第十八章 八極拳VS獣王拳 ~新技披露と決着です!~
そして戦いは始まる。
マトロの部下たちが拳銃を向け発砲するが、その銃弾はどれも空たちには当たらない。どういうことだといぶかしむ一瞬のすきに、空たちの中で一番反射神経と素早さに優れたヴィントが敵との距離を詰めて拳銃を持つ男に右手のナイフを投擲、左手のナイフで別の男の腹部を狙う。
「八極拳、『頂心肘』!」
空が教えた八極拳の基本技は見事に決まった。投擲したナイフは外したが男の頬すれすれをかすめることでひるませることに成功し、ナイフを腹に突き立てられた男は間違いなく戦線離脱だ。
「何だこの小娘は!?」
マトロは状況判断が追い付かず、ヴィントの首根っこをつかもうとする手が一瞬遅れてしまった。ヴィントは攻撃した男のベルトをつかんで彼の股をくぐって一団の背後に出て反撃を逃れたのだ。
「師匠!」
「上出来です。あとは離れていてください」
「うん。師匠、絶対に生きて帰ってきて!」
ヴィントはそう言うと、自らの名の通り風のように去って行き、畑の中に隠れてしまった。幼女ひとり月明かりを頼りに探すことは至難の業だ。
続いての攻撃は、ひまりと忠八の突進だった。部下の男ふたりがふたり目掛けて拳銃を撃つが、それでも銃弾がひまりたちに当ることはなく。
「陸軍の『防弾ガラスシールド』、よもやこれほどの耐久性を誇るとは!」
「これ飛行器の翼にしたら壊れなかったんだろうなあ~」
シールドごと、ひまりと忠八は部下たちに体当たりした。
「お前たち!」
「あなたの相手は、わたしです」
空が続き、彼女はマトロの前に立ちはだかった。すかさず剣を振り上げるが、マトロもタクティカルナイフで応じる。
「ぐっ! 強い!」
「マトロ長官、あなたもなかなかです。左で受けて右で反撃する、王城で拳王くんが使ったレアガルド古式硬拳の基本の構えですね」
ひまりと拳銃男の決着はすぐについた。
「合気柔術、『裾捕』!」
ひまりは銃を持つ男の足元にしゃがみ込み、前に出している右足の足首をつかみつつ右膝をひねりながら男の後方に押し込むことで、拳銃男は左後方に倒れてしまう。拳銃男は見事な合気柔術の前にあっけなく倒れ、ひまりに拳銃向けようとしていた右手も踏みつけられてなすすべをすべて失ってしまった。
忠八も、ひまりに負けず劣らず大立ち回りを披露していた。
「ヤマト式『銃剣銃術』、『突き』!」
忠八は一度ライフルを撃とうとしたが安全装置が掛かっていたため撃てず、異国の銃では安全装置の解除の仕方も分からず、仕方なくライフルを鈍器として使った。ライフルの銃口は見事に部下の男のみぞおちに命中し、胸、肩、下腹部、その他を銃口で突き刺してゆき、最後にはバレルを手にしてストック(肩当て)を脳天に叩きつけて完全に意識を刈り取ってしまった。
「銃剣銃術、『銃床打ち』。どうだ、参ったか」
「おお! やるではないか、忠八殿!」
「戦いも人殺しも嫌いだが、これでもヤマトの軍医だったからね。人を助ける前に自分を守るくらいの護身術は身に着けているさ」
忠八の武術を銃剣銃術。本来であればライフルの下に着脱可能なナイフ(『銃剣/バイオネット』)を装備し、弾切れになった際に銃器を槍やなぎなたのように扱って敵を刺すと言う武術である。
仲間たちは皆、伏した。残るはマトロただひとり。
「私の部下も決して弱くはないが、ヤマトの細身の社長と小娘ごときに倒されるとは。だが吾輩はそう簡単に倒されはせん。海軍庁長官たる私の拳の前に倒れよ!」
「こちらこそ負けるつもりはありません。……仁義礼智と信の字胸に、誇る力は活人が為に。武の道行く我、地鳴らす一歩は天の采配のもとにあり。八紘一宇に至る一撃、その身に受けて伏せなさい!」
マトロは左手のナイフで防御しつつ右手のナイフを空に突き立て、空は軍用ロングソードを右手に構える。リーチで言えば空に理があるが、マトロはどんな武術を繰り出してくるのだろうか。
それは。
「硬拳、『硬角』!」
「これって!?」
そう。ライノックの誕生会の決闘で陳拳王が披露したレアガルド古式硬拳であった。
胸の前で構えた左右の拳を、まるで角を持つ牛が頭突きするかのように空に繰り出す。空は剣で薙ぎ払いながらマトロの右脇に出て流れる風のように攻撃を見舞う。
「八極拳、『単鞭』!」
脇にて拳で弧を描くように繰り出す技を剣術として、空はマトロの頭目掛けて繰り出す。だがマトロも右手のナイフを翻す形で空の攻撃を防御する。更にマトロと空の技の応酬は続くが、どちらも決定打を与えることもできず、ただ地面が踏み荒らされてゆく。
その実力、互角。
乱れ始めた息を整えながら、マトロは言う。
「やるな、呉中尉。前線から退いて久しいとは言え、この私と渡り合える者がいようとは」
「この程度で音を上げますか。八極拳士呉空中尉、そう簡単に倒せる相手と見くびりませんように」
「ふっ、調子に乗るな。我修めし『サンティーエ獣王硬拳』は、貴様が知るレアガルド古式硬拳とルーツを同じくする拳法。少しかじった程度の護身術などと思ってくれるな。ここからが本番だ! サンティーエ獣王硬拳、『硬蹄』!」
それは牛が前足を掲げ蹄を打ち下ろすかの如く迫力のある上段攻撃。空が左脇(マトロの右脇)に逸れたことで空振りしても、交差した左手ナイフと右上腕が盾となって空からの攻撃をはじく。まさに攻防一体の硬拳。空はそれでもあきらめることなく何度も剣を繰り出し勝利への糸口を見出すことをやめない。
「どうしたどうした小娘!? そろそろ疲れ始めてきたのではないか!? 息が上がって来たぞ、このまま私が押し倒してしまうぞ! いいのかな!?」
「……いいえ、笑ったのですよ」
すると、空は今度は背後に大きく飛びのく形でマトロの攻撃を回避した。そしてその息遣いは、荒いのではなく興奮状態にあることを示していた。
「笑っただと?」
「ええ。あなたの拳法、攻略します」
「ふざけるな! 闘牛のごとき誇り高く雄々しい拳法が破られてたまるものか! やせ我慢もほら吹きもそれで終わりだ。死ね! 硬拳、『硬進』!」
マトロは頭上に掲げた右手のナイフを背後に大きな軌跡を描くように振るって足元から空の顔面目掛けて切っ先を繰り出す。その際、左手のナイフは腹部に添えて反撃から身を守る。まさに攻防一体の硬拳だが、その姿勢は八極拳の『通天砲』にも似ている。
だが、そのナイフが空に当ることは無く。
「下か!?」
防御のために構えた左手をすぐに攻撃の手に転じるが、やはり真下に空はいない。
「どこだ……?」
「ここです」
そこは、マトロの背後。
空は剣をブンと大きく振るいながらマトロに接近しつつマトロの刃が繰り出される瞬間にマトロの右脇をすり抜けていた(硬進の技を決めた直後であれば、自らの腕が邪魔となり空の挙動を視認することが難しい)のだ。
そのまま空は、八極拳の『新たなる技』を繰り出した。
――ヴィント。あなたの技をお借りします。
「八極拳『我式絶招、超重旋回ダウンフォース』!」
それは、『地球の力=重力と嵐の法則』を用いた上方からの中段ないし下段に向けた大技。かつてヴィントが決闘のさなかで陳拳王に繰り出したエルボードロップを、師匠である空が昇華し八極拳の技に導入したのである。
空は超重旋回ダウンフォースを以って『振り返りざまに地面に剣を立てるように』マトロの右足ふくらはぎを剣で貫通し、彼の動きを封じた。マトロの右足は地面に完全に縫いつけられてしまったのである。
「ぐああああああああああああ!?」
もだえ苦しむマトロ。だが自らの右足を貫く剣は足元の地面に深く突き刺さっており、倒れようにも倒れられない。襲う痛みから逃れることもできずマトロは発狂して叫び続けるが、空は憐みの眼差しだけ向けて彼を助けようともしない。
「アルベール・マトロ。あなたに質問があります。あなたはカリオストロ協会の一員ですか? そして、その地位はどこですか!?」
「ぎゃああああああ! 認める! 認めるから助けてくれ! 私はカリオストロ協会最高幹部『グロワール』でもある! この名でほかの幹部とも連携を取っている!」
「グロワール。そうですか。ではグロワール。最高幹部と言うことは、カリオストロ協会『副協会長』とはどういう関係ですか?」
「いっ! イコールだ! 私がその副協会長だ!」
「では、あなたをはじめとする幹部に旧サンティーエ帝国の戦艦の名を冠したのもあなたと言うことですね? では『クーロンヌ』や『マジェンタ』と言った一等装甲艦の名を持つ幹」
「もう認めるから! 認めるから助けてくれ! 肉が裂ける! 引き裂かれるから!」
「そうですね。出血多量で死なれたら聞きたいことも聞けませんし。ここからであればナイレスの町の方が近いですので、お医者さんに診ていただきましょう」
そして空は地面から剣を抜き、マトロの足に剣が突き刺さった状態で、軍用蒸気駆動車に『載せて』病院に運び込んだ。部下たちも忠八が運転するマトロの高級車に乗せられて病院に運ばれ、全員が無事に処置を終えた。




