第十七章 タマムシの翼、空へ! ~飛行器模型完成! イハトヴの新しい収入源なのです!~
だが、外ではとんでもないことになっていた。
レアガルド王国各地から、謎めいた飛行物体の話を聞いた物好きたちがイハトヴに押しかけて来たのである。おかげでイハトヴはリゾートとしての役目を果たせず、一時は空たちの交通規制も通じないほどの大混乱を起こした。現在はリゾート利用客と新聞記者以外の一切の入場を禁じている。
一度は解体されかけた飛行器だが、キングスレイが工具と補修材を持ってきてくれたことで、忠八は飛行器の修復に取り掛かった。新聞記者がやっと話を聞ける者が現れたとキングスレイに詰め寄り、二宮航空力学研究所の宣伝がてら、これは飛行器と言う空飛ぶ機械であり、「彼(忠八)は確かにアルビオンから文字通り飛んできたのだ」と説明し、記者たちを唖然とさせた。
「であれば、そうですね。……忠八。機体の修理が完了したら、ここで空を飛んでみせるのはどうだろうか」
「いいな。これで重量のある機械が空など飛ばないと言って譲らない石頭たちに一泡吹かせることもできる。新聞社の皆さん、もうしばらくのご辛抱を!」
そこに、ピエリーナの父ジャコモが乗ってきた車を降り、あるものを手に忠八に言う。
「できましたよ、タマムシ型飛行器、および『カラス型飛行器』の試作模型が。お子さまでも組み立てやすいように『木工ネジ』で作れるようにしてあります。縮尺は二十分の一、動力源は『聴診器用ゴム』。ご監修ください」
「おお、素晴らしい! 実に精巧だ。これで飛べば商品になるでしょう。そうだ。ここにお集まりの新聞記者の皆さまに、空飛ぶ機械のお披露目をしてはどうでしょうか?」
ちょうどそこにライノックも現れた。八極拳を習うフォレストを迎えに来たようだ。
ジャコモは機体後部プロペラを回してヒートン(環状金具)とつながったゴム管をよじり、プロペラを持ったまま機体を地面に置く。すると機体は三輪のタイヤで地面を走り、何と自力で空に舞い上がったのである。
「おお、これが飛行器と言うものなのだな。なかなか優雅な姿をしているではないか」
タマムシ型飛行器の模型には、操縦席にはパイロットの人形を、エンジンがある場所にはそれを模した重りを搭載しており、それなりの重量がある。にもかかわらず、機体は空を飛んだ。これには新聞記者たちも驚きを隠せず、「まるで奇跡だ!」と騒ぎ立てた。
だがゴム管が生み出す動力などたかが知れている。そこで、強炭酸水と塩を詰めたカプセルをエンジン代わりに搭載し、ピンを抜き強炭酸水と塩が起こす反応で泡が噴出する反動を推進力に変えた機体を実演して見せたところ、あまりに勢い良く、そしてどこまでも遠くまで飛んでゆくため、再び新聞記者たちを唖然とさせてしまった。
ライノックは愉快そうに拍手でたたえる。
「これは素晴らしい! いやあ、本当に機械が空を飛ぶものだな。うむ、ますます欲しくなったぞ、飛行器とやらがな」
「恐れ入ります、国王陛下。この度、アルケモートとイハトヴでこの模型を販売する運びとなりましたので、記念に……、そうですね。タマムシ型、カラス型、各機二種を四セット、ご家族の分も合わせて献上いたします」
「そうか、それはありがたい。そなたには何か礼を差し上げたく、アルビオンのドイル卿にも謝礼の品を送るとしよう。名刺は全てお釈迦になってしまったな。貴社の所在地を教えてくれんだろうか?」
「構いませんが、彼ならここにいます」
「ん? いるとな?」
ライノックは周囲を見渡す。だが、共同経営者の男性らしき人物は見当たらない。
「どこに、いるのかね?」
「あ、陛下にはまだお伝えしていませんでした。彼です」
そう言って忠八が紹介したのは、赤いドレスの女性(にしか見えない男性)。
「は? いや、女性ではないか。キングスレイ・ドイル卿は席を外してしまったようだ」
「ですから、このドレスの者こそキングスレイにございます」
「……は?」
そうもなるだろう。
そして赤いドレスの美女(男)は、スカートの両端をつまんでお辞儀をして答えた。
「お初にお目にかかります、ライノック・レアガルド陛下。私こそが、二宮航空力学研究所の代表取締役副社長、アレット・ドイルの兄、キングスレイ・ドイルにございます。女性の格好をしているのは、まあ、似合うからです」
「あー……、…………、……うん。分かった」
そしてアレットは毒づいた。
「もーどうにでもなりやがれ」
その夜。
アルミス州アルケモート、ライブ居酒屋クラヴィア。
シュピールマンの提供する酒と厚切りベーコンを口にしながら、空、アレット、ひまり、ピエリーナ、ライノック、忠八、そしてキングスレイは集まった。
「雅な店に美味い酒、濃厚だが上品な味わいのベーコン。アルビオンにはない店に、まず現地では味わえない料理。アルケモートもいい町だ」
忠八に褒められ、店長シュピールマンも「ありがとうございます」と礼を述べた。
「ところで、陛下は晩餐会があるのではありませんか? このようなところで僕たちと一緒にビールなんか飲んでいていいのでしょうか」
「王族だからって毎晩晩餐会を開いているわけではない。今日もただ息子を迎えに来ただけだったのだが、ドイル卿、あ、兄の方がいたものでな、『例の件』について話がしたいと思っていたのだ」
その言葉に、キングスレイはビールのグラスを見つめながらつぶやいた。
「例の件。カリオストロ協会のことですね」




