第十四章 フォーマメント、リゾート化計画 ~『太陽手(ティダヌティー)』、見たこともない武術です!~
……仁義礼智と信の字胸に、誇る力は活人が為に。武の道行く我、地鳴らす一歩は天の采配のもとにあり。尋常に勝負。互いの誇りをかけて!」
そしてピエリーナは相撲でも使った軍配を振るう。
「乾坤一擲、試合開始!」
「参ります!」
「ああ!」
先に仕掛けたのは空であった。
王城の玉座の間でも披露した箭疾歩にてアルスに迫るのだが。
「『太陽手』、『旋回脚』!」
左足を軸に回転しながら空の拳を回避し、そのまま右踵にて空の頭を狙う。
「わっ!?」
空は拳を引いて肘でガード、空中で体勢を立て直しつつ唯一地に着いているアルスの左足に蹴りを向ける。
「八極拳、『斧刃脚』!」
「おっとぉ!?」
アルスは跳躍ではなく、地に着ける足を左足から右足に切り替えることで対応した。
その間、一秒。
一瞬の間の技の応酬に、誰もが唖然となった。
「ティダヌティー……? 八極拳に続いて知らない武術ッスが」
それについては、ゴールドメイルが説明した。
「大倭皇国より南に位置する諸島連合王国『太陽国』を発祥とする武術で、太陽語で武術を『手』と言うらしい(=太陽国の武術)。つまりアルスの先祖は、ティダ出身の戦士だったと言うことだ」
「そんな歴史が……。世界は広いッスねぇ」
「そうだな。遥か昔、歴史に残る武勲を立てたライトアームズ一世は当時のレアガルド国王から雷を操るとされる魔法の剣『ライデイン』を授かり、ティダヌティーも併せて向かうところ敵なしの大活躍を敵味方に見せつけたそうだ」
その後も八極拳とティーの衝突は続く。敵の技をかわしつつ反撃したと思えばそれすらもいなされ、更なる反撃も無効化され、距離を置いて体勢を立て直せどすべての戦略が無と帰される。英雄の武術を受け継ぐアルスと互角に渡り合う空に、運送ギルド長クリストファーや陸軍の分隊長オーガストも手に汗を握って見守る。
「フィジカル的に不安だと思ったが、体の柔軟さや素早さ、的確な攻撃で勇者卿と渡り合えるなんて。本当にすごいな、あの子は」
「陸軍中尉相当なんて出世、異例もいいところだと思ったが、この強さを見せつけられたら納得もするとも」
だがアルスもティーに由来する技ばかりに頼らない。レアガルドに伝わる武術やこれまで戦ってきた強敵の技すら我がものにし、八極拳で立ち向かってくる空に繰り出してゆく。空もまた、真正面から食らった拳や蹴りを纏絲勁に巻き込んでアルスを地に沈めるが、アルスもまた空を自分の懐にあえて引き込んでゼロ距離攻撃を浴びせて空を吹っ飛ばす。
試合開始より二分経過。ピエリーナは懐中時計から顔を上げ、空とアルスの戦いを見守る。
「勝ち負けが目的じゃないと言っても、真っ向からぶつかり合う武人。相対すれば一切合切の容赦なく、自分の誇りに準じ、相手への敬意をその力に乗せる。私にそれだけの覚悟があるのです? 私は、とんでもない人の旅についてきてしまったのではないのです……?」
この時初めて、ピエリーナは空とアルスを恐れた。そしてそれと同時に、尊敬の念より心底震え上がった。
「私はついてゆくのです、空さん」
そして試合終了まで三十秒を切った。
防具の上からでもアルスの拳は空の内頬を切り、彼女の唇からは血がしたたり落ちる。空の拳もヘルメットの真正面からでは防ぎようもなく、アルスは鼻血をナックルで拭う。
「いい拳だ。勇者との親善試合となるとみんな辞退するか敬遠した感じの技しか出してこないが、きみにはそのような遠慮が一切ない。戦っていて楽しいよ」
「試合において、相手に本気を出さなければ失礼と言うものです。今度はアルスさんが本気で来てください。あなたの拳にこそ、まだどこか遠慮があります」
「指摘されてしまうほど、僕はまだ本気になれていなかったのか。……だったらここからが本番だ。行くぞ!」
「はい!」
今度は同時に地を蹴った。
迫る空とアルス。そして繰り出す技は。
「八極拳、『冲捶』!」
「ティー、『太陽拳』!」
ともに右ストレートパンチ。だがそれを互いの左手刀で払いのけ、まさかの同時反撃が繰り出された。
「八極拳、『猛虎硬爬山』!」
「ティー、『バックキック』!」
八極拳最強の絶招(必殺技)のひとつ、猛虎硬爬山。虎の手型の掌底より繰り出し、その威力は山をも崩すとされる。その左掌底による一撃はアルスの右脇腹を狙う。
ティーにおける必殺技、回転後ろ回し蹴り。左踵を軸とした逆回転から生まれる遠心力を右蹴りに乗せて見舞う一撃はすさまじく、熟練すればティー最強の一撃たり得るそれは空の真下から顎を狙う。
そして命中する猛虎硬爬山とバックキック。アルスは胴を『L』の字に折って吹っ飛び、空はのけぞりながら宙を舞って荒れ果てた芝生に落ちた。
そして。
「三分! 試合それまでなのです!」
ピエリーナは軍配を放り投げ、懐中時計をしまいながら空の方に駆け寄る。フリューゲルも虹色の翼を展開してアルスのもとに舞い降りる。
「空さん! 空さん!?」
「アルス、しっかり!」
だが、両者は何も返さず指先ひとつ動かさず。
これはまずいと思ったか、アレットがピエリーナに向かって叫ぶ。
「ピエリーナ! 回復系と気付け系のポーションを持ってくるッス! 早く!」




