第十六章 波乱(?)の誕生会 ~陛下の誕生会です。~
エンジン全開で道を急ぎ、遅れを取り戻して王都に到着。
ヴィントのためのドレスを見繕い、一同も旅の疲れと埃を銭湯で洗い流して王城へ。
リゾート・イハトヴに送られてきた『国王誕生会招待状』を門番に見せて王城、そしてホールへ。空たちが貴族になって間もないが、すでに見知った顔もある。
「やあ、ご無沙汰しているね、アレット卿! この前のリゾートは本当に楽しかった。妻と息子も心底喜んでいたよ!」
「恐縮です、フレデリック子爵。これからも皆様に最高のおもてなしができるよう精進してまいりますれば、これからもごひいきに」
「レリック長官から聞いたよアレット卿! リゾートを経営し始めたんだってなあ。保安庁のみんなで、ヒマ見て遊びにに行くからな!」
「おっ! それは楽しみッス! 領主陣一同でおもてなしするッスよ!」
社交性の高さもアレットの強みである。
同じ領主なのに話しかけられる人数の差は歴然。だが空は貴族たちや王国議会議員にあいさつするよりもどうしても不審人物がいないか見張ってしまう。
「陸軍でのパーティーでのテロ未遂訓練の影響ですね。あくまで訓練ですが」
「つくづく思うのだが、空。貴殿は陸軍でどれだけ『まれ』なことを学んできたのでござる?」
「あははははは、なのです」
すると、空は思い出した。
アルスは言っていた。貴族とは国王から国土の一部を運営する権限を与えられると。それだけ責任は重いが自領を思うが儘に開拓できる埃ある立場であるとも。
――であれば、ここにいる皆様はそう言う立場の方々なのでしょうね。って、思いを馳せれば。
空は会場の中にアルスとその仲間たちを見つけた。
「皆さん、行きましょう」
するとアルスも空たちに気付いたようで。
「やあ、空。……おっと、これはこれは呉空男爵。ご機嫌麗しゅう」
「はい、勇者卿。お元気そうで何よりです」
「その服装はアオザイと言ったかな? とても美しく、貴卿の魅力を引き立たせる召し物だ。以前はその恰好でコテンパンにたたきのめ、あ、いや、ええと」
「いえ、とても良い親善試合ができたと思います」
すると、周囲の貴族たちがざわめいた。
「何だと!? この少女が勇者卿と渡り合ったと言う世界にひとつしかない武術の使い手だというのか!?」
「確か、発狂がどうとか?」
「違う、破局の拳だ!」
「男爵、せめて勇者卿と破局はしないでくれよな!」
「……違います。八極拳と言います」
どんな聞き間違いだろう。だが自分の強さが周囲に広まってくれるのはよいことだ。これでリゾート・イハトヴにちょっかいを出す者はいないだろう。そしてそこに勇者卿との信頼関係があれば、イハトヴにケンカを売ることは勇者卿から嫌われることを意味する。空はもちろん、ひまりもピエリーナもうなずいた。
「空。料理が出るまで少し時間がある。両陣営で一緒にあいさつに回ろうか」
「そうですね。ではエスコートをよろしくお願いし」
だがその時だ。
ヴィントが何かにぶつかり「でっ!」と悲鳴を上げる。
「ヴィント!?」
振り向けば、ライムグリーンのドレス姿のヴィントがしりもちをついていた。しかもそのそばには、長袖ジャケットとハーフパンツ姿の少年がいるのだが。
「んだよお前。ぼさっと突っ立ってんなよ」
「てってー……。何だよ、お前こそ前見て歩いてなかったんじゃないのか!?」
「は? 言いがかりはよしてくれないかな。伯爵家の僕に向かって」
「爵位が何だよ。不注意はそっちだろ、そっちが謝れ!」
国王の誕生会の席でこれはまずい。空は箭疾歩で瞬間移動し、少年のそばには立場の高そうな男が駆け寄ってきた。
「ヴィント、まずは冷静に」
「拳王、はしたないぞ!」
すると、空はその男を見て思い出した。
「あなたは……、確かリゾートにお越しくださいました『陳林王』子爵。ご無沙汰しております。わたしのメイドが何か粗相をしたようで、メイドの不義をお詫び申し上げます」
「いやいやなんの! うちの三男坊はとにかくやんちゃで、一瞬目を離すとすぐにどこかに行ってしまうのです。どうせまた料理はまだかと探しに行っていたのでしょう」
「お気遣いありがとうございます」
だがヴィントは空に強く意見する。
「私、ピエリーナお姉ちゃんと一緒にいたんだ! ぶつかってきたのは!」
「ヴィント」
「でも師匠!」
「だったら、ここでも復讐しましょうか」
「え?」
今しがた事情も知らず謝っておきながらのまさかの言葉に、ヴィントは動揺した。
そして、跪いて森王にこうべを垂れるふりをして空は言った。
「師匠たるわたしとしても遺憾ではありますが、めでたい席で争いごとを起こすものではありません。逆に、このような場は一歩下手に出て相手にいい気分をさせた者こそが勝者となるのです。それでも気に入らなければ、『心の中で百叩きの刑に処して差し上げなさい』」
「……納得だよ」
そしてヴィントは、「悪かったな」と言って踵を返して立ち去ろうとする。
だが、拳王は許すのを通り越して尊大な態度で言い放った。
「だったら僕のモノになれよ、ちびっこ」
「……は?」
「態度はともかくきみは可愛い。未来の僕の二番目のお嫁さんにしてもいい。兄貴たちの婚約者なんてそんなに可愛くない上にみんな香水がきつくて、父上のタバコの煙の方がまだマシだ。どうだ? 伯爵家に嫁げるんだ、これから出される王宮料理並みのおいしいものをたくさん食べられるんだ、きみにとっても悪くない話じゃないだろ? なあ!?」
どれだけバカなことを言っているのだと、ヴィントは拳王を「なあ」と言い終わるまでの間に、空想の中でありとあらゆる八極拳の技で半殺しにしていた。
「そう。私を可愛いと言ってくれたことだけはありがたく受け止めておくよ。でも遠慮しとく」
「……おい。僕は伯爵家だぞ、男爵より偉いんだぞ!?」
「それと私がきみに嫁ぐかどうかなんて別問題だ。って言うか、謝られたら『こちらこそ』と帰すのが礼儀だろ? 礼儀のなってないやつに嫁いでやるほど、私は私を安く思ってないんだ。じゃあな」
貴族社会と言えばすなわち序列社会。男爵である空の付き人であるメイドが伯爵家の(三男とは言え)息子に対等以上の口を利くものではない。空は「頭が痛いです」と言いながらも、どこか愉快そうに笑っていた。
「何をぉ!」
「もうやめろ、拳王! いやあ、重ね重ね失礼。まさかいつの間にか色気づいてまでいたとはね。お気を悪くしないでおくれ、呉卿、メイドのお嬢さん」
「お戯れを、父上! ただのメイドごときが僕の誘いを断るなど、ありうべからざることだとは思いませんか!?」
「あーもー。これ以上恥の上塗りはよしてくれ」
逆に言えばそのメイドごときを、第二婦人(ヴィントの立場からめかけにしかなれないが)にしようとした事実の方がのちに恥となろうに。
すると、両者に声をかける者がいた。
「そこ。騒がしいようだが、どうしたのだ?」




