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第十四章 フォーマメント、リゾート化計画 ~イハトヴは株式会社へ。そしてわたしが社長になってしまいました!?~

 さらに三日後。

 フォーマメント州リゾート・イハトヴ、領主邸。

 ホールには、ピエリーナの両親であるジャコモとカテリーナ、ローリエの工房のエルフの女性店主『ブランシュ・ローリエ』、猟師のジェフリー、『消防庁』アルケモート分隊長『カエデ・ツシマ(ヤマト名:対島楓)』がホールのテーブルにかけていた。

 カエデが言う。

「なるほど、あたしたちにその取締役員に、そんでもって『株主』にもなってもらいたいと」

「はいなのです。出資額は皆さまの任意なのですけれど、目的はあくまで取締役会の設置、それによる皆様の意見の反映と、パワードさんの補佐なのです。出資していただいたお金は、主に人件費と人員育成費に充て、『施設の拡充よりもおもてなし方面でのサービスの質の向上』に努め、出資者の皆さまにはその出資額に応じてイハトヴのサービス利用割引などのチケットを配布する、と言うことを考えているのです」

「そう言うことなら乗ってもいいよ。確かに『モノだけよくても人が育たなきゃ消防官も務まらない』しねえ」

 すると、ジャコモが手を上げて尋ねた。

「そう言うことであれば、ここから先は親子の情を捨てあくまで出資者、意見者として言わせてもらおう。出資はやぶさかではないが、そもそもの問題としてパワードさんが経営者を、すなわち社長を務めていることが多方面からの懸念であるならば、パワードさんこそ取締役員とし、社長は別の人物を用意するのはどうだろうか。もちろん、取締役会を置くこと自体は大賛成だし、会社化するなら必要だ」

「確かに! どうしてそればかりに固執していたのです!?」

「陛下のご意見と言うこともあるが、お前たちは情に厚いからな。パワードさんの元社長としての技量を買いつついろいろあったパワードさんをお救いしたい気持ちもあるのだろう。だが視野を広く持つことも大事だ。僕は……」

 ジャコモは空を見て、彼女に言った。

「呉卿。僕はあなたこそ社長にふさわしいと思っております」

「えっ? わっ、わたしですか?」

 ジャコモはひとつ頷いて、その理由を述べた。

「正直、我が娘ピエリーナをひとりとする、あなた方四人の誰が社長になってもいいと思っております。外部から社長としての素質ある者を招くこともよいでしょう。しかし、そもそもあなたたち四人が旅団として成立し、各地で武勲を立ててきたのも、呉卿が旅を始めたことがすべての始まりです。あなたが旅を始めなければ河上卿もドイル卿もあなたについてくることもなく、アルケモートの町もカリオストロ協会の間の手から守っていただくこともかないませんでした。そしてこれから領主として多方面に挨拶に行くことがあるのであれば、あなたの過去を探すという旅を続けることもできるでしょう」

「そう言うことなら……。でもわたし、記憶喪失ですよ?」

「記憶の有無が人の優劣や仕事に対する素質を決定づけることはないでしょう。あなたがこのリゾートのために、ここにいらっしゃる方々のために何ができるのかを思いめぐらせることができる。それこそ、社長に何より必要な素質です。迷ったら相談してください。僕でよければ、貴卿にお力添えさせていただきたいと思います」

 まさか自分が社長に推薦されるとは。空はしばし口をあんぐりと開けて呆然となっていたが、ふっと微笑んだピエリーナが言った。

「そうなのです。空さんこそ、私たち旅団の、そしてフォーマメントの中心なのです。お父さんの言うとおり、すべては空さんから始まったのです。もうとことん中心でいたらいいのです」

「ピエリーナ……。……そう、ですね。正直、驚いてはいますが遠慮したいという気持ちはみじんも感じません。分かりました。ジャコモさんが推してくださり、ピエリーナがそう言うのであれば。ひまり、アレット。わたしが中心で構いませんか?」

 そう尋ねる空に、ひまりは「うむ」と力強くうなずき、アレットも「よっ、社長!」と囃し立てる。

「分かりました。ではこの不肖呉空、社長として邁進してまいりますので、お力添えのほどよろしくお願いいたします。早速決めたいことがあるのですが、この取締役会の、すなわち、ええと、ピエリーナ?」

「はいなのです、『代表取締役』なのです」

「そうそれ、代表取締役。この役目をアレットとジャコモさんを推薦します」

「任されたッス!」

 社長と代表取締役の違い。

 社長は『会社という枠の中で定められた役職のひとつ』に過ぎない。一方で代表取締役とは、株式会社に必ず置かねばならない取締役(機関)の中でも『会社の代表』という法律で定められた立場である。いうなれば、社長は組織のリーダーだが代表権はなく、代表取締役こそが他社/他者との契約締結などを取り仕切ることができる。事実上、アレットとジャコモに会社のハンコを持たせるということである。また代表取締役は一名である必要はなく、空が代表取締役を務めることで『代表取締役社長』を名乗ることができるが、この役職のおかげで一般には『社長=代表』と勘違いしやすい。

 代表の役目だが、例えば空がアレットに「ジャコモさんの会社アーラ・ビアンコとの契約を取り付けてきてください」と指示を出し、アレットがハンコを持って契約書にサインと押印するという流れが生じ得るのである。

 アレットは意気揚々と代表就任を快諾したが、代表は取締役の賛成を得なければならない。だがもはや見知った顔の集まりだ。反対する者は誰もいなかった。

 すると、ローリエの工房の店主ブランシュが挙手して意見した。

「これは半分当工房の欲でもあるんだけど、いいかなあ? 例えば子供たちの工作や当工房およびマルゲリータさんの会社の錬金術由来のグッズを販売する『物販コーナー』も設けた方がいいんじゃないかなーって? もちろん、店員には私の知り合いを充てるよ~?」

「いいッスね。子供たちの工作なら一般層に、錬金術グッズなら上流階級にウケるかもッス。一応取締役会と株価とリターンに関する話だったッスが、それも議題に織り込んでみるッスか!」

「弊社は靴屋だが、外で販売するなら靴に限らないキーケースなどの小物も作れるな。十年ぶりにミニケースとか作ってみるか。な、カータ」

「そうね。何が喜んでもらえるかなあ?」

 こうしてこの日一日、取締役会に関する話が続き、グレン・パワードは正式に経営者から取締役員に任命された。

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