第十四章 フォーマメント、リゾート化計画 ~わたしたち四人の旅が、また始まるのですね!~
その夜。
領主邸ホール。
空、アレット、ひまり、ピエリーナ、アシュレイ、ジャコモ&カテリーナ夫妻は、ワイングラスを手にささやかなパーティーを開いていた。
「では挨拶を、本日を以って株式会社となったリゾート・イハトヴの初代社長である呉空がさせていただきます。
……それにしても波乱万丈な日々でした。記憶喪失の状態で放浪していたわたしをアルミスセントラルのアシュレイさんに拾っていただき、陸軍の座学の中でこの国の常識を学び、わたしが世界を見て回りたいと思い立って冒険者になり、アルスさんに車を贈っていただいても運転が分からず途方に暮れていたところにアレットがついてきてくれて、旅路の中でひまり、ピエリーナ、その他様々な人に出会って、盗賊団やカリオストロ協会の悪意に立ち向かい、国王陛下にこれまでの功績を認められ、皆さんに支えてもらって今に至ります。しかしまさか爵位と土地を頂き、癒しを提供するべくリゾートを開発したと思ったら私が社長になるなんて、前までは夢にも思いませんでした。今もどこか夢を見ている気分です」
「思えば、そうねえ」
空とアシュレイは、見合ってふっと微笑む。
「しかしもはや夢とは言っていられません。責任ある立場になったのであれば、それを全うしてゆくのみ。わたしがどこまでできるか分かりませんが、皆さんと一緒ならどこまでも何でもがんばれそうです。わたしはわたしの責務を投げ出すことはしません。そのために、皆様にお力添えいただきたく思います。ともに、このリゾート・イハトヴを盛り上げ、発展させてゆき、わたしたちも幸せになりつつ皆様に幸せを提供し続けましょう。あまり長いのもお預け食らう犬みたいになりそうなので、簡単ですが以上を挨拶とします。乾杯!」
アレットたちも「乾杯!」とグラスを掲げ、ワインを味わってチーズやソーセージなどに手を伸ばす。ピエリーナは両親と隣り合って座っており、「本当に立派になったよこの子は!」と頭を撫でられていた。アルミスセントラルにいた頃の空とアシュレイの関係を知らないひまりは、アシュレイとどんな風に過ごしたのかを興味を持った様子。だが空は一社長になろうとも相変わらず食い意地を張っており、酒のつまみにするはずの湖棲魚の一夜干しに豪快にかじりついて「ブレねえな」とアレットを唖然とさせていた。
「ところでッス、空」
「はい、アレット?」
「一応『高級リゾートにするかキャンプ地にするか』って話からこんな癒しと体験型のミニリゾートとして完成し、空が社長になったわけッスが、旅人として、冒険者としてはどうするつもりッスか?」
「はい。社長として、また領主陣の一員として方々に挨拶に行くこともあるでしょうし、その中でわたしの過去を探してみることにします。ひまりが追い求めていたレアガルド伝記、そしてエンシェントエイゼルンサーガの真実も、やはりわたしに関係なさそうだということも分かりました。わたしの過去を探す旅は振り出しに戻りましたが、それも悪くない気がします。『80を100にするよりゼロを80にする方が簡単だ』というのなら、別の切り口から新しい旅を始めるのも悪くないと思います。それに」
「それに?」
「これまでは、わたしの過去、美食と美景、ひまりのジグラス巡り、アレットのカリオストロ協会対策の任務が主軸と言う、『目的のために旅をする』と言うのが旅のスタイルでした。今後はカリオストロ協会対策とリゾート・イハトヴの発展を目的としつつ、『すべてを楽しむために旅をする、そして旅そのものを目的とする』のもいいかと思います。アレットはどうでしょうか」
「うん、悪くないッスね。空は当初の目的を見失っていないみたいッスし、開拓の間も自分の保安庁諮問探偵としての立場は片時も忘れたことはないッス。やるべきことは山積みッスが、それもみんなまとめて楽しもうじゃないッスか」
アレットは右拳を空に向ける。
そして空も、ナプキンで右手を拭ってうなずく。
「わたしたち四人の旅が、また始まるのですね」
アレットの拳に、空も自らの右拳を合わせる。
すべてはひと区切りついた。
再び始まる旅に胸を躍らせる空とアレット。そしてひまりとピエリーナも。
「そうか。再び始まるのでござるな」
「心機一転! またたくさんの物を見て回って楽しい思い出にするのです!」
アシュレイ、ジャコモ、カテリーナも互いに見合って頷く。そしてジャコモが空に言った。
「イハトヴは僕らとパワードさんに任せてください。貴卿らの留守中も、このリゾートにてお客様方をご満足させて御覧に入れましょう」
「よろしくお願いします、ジャコモ・マルゲリータ代表取締役。さあ、今度はどんな出会いとグルメと、ついでに戦いが待っているのでしょうか」
戦いはいらない、とほか六名は笑いながらツッコミを入れる。




