第十八章 八極拳VS獣王拳 ~プリンです!~
その後、イハトヴでとらえた貴族たちの話を合わせると、次のような顛末となる。
その前にアルベール・マトロだが、実は旧サンティーエ帝国の海軍大将(最高階級)であった。戦争より遥か前に大使としてレアガルド王国に渡り、サンティーエとの懸け橋となってきた。だがある時レアガルドの海軍『戦術責任者』がパワーハラスメント加害を理由に懲戒処分を受け、部下たちも心を病んだため、マトロが臨時戦術責任者をも兼任し、その後の長い実績の中で中将へと引き抜かれ、再び大将へ、果てに王国議会の海軍庁長官にまで上り詰めた。
彼にはレアガルドに対する愛国心があり、海軍の仕事も誇りに思っていた。だがそれ以上にサンティーエへの郷愁の思いに駆られることもあり、サンティーエ帝国が崩壊するきっかけとなった戦争、またゴーレムの暴走事件に関しては酷く心を痛めた。
それから数年後、力をつけてきた新体制のカリオストロ協会の使者にこうそそのかされた。「かつて帝国として世界に名を馳せたサンティーエ共和国は、今や他国の支援なくして成り立たない脆弱な国だ。そなたの祖国を救いたくはないか? そのためであればこの『国力の差』を埋めねばならん。そのためにはそなたの協力が必要だ」と。
その使者の言葉(彼のセールストークとフランソワ・バルサモの狡猾さ)には確かな説得力があった。あるいは、今なら詐欺や犯罪だと分かることになぜ手を出してしまったのか、今のマトロには分からない。だがもうカリオストロの口車に乗ってしまった以上は引き返すこともできず、レアガルド国内各地にカリオストロの使者を送り込んでしまった。
そこで、カリオストロ協会の秘密主義を利用し、あるシステムを導入した。それこそがコードネーム制である。いつか誰かサンティーエ帝国出身の何物かがこれに関与していると気付いてほしかったからだ。だがあの夜、空と対峙した時点で、マトロはレアガルドに対する愛国心を捨てており、この国を食い物にしか思わなくなってしまっていた。マトロ自身いわく、あの時最初に詐欺にかけられた時と同様に今も詐欺にかけ続けられているのだろう、そしてその詐欺師はおそらく自分自身だそうだ。
貴族だが、ヴェイダー侯爵、スランド伯爵、ヘルボイス公爵の三家は、代々レアガルド王家や王国議会を支えてきた地主に議員に商会長であった。だが同時に自分たちにとって理が大きい者に対して媚を売るなど、私利私欲で動くような者たちでもあった。
この度、彼らはサンティーエ共和国副大統領の依頼で動いたと言ったがその事実はなく、一等装甲艦の名を持つ幹部『マジェンタ』が彼らに大金を見せて依頼したのである。その結果フォーマメント州をサンティーエ共和国に売り払いサンティーエの『飛び地』になるとしても、彼らとしては全く心が痛まないのである。
結果、マトロは全ての権限を剥奪された上でレアガルド王国にて相応の裁判とカリオストロ協会に関する尋問にかけられることとなり、三家は国家反逆罪が適応されて家名と領土の剥奪、財産の没収、お家取り潰し、事業からの撤退などを余儀なくされた。雇われた冒険者や建築業者たちは貴族から依頼を受けただけであり、彼らの処分は無し、あるいは軽微のものとした(悪質な事業と知って受注した者はその限りにあらず)。
問題は破壊されたリゾートであり、コテージが破壊されては宿泊客を受け入れられない。そこで当面の間は無事なコテージやキャンプサイトに利用客を受け入れるのに加え、湖上ホテル・ヒビキをコテージと同額で宿泊可能とした。破壊された施設の修繕費と修繕が終わるまでのヒビキ宿泊割引差額、および諸経費は、マトロや貴族御三家に損害請求することになる。それらは財産を没収した王家が持ってくれるようだ。
修繕工事が進む中、ボロボロの領主邸を呆然と眺めながら空たちはつぶやく。
「今回の事件、やはりマトロ元長官の祖国への想いにカリオストロ協会が漬け込んだことで起こったと言うことが分かりました。カリオストロ協会。どこまで心無き組織なのでしょう」
「そッスね。利益のためなら人の心すら悪に染めてしまう、そんな人間の所業とは思えないことを平然とするやつだと言うことは改めてよく分かったッス」
「されど国境が邪魔をしてこちらから手を下すことはできず、王家や王国議会もそれはご存じのことでござろう。拙者らには自領を守ることしかできぬと言うのは、もどかしいものでござるな」
「最初はカリオストロ一世さんの錬金術に関する詐欺。そこから妹さんの事業拡大。錬金術に携わる者として、カリオストロ協会のしていることは絶対に許せないのです」
ヴィントやグレン、その他多くの従業員は、リゾート運営と来客のもてなしのためにせっせと働く。新アトラクション設置ではなく破壊された施設の修繕と言う形でさらす無様は、『ゴーレムに乗ってみよう体験』と言うアトラクションを冒険者ヤカが提案したことで穴埋めとした。常連客となってくれた貴族や金持ちは、「まあくじけずがんばってくれ」と応援の言葉を置きに来てくれる。
そしてその中に、アルスもいた。
「やあ。元気がなさそうだね」
「アルスさん!」
「こんにちは、空。それに皆さんも。だから今日はおいしいものを持ってきたんだ」
「おいしいものですか!?」
おいしいものとなるとすぐに顔色も声色も変える空に、アレットたちは「現金だなあ」「やっぱりブレないなあ」と呆れる。勇者パーティーメンバーのフリューゲルがキャンプ用テーブルの上に置いたのは、ホイップクリームが乗ったプリンであった。
「召し上がれ。私が作ったのよ」
「ふゅううううううう! これが、これがプリン……! 王族や上流貴族の晩餐会でしか出ないと言われる幻のスイーツではありませんか! それを作れるなんて!」
「レシピは簡単だからね、ここの料理人にも作って作れないことはないわ。でも、空さんはこれを機にしばらく食べられなくなるかもね?」
「え……? それはどういうことですか……?」




