第十八章 八極拳VS獣王拳 ~飛行機は空を飛んだってのに、まだ疑う人っているんだな。~
リゾート・イハトヴ。
領主邸に魔導通信が届き、信号が刻まれた帯状の紙が吐き出された。
「師匠~。なんか届いた~」
「ありがとうございます、ヴィント。……どうやら重要な案件です。領主陣と、それから忠八さんとジャコモさんも呼んできていただけますか? わたしはその間、この信号を文字に起こしておきます」
「分かった。八極拳の修業は?」
「これから忙しくなりそうです。ヴィントは馬歩と基本套路をこなしたら入浴を済ませてください。夕食の準備は大使のアシュレイさんにお任せしましょう」
「ねえ!? 大使ってそんなメイドみたいなことをするために置かれてるんじゃないからね!? 一応軍の仕事だからね!?」
「でも陸軍との連絡係としての仕事が無いうちはヒマしているか『リーダー育成本』を読んでいるかしかないではありませんか。少しくらいお手伝いいただいても罰は当たらないと思います」
「そうだけど……。はぁ、いいわよ。どうせ今は率いるべき部下もいないしね。どうして一階級上がってまで給料以外のすべてを失わなければいけないのかしら。恨んでやるぞ長官め」
空が呼んだ人員が、ホールに集まった。
空が議長となり、信号を文書化した紙を手に一同に言った。
「今しがた、アルビオン諸島連合王国所在、株式会社二宮航空力学研究所様より『経営意見書』が届きました。飛行器の売り出しのみならず、それが一般的な交通手段になった場合の交通整備に関する法律を設立したいという話でして、現在社屋にいらっしゃる副社長のキングスレイさん、飛行器開発者の忠八さん、我が国の国王であるライノック陛下、アルビオンの女王陛下である『エリーゼ五世』女王陛下の四人を筆頭として法律を取り纏めたいという要望が、エリーゼ五世陛下より届いたとのことです」
忠八は静かに驚くが、続きを聞く。
「そこでキングスレイさんから、次のような指示が来ています。忠八さんには航空関連法案の設立の第一案が固まるまで王都に滞在してもらいたい。宿泊費及び各種経費はリゾート・イハトヴが立て替えるものとし、そのための費用に利子をつけて後日送金するので、コーヒー一杯駄菓子一食分と言えども領収書は必ず切るように。エリーゼ陛下からライノック陛下に話は通しておいたので、このメッセージを受け取り次第速やかに王城に向かい、ライノック陛下と合流したら速やかに『外交専用ライン』につないでほしい、とのこと。わたしたちもちょうど陛下に報告しなければいけないことがありますので、共に参りましょう」
そこに、ジャコモが尋ねた。
「では空さん。僕たちにできることは何なのでしょうか」
「はい。株式会社イハトヴの代表取締役としてここの運営をお任せしたいことと、もしかしたら新しい事業の運営をお願いするかも知れないということをお耳に入れておきたかったのです。もし航空事業が本格的になった場合、飛行器の発着場が必要になるでしょう。その開拓と運営について、ぜひとも企画書の作成と予算を組んでほしいのです。草案で構いません」
「分かりました。では『仮』として、アルビオンのセイントクリフ港、レアガルド王都、このフォーマメント州湖水地方、レアガルド最北端の『エヴァンゼリン州・港町ユーリーエイル』、この四つを結ぶ空路を想定して、土木のプロであるチーム・ハギワラと共に開拓案と予算を組みましょう」
「よろしくお願いします。では、各種報告に関してはわたしとひまりが担当し、メイドとしてヴィントを付き添わせ、道中で二名の冒険者を雇って国王陛下の下に向かいましょう。アレットも、代表取締役として頼みました。これを機に副社長の座を託します」
「んッス。イハトヴは自分とジャコモさんに任せて、心おきなく行ってくるッス!」
道中、ヴィントに「師匠もひまりお姉ちゃんも強いのにどうして冒険者を雇うのさ?」と尋ねられ、空は「大人数で襲ってくるかもしれない野党や、護衛を雇えるだけの財力くらいあるというほかの貴族への示しのため」と答え、ヴィントは「貴族もラクじゃない」と悟るのであった。
二日後。
レアガルド王国王城、領主執務室。
武装を解かせた護衛の冒険者を紅茶と茶菓子で待たせている間、空は近況をライノックに報告する。
「リゾート・イハトヴの経営に関する報告書と、収支に関する帳簿です。カーボンに代わる『高圧力反応ブルーインク転写紙』のおかげで、提出用リフィルにカーボンの汚れが付着することもなくクリアで読みやすい報告が可能。アルケモートの錬金術師の皆さまは、レベルが高いなどと言うものではないことも併せてご報告できるものでしょう」
「そうだな。先月までの収支報告と比較して、いや、するまでもないほど読みやすい。うむ、これは確かに受け取った。近況はどうかな?」
「はい。ご存じの通り、アルビオン諸島連合王国から文字通り飛び立ったタマムシ型飛行器が我が領の湖に着水し、そこから二宮忠八さんとアレットの兄であるキングスレイさんとの縁もつながり、飛行器の模型の販売が実現し、更なる収入源を得て今に至ります。ただ重量のある機械が空を飛ぶというのはいまだに信じられないと言う方も多く、アルビオン、レアガルド、どちらも二宮航空力学研究所を『ペテン師』呼ばわりする者も少なからずいるようです。ですので、ライノック陛下、アルビオンのエリーゼ五世陛下からも、確かにタマムシ型飛行器は空を飛ぶ画期的な機械であると認める文言を国中、いえ世界中に伝えていただきたく思います」
「そうだな。あれほどの感動を吾輩は目の当たりにしたのだ。ペテン師呼ばわりをする者を許しおけるはずがない。それに空路が開かれると言うことは、交通や物流に大きな革新をもたらすと言うことでもある。これはアルビオンとレアガルドの『ひとまずの共同国是』としなければならないだろう」
「ありがとうございます、陛下」
ライノックはひとまずの共同国是としたが、それはやがて世界中の国是、すなわちすべての国の命題となるであろう。
そこに、忠八が口をはさんだ。
「二宮忠八、意見具申」
「許可する」
「ありがとうございます。これはアレット・ドイル卿の意見をもとにまとめてみた飛行器の一般使用に関する基礎的交通法草案にございます。ご一読いただけませんでしょうか」
「よかろう、読ませてもらう」




