第十四章 フォーマメント、リゾート化計画 ~空さんのアイデア、湖上ホテル計画が実現したのです!~
そして一月後。
ライノックが『グランドオープン』に訪れてみれば、そこには多くの利用客が詰めかけていた。
「これは素晴らしい。設備もサービスもはるかに拡充しているではないか」
ライノックとしては王家の晩餐で顔を合わせたことのある貴族など多くの人々が訪れており、乗馬コーナーでは馬のほかにも角の無いメスヤギに乗ることもでき、羊とのふれあいコーナーとヤギ乳試飲コーナーまである(しかも「ここのヤギ乳はおいしいぞ」と舌の肥えた貴族が絶賛している)。遊具に関してはブランコ、滑り台、バギー用タイヤを並べた石畳、トンネルのある山などがある。
先のプレオープンで得た提案は狩猟以外ほとんど通っており、円形劇場は観客席こそ工事中だが旅の五重奏弦楽団『スターピース』が演奏を披露している。このあとはピエリーナによる射撃ショーを開催する予定だ。
しかも利用客やライノックの度肝を抜いたのが。
「我が海軍の軍艦ではないか。こんなものを誰がどうやって!?」
驚愕するライノックに、彼を出迎えた空が説明した。
「これは、パワードさんが海軍アンカーボルト分隊にこのリゾートのプレオープン招待状を出してくださった際に湖上ホテルのための船を探していると話を持ち掛けてくださり、分隊がプレゼントしてくれたものです。一度アーダルベルト海賊団の手に渡った軍艦は解体されるところでしたが、お金をかけて解体するくらいなら今度こそ人を喜ばせるために役立ててほしいと譲ってくださったのです。こちらの返礼として、アンカーボルト分隊員は向こう十年間の三割引の利用額ですべてのサービスをご利用いただこうとまとまっています」
「そうだったのか。あの軍艦はやはり湖上ホテルに?」
「はい。船舶の操船には『海技士』の資格を必要とし、遊覧目的には当分使えそうもありませんので。宿泊を目的としないお客様には、展望デッキとしてご利用いただくことも考えています」
「そうか、それはよい。ではせっかくだ。湖上ホテルを使わせていただくことは可能かな?」
「はい。陛下のために、一部屋開けております」
空の案内で、ライノックは訪れていた貴族たちとあいさつを交わして湖上ホテルに向かった。船の名は『ヒビキ』とし、これは『不死鳥と謳われたヤマトの駆逐艦』に由来している。解体されるところを新しい命と役目を与えられた船に御誂え向きの名だとライノックはうなずく。
グランドオープン初日と言うことで多少の不備や荒があったものの、多くの者が笑って許し、横柄な貴族も国王の手前横柄に怒鳴ることもできない。しかし従業員の誰もがそれらの意見を真摯に受け止め、改善に努めると元気よく答えた。それらの反省は明日に生かさなければならない。
大忙しのオープン初日も夜を迎え、ライノックはヒビキの展望デッキに空たち四人を招いた。
「皆、ご苦労であった。手ごたえはどうかな?」
代表してピエリーナが答えた。
「はいなのです。お客様の反応は上々で、特にお子様連れの貴族の方々には遊具とステージが好評だったのです。料理も森で採取できる果物を用意できたことがよかったのです。湖上ホテルのヒビキも数部屋埋まれば御の字かと思ったのですけれど、まさか八割埋まるとは思ってもみなかったのです」
「それは何より。サービスの方は手が回りそうか?」
「それが、人手が足りないのです。今日は領主陣全員が対応したのですけれど、そのうちリゾートの外に挨拶や資材調達や交渉に行かなければいけないことを考えると、人手は増やさないといけないのです。サービスの質については、今日の反省をパワードさんにまとめてもらって、今後は作業手順書を作成して、先輩後輩変わらない質のサービスができるようにしようとしているのです」
「さすがは社長令嬢、『気をつけましょうで終わらせない』ところが素晴らしい。しかしひとつ懸念材料がある」
「何なのです?」
「やはり今日も聞かれた、グレン・パワードが経営者、株式会社パワードの元従業員のリゾートで大丈夫かと。特に新米領主の荒を探して我が物に取り込もうとするズルい者がいる可能性も否めない。そこで、パワードを経営者として雇用し続けるのであれば、イハトヴを株式会社化して『取締役会』を置くとよかろう。社会的信用のある者を数名見繕い取締役会に加入させれば方々への説得力にもなるし、何よりパワードを支えることができるだろう。また、領主陣である貴卿らが取締役会の一員になることは言うまでもないだろう」
「だったら、私のお父さんとお母さんに頼んでみるのです。ほかにもアースゲートさんなど、アルケモートの事業者さんの中から募ってみるのです!」
「それはよい。……ふふふ。またここに来てゆっくりくつろぐ口実ができそうだ」
ピエリーナは商売に携わっていた者としてリゾート改善に意欲を燃やし、ライノックはその恩恵に与ろうとしている。だが一方で王国議会と付き合いのあるアレットとかつて律令国の主の従者であったひまりは「国王がそんなことでいいのか」と唖然となる。空だけが「これからが楽しみですね」とのほほんと構えていた。まさかその後、自分にとんでもない話が振られることなど知る由もなく。




