第十八章 八極拳VS獣王拳 ~飛行器運用の実現に一歩近づいたでござるな。~
メイドのリューンがアルビオン王府に信号を送っている間にライノックは忠八のメモを読んだ。忠八の考える交通法案は次の通りである。
まずアレットは、道路もなければ交通優先順位もない未来の空路を、まるで『海のない海路』ではないかと意見した。そこで忠八は飛行器を『天行く船』と見立て、航海に適応される『国際海洋条約』を飛行器の運用に適応しようとしている。
海上において各種船舶は『航行灯』に従って航海している。右舷にライトグリーンの航行灯を、左舷にビビッドレッドの航行灯を掲げることで、右舷から接近する船舶に航行許可を出し自らは航路を譲り、左舷から接近する船舶に優先順位の譲渡を促し自らは航行を続けると言うものである。それを、航空手段の標準とすることを法令に盛り込みたいようだ。
経済的なことや離発着のこととなるともはや飛行器の専門分野の話し合いとなり、空たちはついていけない。メモに記されていたのは、飛行器の航行に関する法令とともに、その離発着場を『陸上の港』とし、港同様に『航路を取り仕切るギルドへの支払い』とする。つまり、飛行器事業は『飛行器利用(移動、物資輸送)代』と『港やギルドの利用代』を利用者から徴収し、利用者から徴収した港は飛行器所有者に自分たちの頂き分を除いた差額を支払うと言うことになる。かつてアンカーボルトで荷運びギルドを手伝った空たちも、そこまでの料金システムになっていることまでは知らなかったようだ。
蒸気駆動車や中型以上の船舶の運転に操縦免状が必要なように、飛行器にも操縦免状所有を義務付けたい。それは個人利用から事業者まで様々用意し、いつか飛行器が大型化した場合、それに関する各種法令も定める必要があるであろう(空が無免時代に蒸気駆動車を運転できたのは免状所有者であるアレットがともに旅をしてくれたためであり、アルミスセントラル再訪からフォーマメント州に帰還する際に軍用車をひとりで運転できたのは旅の中で身に着けてきた運転技術と陸軍に挨拶に赴いた際に試験を受けたことで免状を発行できたことによる)。
外交用ラインでアルビオンにいるエリーゼ五世とキングスレイとも意見交換し、法案について様々議論する。忠八があらかじめ海上条約をベースに法案を考えてきたため、それをもとに法案を広げることで、想定外にもその日のうちに航空法案第一稿が完成した。
外交用ラインを切り。
「はっはっは! いやあ、まさか既存の法をベースにここまで法案を固めるとはな。通常、新しいものに法案をまとめようとすると数日は掛けるものだが、確かに飛行器も乗り物と考えれば乗り物の法律を適応するのは理に適っているな!」
忠八は「ありがとうございます」と返して続けた。
「ところで、ここレアガルド州に飛行器の発着場として運用可能な広く細長い土地はありますか? そこを、この国とアルビオンをつなぐ玄関口としたいのです」
「よかろう、今すぐ探させる。しかし飛行器で空を飛ぶのは怖くないのか? 高度のある所から落ちれば間違いなく死ぬだろうし、貴殿は事実墜落したではないか」
「翼を軽量化するために『強化ヤマト紙』を使ったため、鳥との衝突で破れてしまったのでしょう。フォーマメントに墜落したことは不幸中の幸いで、アルケモートの町でヤマト紙に代わる新材料『チタンフィルム』のおかげで更なる軽量化と剛性上昇を実現しました。さらにチタンフィルムを『艤装』に採用すれば、それこそ空飛ぶ船として安全な空の旅を楽しむことができるでしょう。
しかしまだ新しい技術。私も傘を手に橋から川に飛び降りた時はそれなりに怖かったですし勇気も振り絞りました。しかし命あれば多少の失敗でへこたれることはできません。それと、飛行器が完成した暁にはいきなり王族をお乗せするのではなく、個人の趣味以外では使者を行き来させることで空の外交手段としたいと思います。
他は、アルビオンから海を越えてレアガルド王国の上空も一直線に突っ切って王都よりも南にあるフォーマメント州にたどり着いた機体やエンジンの耐久性をご覧いただければ、実用的飛行器第一弾としては申し分ないことはご理解いただけるかと」
「つまり更なる研究が進めば、より安全な乗り物として運用可能と。しかしヤマト語の『ひこうき』ではどうも名前に華が無い。アルビオン語圏でも通用する名はないだろうか?」
飛行器の安全性と今後の運用に関しては話がだいぶ煮詰めることができた。だが商品とするならば華が欲しいところだ。特にこのようなものは王族が最初に運用して示しをつけ、次いで貴族が買いたがるものである。
だが、全員そろってネーミングセンスに自信がない。フォーマメント州の名付け親であるヤマト人のひまりも首をひねってうなる。ライノックも話を聞いていた衛兵やメイドのリューンにも尋ねるのだが、特にリューンのネーミングセンスが壊滅的であった。
「『龍の背』……。ありませんね」
「ガーン!」
そこに、ヴィントが意見した。
「何事もシンプルなのがいいと思うけどなー。『Flier ship』じゃダメなの?」
「多少長いな。だが悪くない」
ヴィントとライノックの意見で、『フライヤーシップ』として決定した。
その日の残りはヴィントと王子フォレストに空とひまりが八極拳と合気柔術を教え、忠八とライノックは飛行器の模型と実機に関する特許や販売方法などで話し合った。そして空たちは王都のホテルに向かうのだが、見栄を張る相手(=ほかの貴族)もいないため節約のためにも安い宿を手配していた。そして護衛の冒険者とは、ここでお別れとなる。




