第十五章 再び旅へ ~国王陛下が誕プレ欲しいって……~
領主邸。
次なる目的だが、その前にアレットから言わなければならないことがある。
「えっ? 斥候部隊ですか?」
紅茶を飲みながら、空たちはオウム返しする。
「そッス。自分に接触してきたのは『ハング』と言う男ッスが、その人物を通じて国王陛下や保安庁レリック長官から知恵を貸してほしいと何度か依頼があり、それに答える(応える)形で保安庁諮問探偵としての仕事をこなしていたわけッスね」
「いつの間に……。アレットがそんな依頼を受けている様子なんて今まで見たことがありませんでしたが」
「一応ハングとのやり取りは誰の目にも触れないところでやってたッスからね。とは言え自分も斥候部隊の『一部すら知らない』感じッス。斥候部隊ってのはあくまで自分がそう呼んでいるだけで、初めてハングに接触した後に王宮関係者に聞いたところ、王宮の誰もハング個人も斥候に該当する組織も知らないって言うんッス。最初は詐欺にでも引っかかったかと思ったッスが、気分の悪い脂汗流しながら長官に聞いたところ、『あ、話すの忘れてた』とか抜かしやがって、探偵の自分が詐欺に引っかかるなんてマヌケをやらかしたかと思ったッス」
「そんなことが……。長官もお茶目と言うかおっちょこちょいと言いましょうか」
「んなもん、ただ『報告・連絡・相談』がなってないだけッス。んで本題なんッスが、そのハングから自分の存在の公表の了承と自分ら四人への依頼をもらったッス。そのハング、と言うよりは国王陛下からの命令と依頼ッスが、『今後はハングと連携して貴卿らのリゾート運営に支障ないレベルでカリオストロ対策を講じよ』と言うことと、『我の誕生日が近いので吾輩を含め多くの人を驚かせる何かが欲しい』とのことッス。……誕プレ欲しいって国王自らが言うこともねえと思うッスが」
これには、空もひまりもピエリーナもどう反応したらいいか分からない。
「わたしなら、愛槍『穿雲』を買ったアルミスセントラルのマイスターに一級品の武器を仕立てていただくでしょうか。でもひねりがないですね」
「拙者なら、ヤマト出身という強みが何か活かせないかと思案するでござるな」
「私は錬金術で宝石が作れると思うのです。あのリアクターなら小さいものなら」
「あ、いいこと思いついたッス」
二日後。
アルミスセントラル。
領主邸と陸軍分隊庁舎に挨拶に赴き、やってきたのは武器屋ジークフリート。
店の入り口をくぐると、懐かしいスキンヘッドが出迎えた。
「いらっしゃい。……ん? って、誰かと思えばいつぞやの嬢ちゃんじゃねえか。旅に出た日ぶりだな。元気だったか?」
「はい、おかげさまで。マイスターもお久しぶりです。お変わりないようで何より」
「そっちはずいぶんたくましくなって帰って来たな。旅の仲間も連れて」
初対面のひまりとピエリーナは、マイスターにお辞儀する。
そして空はここに来た要件を言うのだが、その前にこれまでの武勲から爵位と土地を得たことを説明しなければならない。
「こりゃー、領主様になっちまったってかい!? これはとんだ失礼を」
「いえ、そうかしこまられたら調子が出ません。これまで通り接してください。それで注文ですが……」
「分かった。そのくらいの物だったら二日でできる。見積書を書く、ちょいと待ちな」
見積書に納得した一同は前払いを済ませ、マイスターの店の武器を見て回って次なる目的地へ。
「ここでよくアシュレイさんとアレットと一緒に串焼きを食べていたんです。ピエリーナたちもぜひ」
「そうでござるか。空の思い出の味を味わうと致そう」
「どの串焼きもおいしそうなのです! 味付けは何がおすすめですか?」
「たれも塩コショウもどちらでも。たれはその店オリジナルのブレンドだったり長年の注ぎ足しによる深みのあるものだったり、味に様々な『顔』があります。このお店の串焼きであれば、牛タンには塩コショウ、鶏モモにはたれがおすすめです。……そうです。領主で社長になったからには、各地のグルメをレポートにまとめておかなければ」
すると串焼き屋の店長が「そっちのお嬢ちゃんはよく勘定間違えまくったっけなぁ。多い日もありゃ少ない日もあり、こっちは嬢ちゃんの財布を半分持ってるようなもんだよ」とおどけて笑った。損失を出されたら本来笑ってなどいられないが。
「うぅ、耳が痛いッス」
「アレット。貴殿は本当に……」
「ここで過去を清算していくッス」
その後は一日で受注できるクエストを見繕いマイスターへの注文の品ができるまでの時間を潰し、二日後、それを受け取って自領へと戻ろうとする。すると蒸気駆動車の運転席にかけたアレットが、緊張した面持ちで一同に言う。
「……緊急事態ッス。ハングから緊急依頼」
アレットのその手には、王国議会の紋章の判がされた紙切れが握られていた。
「アレット、それは!?」
「国王陛下や王国議会からの『機密伝文』ッス。どうやら今回はハング自身からの直接依頼。アルミスセントラル南門に向かう、アンカーボルトからの馬車を止めよとのこと!」
そしてアレットは道端に機密伝令を捨てて南門に向かって車を走らせた。
シートベルトもそこそこの三人はドアやフレームにしがみつき、ハンドルを握るアレットにピエリーナが尋ねた。
「機密伝令をポイ捨てするなんて、環境への無慮と機密保持違反なのです!?」
「平気ッス。その始末もハングがしてくれるッスから」
走り去る蒸気駆動車。そんな車を見つめながら、『王国騎士団』の紋章が刺繍されたローブを目深にかぶった男がそれまで吸っていたタバコを道端に放り投げた。タバコの火種が丸く握りつぶされた機密伝文の紙に接触し、それは勢いよく燃えて灰となって消えた。
「そういうことだ」
男はかすかにつぶやいて雑踏に消えた。




