第十六章 波乱(?)の誕生会 ~どうして男ってやつはこうも決闘が好きなんッスかねえ?~
すると、両者に声をかける者がいた。
「そこ。騒がしいようだが、どうしたのだ?」
その途端、周囲はざわめいた。
その人物こそ、この日の主役の中の主役たるライノック・レアガルドだったのである。いつもよりも豪華な装束に身を包み、右手には王家の紋章が飾られた杖を持っている。
「こっ! これはこれは国王陛下! この度はお誕生日を迎えられたこと、心よりお喜び申し上げます!」
「ぼっ、僕も申し上げます!」
「陳卿。ああ、はるばるお越しくださり感謝する。さて、最初のあたりは見てはいないがどうやら貴卿のご子息が呉卿付きのメイドのお嬢さんに一目惚れして求婚し、お嬢さんはそれを拒んだ、という流れで間違いないか?」
それには勇んで拳王が答えた。
「然様でございます! 身の程知らずもいいところ。陛下よりひと言たしなめてやってはいただけませんか!?」
「拳王! 恐れ多くも国王陛下に、もういい加減に!」
だが、ライノックは「よい」と林王の言葉を遮っていたずら心全開の表情と声で言う。
「であれば、ここで決闘いたせ」
当然、ホールにいる誰もが「は?」と唖然となった。
そして空とライノックは、互いに見合ってふっと微笑んだ。
ホールでは多くの人が中央を開け、決闘の審判にアレットが選ばれた。
「なあ。アルミスセントラルでもそうだったんッスが、どうして男ってやつはこうも決闘が好きなんッスかねえ」
呆れるアレットに、林王は私も男なのだがと困った様子で言う。それにクリス・アキモフさんもそうだったではありませんかと空は心の中で言い添える。
そしてホールの中央、騎士見習の少年のための騎士装束に赤いハチマキを身にまとったヴィントと、パーティー用のジャケット姿の拳王が向かい合った。
アレットが声を張り上げる。
「これより、陳拳王対ヴィント・フォン・リヒトホーフェンの決闘を開始する! 勝敗のつけ方はふたつにひとつ。決定打となる一撃を先に三度相手に浴びせるか、相手をノックアウトさせた場合とする。なお、首から上への攻撃は目くらませ以外禁止とする。異議を申し立てぬなら、双方拳を構えよ!」
拳王は拳を握る左腕で防御態勢を取り、同じく拳を握る右腕を頭上に掲げて腰を落とす。
「女の子を、未来のお嫁さんを殴りたくはないんだ。できれば今からでも決闘の受理を撤回してもらいたいんだけどさあ?」
一方でヴィントの構えは、空に教わった八極拳の構え。仰々しく雄々しい構えはせず、左拳を顔の前に掲げ、右拳は落とした腰に添える。
「するか。これは決闘だ。男だ女だ言ってないで本気でかかって来いよ。ここは拳士のステージだ」
双方、引く気はない。
そして、アレットは手刀を振り上げた。
「双方見合え! ……はじめ!」
先手は拳王が取った。
「苦しまないようにポイント制で終わらせてやる! 寛大な配慮に感謝しろ!」
拳王が繰り出したのは『レアガルド古式硬拳』と言う武術。男らしく雄々しく勇猛さあふれる戦い方である。拳王はまず行動力を奪いたいようで、執拗に中段及び下段の蹴りをヴィントに浴びせようとする。ヴィントはそれを子どもだからこそできる軽い身のこなしで回避し、拳王の防御の外側に出ようとする。
「だーもーちょこまかと! 戦う気あるのかよ!?」
「蒸気エンジンがかかってないだけだ。戦うつもりなら、充分にある!」
これは、決闘前の空からの助言だ。
――「いいですか、ヴィント。あなたは戦い慣れしていません。だからいきなり攻撃を仕掛けるのでも反撃に出るのでもなく、まずは避け続けてください。あなたが戦いの場に慣れてきたころ、あなたの戦いへの覚悟がきちんとできたその時、初めて手を上げなさい」
「分かってるよ、師匠」
ヴィントが回避に専念している間、すでに拳王からの下段の蹴りを腹部に受けてしまっている。だが、それでもヴィントは動揺せず自分の心の中のエンジンが高まるのを待つ。
「どうしたよ! 決着ついちまうぞ!」
その時、ヴィントは理解した。
――左腕の防御、右腕の攻撃準備の構え。それでもあのバカは蹴りばかり繰り出してくる。よほど女の子に手を上げたくないか、パンチは苦手なのか。それもあるかもしれない。でも蹴りの方がリーチがあるし、私からの反撃も寄せつけない。でももったいない。せっかくの上半身の構えを自分から殺してるようなもんじゃないか。
――あいつは私をなめてるんじゃない。戦い方が下手なんじゃないか?
その時、ついにヴィントが反撃に出た。
――いける。私は、戦える!
「ここ!」
拳王の蹴りは中段。ヴィントは右膝を高く掲げることで蹴りに対応した。
「なっ!?」
ここに来てヴィントの反撃、しかも攻撃を止められた。
拳王は動揺して距離を取る。
「くっ! けど一発防御したからって調子に乗るなよな!」
「乗るさ!」
拳王は戦い方を変えた。
今度は上段蹴りまで繰り出し、ヴィントの肩や胸部を狙う。だがそのすべてをヴィントは両腕で払いのけ、自らのポイントとなる反撃の機会をうかがう。
「どりゃ!」
再び繰り出された中段蹴り。それをヴィントは、左手甲と右掌で挟み込むようにして真正面から受け止めた。そして。
「八極拳、『擄手小纏』!」
その技は、本来であれば敵の手首を右手で押さえてぐるりと翻した左手刀を以って『ひねり下げる』ものだが、ヴィントはまるで拳王の足を抱きかかえるようにして自らの左脇に引き込み、拳王の足をひねって彼を地に沈めてしまったのである。
「でっ!?」
「一本! 双方離れよ!」
ポイントとしては同点。だが細身の女の子が国の名を冠した剛拳の使い手である少年を倒した。その事実は多くの人々を驚かせ、そして沸かせた。
「そんな……! この僕が、地を舐めさせられただって……!?」
拳王はのろりと立ち上がるが、ヴィントはすでに距離を置いて拳を構えている。
動揺収まらない拳王と、次の一撃を当てたいヴィント。その両者の間にて、アレットが試合再開の合図をする。
「はじめ!」
そして今度は、ヴィントが先手を取った。
「『箭疾歩』!」




