第十六章 波乱(?)の誕生会 ~彼はむっつりスケベと評されてしまいました。おいたわしや。~
そして今度は、ヴィントが先手を取った。
「『箭疾歩』!」
「こんのあぁ!」
拳王は左腕でヴィントの右肩からの突進を受け止める(拳打が未熟なヴィントは、エルボーやショルダーアタックで直線攻撃を繰り出す)。すかさず拳王は背後に振りかぶった右拳を下方から繰り出し、ヴィントの左わき腹に『フック』を仕掛けようとする。
「レアガルド古式硬拳、『硬鉤』!」
「当たるか!」
それをヴィントは左エルボーで防御。しかも。
「ノールックで止めたぞ!」
「あの子、意外と視野が広いのかもね」
そのような貴族たちの評価を聞いた空は、「どんなものですか」と得意げに笑う。
だがそこで終わらない。
「八極拳、『馬歩横打・靠功』!」
それは本来なら大きく横に振った拳を、相手の頭に叩きつける技。頭に攻撃をしてはいけないレギュレーションに加え、ヴィントと拳王との距離が近かったこともあって、ヴィントは拳王との距離を取るための反発として肩を強く当てるにとどまった。
「とぁっ!?」
「からの、『馬歩悠捶』!」
『打開』と同様に体を左右に開いての攻撃。左右の拳を対称に振るい、ヴィントは右の拳を拳王の腹部に命中させた。功夫(鍛錬)が未熟なため威力は低いが、ポイントにはなる。と思ったのだが。
「げぶぁ……!」
何とヴィントの右拳は拳王のみぞおちに命中。ここをえぐられれば、呼吸もままならない。
――おっ? いいところに当たったっぽいな。ハイパーラッキー!
何というラッキーパンチか。ヴィントは己の動揺を悟られないように鼻をふんと鳴らし、腰を折ってうずくまった拳王に言う。
「降参するなら認めるけど?」
「だっ、誰が……っ! もういい。次の一撃で、お前を確実に落とす! 一発痛い目見る覚悟しておけよな!」
次に倒れたら大恥だ。国王も王国議会の面々も、顔見知りの貴族たちも全員が自分を見ている。無様に負けることなど許されない。拳王はプライドだけで、震える足を立たせ、乱された呼吸を正常に戻してゆく。
アレットは叫ぶ。
「はじめ!」
そこからは互角の勝負となった。
それを、空は冷静に分析する。
――なるほど、そう言うことですか。
――蹴りのリーチは拳打のそれよりも長く、ヴィントの攻撃を当りにくくしつつ拳王くんの攻撃を当りやすくしています。確かにそれは合理的。しかし首から上への攻撃を封じるレギュレーションのせいで、拳を用いる戦法をほぼ封じられてしまったようです。レアガルド古式硬拳は闘牛がごとく強靭な脚力で突進し攻防一体の両腕を以って敵を沈める武術。特にそれは人体のエンジン及び司令塔たる心臓や頭を破壊するためにある戦術。それを封じられたとあれば、拳王くんにとってこれはとんでもないハンデ以外の何物でもありません。アレット。これはあなたなりに拳王くんに課したハンデなのですか? それとも、ド天然なのですか?
その答えは。
――気付いたッスか、空。そう、フェアプレイじゃないッス。けど決闘は決闘。『異議を申し立てなかった時点で拳王は自らにハンデを課した』ということに他ならないッス。さあ、これで実力の差は埋まったッス。ヴィント。あとは師匠の教えをどれだけ発揮できるかにかかってるッス!
レアガルド古式硬拳にも蹴り技はあるが少ない。その少ない技を駆使し、拳王はヴィントにつかみかかる。ヴィントも実戦経験皆無なりに、空からの教えを忠実に守りつつ敵に立ち向かい、着実に技を決めてきた。
勝負を決するは、もはや『勝ちたい』『負けられるか』という気持ちひとつである。
「レアガルド古式硬拳、『跳躍硬蹄』!」
「八極拳、『頂心肘』!」
飛び上がってからの空中中段蹴りを繰り出す拳王に、ヴィントはレフトエルボーを防御として繰り出す。だが防御からの連携こそが大事である。ヴィントが反撃技として採用した技こそ。
「八極拳、『通天砲』!」
それは、右足から踏み出しての右アッパー。牽制してからの大技なのだが、これを拳王は回避、地にしっかりと足をつけてから、これまでの戦いで数少なかった掌打を繰り出すのだが。
「レアガルド古式硬拳、『硬額』!」
まさに牛の突進のように、拳王は右掌を強くヴィントの胸に突き当てる。
そう、
胸に。
「ひっ!」
育ち盛りの胸をわしづかみにされたヴィント。
まさかのところに命中してしまったことに動揺する拳王。
一瞬のうちに凍り付くホールの空気と、貴族たちの思考。
唯一、勇者パーティーのフリューゲルだけが「ぷっ」と噴き出していた。
「あ……!」
拳王は顔を真っ赤にして動かない。
右手も動かない。
そんな拳王に。
「いい加減、いつまでも」
ヴィントは通天砲が空振りした右腕をさらに振るい、左背に振りかぶって右肘を叩き落とすという超大技『八極拳式発勁・超重旋回エルボードロップ』を拳王の脳天に叩きつけてしまった。
「揉んでるな!」
結果。
ヴィントは、ルールの上では決闘に負けたが、実力の上では拳王にも通用することが、この決闘で示された。
「えーっと。勝者、陳拳王。ヴィントは反則負け。とりあえず、このむっつりスケベを医務室まで運んでほしいッス」
拍手は、まばらだった。




