第十五章 再び旅へ ~復讐と修行を始めましょうか。~
フォーマメント州、リゾート・イハトヴ。
空は荷台にて被害者たちを監視する役目を担っていた兵士に護送車のレンタル代及び各種経費を支払い、兵士は護送車に乗ってアルミスセントラルへと帰ってゆく。そして空たち四人は悪徳ギルド被害者たちを領主邸に招いた。
道すがらイハトヴの様子を見てみれば、休暇を楽しむ貴族からキャンプを楽しむ旅人まで多くの利用客が見られ、上客が泊まるコテージに食事を乗せたカートを押す少女がピエリーナに手を振った。
そして、領主邸ホール。
テーブルの東側にずらりと並んだ被害者たちに、テーブルにかけたアレットは言う。
「さて、皆さんには今日からここで働いてもらうッスが、悪徳ギルドのように薄給ないし無給で使い潰したり女性に『夜のお相手』をさせたりするつもりは全くないッス。このリゾートは経営して間もないのでいろいろ不備があったりお望み通りの給料を出すことができなかったりするかもしれないッスが、そこは我々経営陣、あなた方社員、共に力を合わせてサービスの質を向上させお客様を呼び込み、皆さんの望み通り、いやそれ以上の給料を得られるだけに成長していこうではないッスか。
国王陛下から賜った土地はそれなりに広く、リゾートだけ経営しても森や原っぱや川の上流下流がまだまだ手付かず。開拓したいと思えば意見書を提出し、経営陣が了承すれば自由に開拓してみてほしいッス。もちろん、故郷に帰りたい人はそうしてもらって構わないッス。では、空たちや皆さんたちからの意見や質疑応答などの時間にしたいッスが」
すると、空が「はい」と挙手した。
「ヴィント・フォン・リヒトホーフェン」
「うっ、うん!」
「皆さん。この子はわたし専属のメイドになりました。そのため彼女の仕事はわたしが割り振ります。差し当たって、リゾートではなくこの領主邸を主な職場とし、4S=清掃、洗濯、炊事、執務を主にこなしていただきましょう。見返りに、彼女に武術を教えます。……そうでした。ヴィント。あなたにもつらい過去がおありでしょうが、差し支えなければ教えてください。あなたが力を求める理由を」
悪徳ギルドに騙されたとはいえ、出稼ぎに出ようとしたのだ。それ相応の理由があるはずだ。
果たして、ヴィントは答えた。
「パパが病死。パパの弟、つまり叔父を名乗る人が居座ってママと弟に暴力を振るうんだ。パパの遺品を勝手に売って、働きに出たママの給料も賭け事と酒に使って、私は学校をやめて出稼ぎに行かなきゃいけなくなった。そこで騙された。そりゃ失望もしたけど、今はここで働けるし、お姉ちゃんが武術を教えてくれる。私たち一家を不幸にしたあんな下種野郎を、強くなってぶん殴ってやるんだ!」
やはり重い過去であった。空は震える息遣いで小さくため息をつき、「そうでしたか」と答える。他の被害者たちも「それはつらかったなあ」とヴィントを慰めるが、彼らも彼らでつらい目に合ってきたはずであろうに。
そして空は答えた。
「復讐が目的ですか。いいでしょう」
「いいの、お姉ちゃん!?」
「ええ、復讐なら存分すればいい。しかし条件と、その前にすべきことがあります。まずはお母さんと弟さんの安否の確認と叔父と名乗る人の素性を確かめ、後者の罪状によっては保安庁に引き渡します。ヴィントがなすべき復讐は、わたしが教える力を正義のために使うことです。あなたと同じ苦しみにあっている人を救い、弱き者に害なす者に相応の報いを与えてください。そしてあなたは、ここで幸せになってください。それが、あなたがわざわざ出向いてまで手を汚すだけの価値もない男に対する復讐です。あなたは生涯かけて、正義を執行し幸せであり続けるという復讐をし続けてください」
そんな方法が復讐でいいのか? ヴィントは無論、アレットを含む誰もが唖然となる。
だが、そんな空の提案にピエリーナはうなずく。
「手を汚す価値もない者への復讐、そうなのです。そんなやつは勝手に不幸になっていくだけなのです。行き場のない怒りも憎しみも、みんな空さんにお任せするのです!」
「ガンマンのお姉ちゃん……。……うん。お姉ちゃんにお願いする。でも私も連れてって。やっぱりあの男がちゃんと罰を受けるところを見ないと気が済まない!」
ヴィントの強い要望に、空は力強くうなずいた。
「我々も忙しいので約束できませんが、それは別の形で応じましょう。ピエリーナ、アルケモートの冒険者ギルドにクエストを発注してください。クエスト内容は、ヴィントのお母さんと弟さんの安否確認と、存命であればリゾート・イハトヴへのご招待、叔父と名乗る者の素性の洗い出しの上、その者に明確な罪状があれば逮捕状を発行してここへ強制連行。報酬は二十万ガルとします」
「いいのです? そうするとギルドへの仲介手数料も併せてその1.5倍ですので三十万ガルになるのです」
「わたしは今やここの社長です、私情で動くことはできません。ギャラとマージンは『今は』わたしのポケットマネーから出しますが、ヴィントがメイドとして有能と判断できればリゾート・イハトヴの経費から回収させていただきます。決して安い額とは言えません。それでもわたしにまっすぐな目で教えを請う女の子の熱意に応えるには、妥当な額と言えるでしょう」
そして空は、ヴィントに約束した。
「復讐と修業を始めましょうか」
その後。
悪徳ギルド被害者は先輩従業員がそうしたように領主邸のホールで雑魚寝となり、翌朝に待遇面の交渉と仕事の割り振りなどを済ませ、午後からイハトヴでの従事となる。だが従業員寮の第二棟も急造しなければならない。
「そうですね。これからも従業員を増やすことを考えたら、あらかじめそれなりの広さや部屋数のある社員寮を用意しておきましょうか」
「そッスね。お金に余裕があれば、いっそ三号棟も作るッス」
「そうしましょう」
ピエリーナは空とアレットの意見をたずさえて空の車を借りてアルケモートの工務店に向かい、空は早速ヴィントに八極拳を教えるのだが、それはアレットたちが唖然となるほどおかしなものであった。
「まず、客にまぎれて乗馬を楽しんできてください」
「……えっ? お姉ちゃん、いきなり何を」
「あ、忘れていました。今後はわたしのことを『師匠』と呼んでください。はいどうぞ」
「し、師匠……? どうして乗馬を?」
「乗ってきてから教えます」
とりあえずヴィントは、男性従業員のガイドの元で乗馬を楽しむ。ガイドは「背筋をまっすぐ、景色を楽しんで」と言うものであった。




