第十五章 再び旅へ ~私は、強くなりたい!~
アルミスセントラル南門の外。
交易路を使って、一台の蒸気駆動トラックがやってくる。
屋根はなくタープがけ式の運転席から運転手が顔を出し、門番にギルド運営許可状を見せて通行証を発行するように依頼する。だが運転手は門番ごと南門から勢いよく飛び出した蒸気駆動車に進路を塞がれてしまった。
「その車、動くなッス! これより、レアガルド王国議会保安庁諮問探偵アレット・ドイルが積み荷を改めさせてもらうッス。緊急事態につき強制執行、これを拒めば公務代行業に関する業務妨害罪は免れずと心せよ!」
運転席にかけるアレットが左腕の探偵ライセンスを掲げ、ピエリーナが二挺拳銃を構えて一方を運転手に、一方を門番に向ける。門番は陸軍の兵士であるため、かつて見知った陸軍中尉の空の顔を見て静かにうなずいた。
だがトラックのドライバーは声を荒げて叫ぶ。
「は!? いきなり割って入って何のつもりだ、このガキども!」
「ご安心ください、積み荷を見るだけです」
「その何が安心だ! 何の権限があってこんなことしてやがる。積み荷に何かあったらてめえらただじゃおかねえぞ!」
「ただではおかぬのはこちらの方です。権限ならアレットが積み荷を調べているうちにいくらでもご提示いたします。さあ、コンテナの鍵をアレットにお預けください」
「ちっ……。わーった、よぉ!」
ドライバーはギルド運営許可状を引っ込めると思い切りアクセルを踏んで蒸気バルブを全開にし、白煙を巻き上げながらトラックをUターンさせてアンカーボルト方面に走り出した。
白煙の中でもピエリーナはトラックのタイヤ目掛けて銃撃するが、殺傷能力すらないアークルバレットでは当然タイヤなど撃ち抜けるはずもない。そんなピエリーナに、アレットが自分の銃を差し出す。
「実弾を使うといいッス!」
「はいなのです、アレットさん!」
ガン=カタを習得していることもあり、射撃の腕はアレットよりも上。六発すべての弾丸を同じタイヤに命中させてパンクさせ、蒸気駆動トラックを走行不能に至らしめた。
「あっけないのです」
「ほんとスゲー射撃能力。ひょっとしてこの四人の中で一番弱いの、自分なんじゃね?」
アレットの調査により、積み荷は『人間』であり、荷運びギルドの男は時たま違法なモノすら金次第で運ぶ悪徳ギルド運営者であった。とは言え個人ギルドであり、彼の逮捕だけで事件は終わってしまった。
……あるいは、悪徳ギルドの商品である人間を陸軍庁舎『集団留置所』に収容してからの方が本当の始まりかもしれない。その人数は、男女半々の十三人であった。
現在の分隊長『ドルドナ』が、陸軍を代表して保護された人間たちを事情聴取する。保護された人間たちの中にはエルフやエヴィルもいるが、サーパスが半数ほど占めていた。
「俺たちはそれぞれの町や集落から出稼ぎに来ていたんだ。だがその実態は強制労働で、今度は『アルミスノース』で働かされるところだったんだ。男衆は全員そろって道路工事、可愛い女の子たちは娼館に売られ、足腰壊したやつは捨てられ、また新たに出稼ぎ労働者の募集をかけるんだ。一生抜け出せない地獄だと知らせずにな」
「そういうことがあったのか。今度の従事先を教えてくれ。その事業者が悪徳ギルドと知りながら取引をしていたのだとしたらこれは問題だ」
「分かったよ。それで俺たちはどうなるんだ? 故郷に返してもらえるのか?」
「それだが……、軍には被害者救済の義務はない。我々の仕事は悪を裁き、戦争において国土を守ることにあるからな。王国議会からの命令があれば話は別だが」
すると、そこに空が意見した。
「呉空中尉、意見具申」
「意見を許可する。何だね、呉中尉?」
「はい、隊長。まず、彼らを我らが領地フォーマメントで保護しようと思います。現在フォーマメントではミニリゾートを経営しており、サービスに対して人員が追い付いておりません。そこでしばらく彼らを雇い入れ、お給料がたまった頃に帰郷を望む者にはその意を酌み、残留を望む者はそのまま雇用し続けたいと思います。この話は、既にほかの領主たちとつけております」
空の後ろにいるアレットたちも、ドルドナにうなずく。
そう言うことならと、ドナルドはひとつ頷いた。
「では、官としてではなく領主としてよろしくお願い申し上げる、呉空男爵」
「承りました」
空は陸軍式の敬礼を返し、「それは違いますぞ」とドルドナに笑われた。
「肩書が多いのも困ったものですね」
蒸気駆動車はアレットが運転し、空は陸軍の護送車を借り受けて悪徳ギルド被害者たちをフォーマメント州まで乗せてゆく。そのうち、エルフの少女が見張り窓越しに空に尋ねた。
「お姉ちゃんは強い人?」
「強い……、そうですね。決して弱くはないと思いますが、どうしてですか?」
「みんな武器を持ってた。戦えるんでしょ?」
「そうですね。しかし武器を持っている、イコール戦えるとは限りません。長剣や拳銃を持った人が戦う力を手にしたと強気になっているのが間違いのいい見本です。ひょっとして、あなたは強くなりたいのですか?」
「なりたい!」
そう迷いなく叫ぶ少女に、空は静かに驚いた。
ちらと監視窓を見やれば、鉄条網に指を絡ませて窓枠に額を押し付けて空に答える可愛い女の子がいた。だがその目には、誰かに対する怒りや恨み、自分自身に対する悔しさ、その他さまざまな複雑な感情が色濃く表れていた。
空は前を走る車に続きながら、少女に尋ねた。
「わたしは呉空と言います。あなたは?」
「ヴィント! ヴィント・フォン・リヒトホーフェン!」
「そうですか。ではヴィント。あなたにはわたしのメイドをしてもらいます。わたしの世話を焼く代わりに、わたしの武術を教えます。ですから今は、フォーマメントへの到着を楽しみにしていてください」
「……お願い」
ヴィントはやっと黙ったが、監視窓から離れることはなかった。到着までの間、ヴィントはずっと空を見つめていた。早く武術を教わりたい、その気持ちだけを胸に。




