらない。アルスはそのピエリーナにも言う。
「さてヒナギクちゃん。陛下はこの地を、いつかきみたち四人で分割する可能性も視野に入れてこの土地をきみたちに託した。ところでこのフォーマメント州の東側だが、ヴェイダー侯爵領と隣接しているんだ。今は領土を国に取り上げられたが、その一部、隣接する未開拓地をフォーマメント州に割り振りたいと言う陛下のお考えがあり、そこをレアガルド南東部の飛行器発着場として開拓したいそうだ。ついてヒナギクちゃん、いやマルゲリータ男爵。きみにその開拓を任せたい。予算は可能な限り国が出す。飛行器発着場の正式呼称を『空港』とし、『国の南方玄関口であるその空港を幸せいっぱいの空間にして』もらいたい」
「……ふわぁぁぁぁぁぁっ! そんな大役、私に任せていただけるのです!?」
「ああ、陛下に二言はない」
「はいなのです! このピエリーナ、空港開拓がんばるのです!」
「うん。それと」
アルスは一同を見渡し、バッジとショートソードが収められた小さな木箱を取り出した。
「呉空、アレット・ドイル、河上ひまり、ピエリーナ・マルゲリータ。皆は男爵より子爵へと昇格。ヴィント・フォン・リヒトホーフェンにおいてはその勇気と武勲をたたえ、『騎士』としての当代のみの爵位を授与する。残念ながら家族に騎士爵が適応されることはないけど、王様から認められた事実を誇ってくれ」
「分かった、勇者」
そして空たち四人はバッジを受け取り、ヴィントはショートソードを腰に提げた。
叙爵式は本来なら城で執り行われるもの。簡単な式になってしまったが、リゾートに訪れる多くの人が、空たちの叙爵を祝った。聡いアルスは思った。ライノックはこの祝福を与えたかったのかもしれないと。
そして、夏の終わりに旅立ちの日を迎えた。
リゾート・イハトヴにやってきたのは、二宮忠八ともうひとり、青い戦士装束とアルスの剣『ライデイン・ナインス』を提げたひとりの少女。年齢は空やアレットと同じほどだが。
「やあ、お待たせ」
「初めましてね、呉卿、リヒトホーフェン卿、ドイル卿、河上卿、マルゲリータ卿。私はアルス・ライトアームズの妹、『リィン・フィル・ライトアームズ』よ。兄貴からあなたたちの旅に同行するように頼まれたの。よろしくね」
「よろしくお願いします。まさかアルスさんに妹さんがいらっしゃったなんて」
「兄貴、家族のことは全くしゃべらないからねえ。一応両親は健在で、母が領主で父が婿入り。もうひとり弟がいて三兄妹なの」
「そうなんですね。よろしければ、この旅が終わったらライトアームズ領にご挨拶に伺いたいのですが、構いませんか?」
「拒む理由ないって。んじゃ、行きましょうか」
空は振り返る。
湖を背にして、アレットは無言でうなずく。行って来いと。
「……わたしには、旅が似合っているようです」
「そッスね。今度は自分も旅に誘ってほしいッス。何てったって、空の最初の旅の相棒は自分なんッスからね!」
「忘れていません。ではまた共に旅ができる日を夢見て、今はヤマトへ」
「んッス!」
そして空は、車に乗り込む。
助手席にひまり、後部座席にヴィントと忠八とリィン。
蒸気駆動車は、音痴な鼻歌を響かせて軽快に走り出す。
別れは惜しむものではない。アレットとピエリーナ、そしてリゾート・イハトヴの職員たちや利用客たちは、「元気でね!」「お土産話聞かせてね!」と旅立つ空たちをあたたかな声をかけて見送る。
そして、アレットは自らに気合を叩きこんだ。
「副社長、がんばるッス。空に無様なリゾートなんて見せられないッスからね!」
ここから、新たなる旅が始まった。
空の過去よ。どこにある?




