第十六章 波乱(?)の誕生会 ~空のやつ、ここでも食い意地全開ッス。~
気を取り直して。
ホールには料理と取り皿が乗ったカートが並び、円形テーブルも多数用意された。
「改めて諸君! 此度は吾輩の誕生会にようこそお越しいただいた。感謝の気持ちとして心ばかりの物を用意したので存分に味わわれたい。それでは、乾杯!」
ライノックはワインの盃を掲げ、来客たちも「乾杯!」と帰して杯を掲げる。
来客の中には家長の息子や娘もおり、彼らは酒が飲めない。そんな未成年たちにもスパークジュースが用意されており、空もそれを取ってヴィントに手渡した。
「ありがとう、師匠!」
「ええ。ここでは存分に楽しみましょう。その前に、まずは陛下にご挨拶です」
「いや空。その両手のたんまり盛った料理の皿を置けッス」
そんなことを言っていると、ライノックの方から空の方に歩み寄った。
「やあやあ新社長殿。リゾートの経営はどうかな?」
「お気遣いありがとうございます、陛下。陛下や王国議会の皆様、そして貴族の皆々様がご高評くださいましたおかげで、業績は順調に上昇しております。こうしてヴィントやほかの従業員とも出会うことができ、リゾートとして皆様をおもてなしする備えはできております」
「それは何より。それよりも、ヴィントと言ったな。初めて見る顔だな」
すると、ヴィントは空の背に隠れてしまった。
「おや、人見知りかな?」
「違う。私はあまり礼儀を知らない。変なことを言うと死刑にされる」
「ん!? はっはっはっは! そんなことで処刑などせん。それよりも話を聞かせてくれないか。貴君と呉卿の出会いと、その強さの秘訣を」
「うっ、うん。あとで、な?」
そこに、ひまりがやってきた。
「ライノック・レアガルド陛下。この度はお誕生日を迎えられたことを心よりお喜び申し上げます。我々四人からの誕生祝いをお持ちいたしました。お納めいただきとうございます」
「そうかそうか。リゾート経営で大変であろう時にそこまで。しかし、ヤマトの箱かな? おとぎ話通りなら、開封したら一気に老けてしまいそうだな」
ひまりがライノックの前に差し出したのは、細長い特注の『玉手箱』。漆塗りの黒い外装に金箔の飾りが施されており、赤い紐で封をされている。
「はい。老いはしませんが、ぜひご覧ください」
ライノックが紐をほどき蓋を開けると、そこに収められていたのは一本の槍。しかも分解して『三節棍』に変形できるものである。漆塗りによるつややかな漆黒の柄、黄金の留め具と錬金術で作られた人工ダイヤモンドの柄頭、よく磨き上げられた穂(刀で言う刀身)は飾り気のないシンプルなものだが、漆とはまた違った黒い輝きを放つ穂身が迫力を放っている。また刀の鞘に当たるブレードガードも、柄と同じ漆塗りに黄金の留め具で彩られていた。
「おぉ、これは……!」
「はい。空が持つ槍、拙者の出身であるヤマトの倭柄と塗料、ピエリーナの錬金術を用いた人工宝石、それらをアレットがアイデアとしてまとめた、四人でひとつの心を込めた贈り物として用意させていただきました。槍そのものはヤマトらしさを抑えているので、陛下がお手にしても違和感なくお持ちいただけるかと存じます」
「どれ?」
ライノックは杖を陸軍庁長官アーチャーに預け、玉手箱から槍を取る。来客の誰もが「似合っておいでですぞ!」とほめたたえ、鏡に映った姿を見たライノックも満足げにうなずく。
「我が衣の赤と槍が持つ深き漆黒の見事なコントラスト。気に入った。今日はこれを杖代わりにしよう」
「お気に召していただき、光栄でございます」
すると周囲の貴族たちが空たちを指してざわめき始めた。だがそれは悪い意味ではなく、「あれが最近とんでもない武功を立てて男爵になったという武人少女たちだ」「アルケモートやレッドフォート州の五区砦で闇の組織を壊滅させたらしいわよ」「勇者卿とも互角に渡り合えるってとんでもねえ強さだよな」など好意的なものが多く聞かれた。
アルスがそっと空に近寄ってきて言った。
「この前の親善試合、効果あったな」
「はい。おかげさまで生意気だとか『功をカネで買った』とか、妙なことを言われずに済んでいます。これもアルスさんのおかげですね」
「そう言ってもらえるとありがたいな。さて、陛下がご用意くださった料理を堪能しようか」
その後は多くの貴族や議会関係者から、叙爵前の武勇伝やそれぞれの過去や職業や得意とする武術などを聞かれたり、領地拝領から今日までの開拓史などを聞かれたりと、空たちは彼らとの交流を楽しんだ。ヴィントもまた同年代の少年少女から「きみ、強いな!」「男の子相手に戦えるなんてすごいね!」と、さっそく立場の垣根を超えた友情を結んでいた。
誕生会閉幕後。
多くの貴族たちが帰ってゆく中、空たちは率先して皿をカートにまとめてゆく。そこまでしなくてもよかろうとライノックは空たちを止めた。
「それよりも呉卿、息子から話があるそうだ。聞いてはもらえんだろうか?」
「御意のままに、陛下。それではフォレスト殿下。不肖呉空がお伺いいたしましょう」
空はその場に跪き、フォレストより目線を下げた。
第一王子フォレスト・レアガルド。アレットにお馬さんごっこをねだる甘え上手なアリシアとは対照的に、かっちりとキッズスーツを着こなしている。顔立ちや髪質は、ライノックをそのまま子供にしたような雰囲気である。だが威厳あるライノックともまた対照的に、その表情はどこか浮かない。
「呉空男爵、折り入ってお願いがあります。僕にも、どうか八極拳なる武術をご教授くださいませんか?」
「それはまた、どうしてですか?」
「僕も強くなりたいのです。将来は父を継いで国王となるべく、そして……、お恥ずかしい話を同時に暴露するのですが、学校でのいじめにも屈さぬために!」




