第十四章 フォーマメント、リゾート化計画 ~勇者アルスさんと親善試合をすることになりました!~
その夜。
コテージの数には限りがあり、そもそもコテージは金持ち一家とその付き人がひとつ屋根の下で宿泊する想定となっている。王族以外はくじ引きで組み合わせを決めて宿泊すること、あるいはキャンプ同様に持参のテントで宿泊することを事前に了承してもらっている(王族の護衛は仮眠ののち寝ずの番)。
ところでイハトヴの従者だが、従者専用の寮については領主邸の裏を建設予定地として決まっており、設計に関する議論が最近やっと煮詰まったところである。寮が完成するまでは、領主邸や来客用宿泊棟のロビーで雑魚寝すると言う状況になっている(一部の女児には空たちの部屋の床を提供している)。
子どもたちが寝静まったころ、倉庫に魔導ランタンを持ち込んでプレオープン初日会議が始まる。
「目立った不備と言う不備はないッスが、魔導コンロなど一部の魔術道具に関しては使い方の説明書が必要ッスね。何分貴族は従者にほとんどの面倒を見てもらっている分、自分で何かをしようとするとだいたい分からないものッス。そういった魔導アイテムに関してはその使い方を記したブックレットを用意しておこうと思い至ったッス。
要望としては、体験型が欲しいって意見が多かったッスね。ヤカからは釣りや農作物狩りやそれらで得た料理を味わうことを提言され、国王陛下からは自分が姫殿下にお馬さんごっこをして差し上げた経緯から乗馬コーナーの設置を意見され、狩猟が趣味である第八代レッドフォート伯爵からは狩猟用の銃のレンタルを要求されたッス。
つまり、湖水地方という立地を利用した癒しの空間の提供のみならず、ここでしかできない『体験型のアトラクション』を用意するのがこのイハトヴの完成度を高める要ではないかと思う次第ッス!」
空とピエリーナは「おー」と感嘆して拍手するが、ひまりは「それでは足りない」と進言する。
「ここの利益のために上流階級を相手にするならば、彼らに『ナメられない』工夫をするのも必要不可欠と存ずる。世には『ナメられたら無効』と言う免状があるそうで」
「ねえよ!?」
すかさず空とピエリーナが「しーっ」と唇の前に人差し指を当てる。子供たちが起きてしまう。
「と、ボルタ殿がおっしゃってござる」
「ナメられて無効になる免状がどこにあるッスか。まあ見栄っ張りの貴族社会はそうなのかもしれないッスが、つまりはマウンティングかけてきそうな連中を実力で黙らせればいい、と言うことっすね?」
「然様。手っ取り早いのが実力のある冒険者や傭兵を雇い入れ、その実力を示すことでござるが、我が州にそれだけの手練れはおらぬ。むしろ、我々四人こそが州最強と言えよう」
「詰んだわこれ」
「そうでもござらぬ。ピエリーナが以前意見した円形劇場の設立を早い段階で実現させ、そこで貴族たちが誇る衛兵たちを集めて親善試合を開催するのでござる。そこで我々が勝利を多く収めれば実力を示せるようなもの。男爵と言う爵位の低さなど一気に跳ね返せよう」
「であれば」
空が意見した。
「おあつらえ向きの人員がいます」
翌日、昼食時。
領主邸前。
賓客は椅子に座り、従者たちは直立か丸太に座る形で、ある一点を見つめていた。
彼らの視線の先には、空とアルスの姿。
空は陸軍の制服でもセーラー服でもなく『ヴィエナハム共和国』を由来とする『アオザイ』と呼ばれる民族衣装に身を包み、アルスはレアガルド王国騎士団の騎士装束に身を包んでいた。そして双方戦闘訓練用ヘルメットとナックルを装備している。
「呼ばれて来てみれば、これはどういうことだ?」
ライノックの質問に、アレットは答える。
「はいッス。今はこうしてご縁のある方々に来ていただいているからよしとしても、今後はマウンティングを取ってくる貴族を相手にすることもありましょう。その際に『ナメられたら爵位無効』なんて言われちゃたまらないッスからね、ここにいる人々に我々の実力を示すためにも、空とアルスの親善試合を開催しておく必要があるかと」
「ナメられたら無効はさておきそれは確かに。かつて玉座の間で披露してもらった八極拳も技の披露に終わり、呉卿の実力のわずかを垣間見たに過ぎぬ。ここで第九代勇者卿を襲名せしアルス・ライトアームズに対抗しうる力を示せば、その事実は抑止力となろう」
「御意。では」
審判はピエリーナが務める。
「はいなのです。これより、呉空さん対アルス・ライトアームズさんによる親善試合を開始するのです。レギュレーションは、正々堂々など言わず卑怯な手段ありの本格実戦形式、敵防具を剥いでの攻撃は禁止、試合時間は三分とするのです。これは決着や優劣をつけるものではなく、私たちの代表である空さんの実力をここにいる皆様に示すため、そして親善試合の名の通りライトアームズ家との友好のために行うことを目的としているのです。親善試合を受ける心構えが決まり次第、双方拳を構えるのです!」
そして、空とアルスは拳を構えた。
「よろしくお願いします、アルスさん」
「愛らしい女性に拳を向けるのは嫌なものだが、拳を向けるからにはためらいを捨てないとな。今は互いに、武人らしく拳を言葉として交わそう」
「はい。……仁義礼智と信の字胸に、誇る力は活人が為に。武の道行く我、地鳴らす一歩は天の采配のもとにあり。尋常に勝負。互いの誇りをかけて!」
そしてピエリーナは相撲でも使った軍配を振るう。
「乾坤一擲、試合開始!」




