第十四章 フォーマメント、リゾート化計画 ~歓談の時間です。皆様、楽しんでくださるでしょうか。~
その後は、空、アレット、ひまり、ピエリーナに分かれて縁のある人々と会話を楽しむ。
空はクリストファーに跪かれていた。
「呉卿、本日はわたくしめをこのような記念すべき行事にお招きいただき、誠に」
「いやいやいや! 顔を上げてください、クリストファー船長! わたしたちはただ、縁を紡いでくださった皆様にご恩返しがしたいと思ったんです。みなさんに喜んでいただけるなら、それが無上の喜びです。これからもたまに遊びに来て下されば、うれしいと思います」
「そ……、そうか? 分かった。ではこれからは友達付き合いとしよう。我々の得意分野は海路だ、海外の物で欲しいものがあったら何なりと申し付けてくれ」
「はい。その時はよろしくお願いしますね」
「こちらこそ。これはアンカーボルトで近頃女性に人気の錨型リストバンドなんだ。陸士に錨はないだろうとも思ったんだが、何分俺にプレゼントセンスが無くて、申し訳ない」
するとそこに、アルスが「ん!」と強く咳払いして割り込んできた。
「お取込み中のところ済まない。これは我がライトアームズ州の特産品でさ。よければ空にもらってほしいんだ。みんなにも配る予定だったし、そちらのお方もおひとつどうだろうか」
アルスが空とクリストファーに差し出したのは、いくつもの『組み紐』であった。組み紐の素材には綿が使われることもあるが、ライトアームズ州は養蚕業も盛んであるため産業のひとつとして組み紐も産業に取り込んだようである。
「おぉ、勇者殿。これは素晴らしい逸品だ。これを頂けるのか?」
「もちろんです。お近づきのしるしに」
と言いつつ、アルスの声はやや不愉快そうである。
これにはクリストファーも「そう言うことか」と察した。
「わたし、これがいいです!」
空が選んだのは、空色と白の絹糸を編んだ組み紐だった。それを手に取って目を輝かせているのを見て、アルスもうれしそうに喜ぶ。
「そうです。ちょっと待っていていただいても構いませんか?」
「構わんが」
「ああ。ここにいるから」
そして領主邸に戻ってしばらくして帰ってきた空は、海軍払下げ品に自らの家紋のワッペンを貼ったセーラー服姿であった。左手首には陸軍の紋章と冒険者ライセンスを巻いているため、クリストファーのブレスレットは右手に、アルスの組み紐は胸の前でリボンになっていた。
「どうですか? 似合いますか?」
空のまさかの美少女ぶりにクリストファーは唖然となり、セーラー服を一度見ているアルスも改めて頭を抱えて悶絶して絶賛した。
「僕の……、女神が……、降臨した……!」
「おい勇者。お前絶対彼女を幸せにしろよ」
アレットは王国議会で見知っている陸軍庁長官アーチャーや保安庁長官レリックから祝われていた。
「レッドフォートぶり。それにしてもそのうち貴族になるんじゃないのって噂してたらもうなるとか、期待を裏切らないと言うか飛び越えて来るとか」
「その噂、私が一番あり得ないと思っていたわ。金銭勘定できない探偵がまさか貴族になるなんてねえ」
レリックの場合はやや皮肉交じりである。
「そりゃどうもッス。まあ貴族だからって底辺の男爵ッスし、自分らはその前に探偵だったり軍人だったりしてるんで、人々の幸せのためにガンバっていくのみッスよ!」
するとそこに、悪魔の仮面の冒険者ヤカがワインのグラスを持って現れた。
「久しいな、アレット」
「こちらこそッス、ヤカ。自分からマグまで会いに行くって言ってたのに、この体たらくッスが」
「いや。招待状を見た時は心底驚いたが、それだけ貴君らは国王から認められることをしたのかと、強さや人柄を考えれば納得もできる。そしてこうして杯を交わせるのだ。貴君と杯を交わすと言う約束は果たせたことを、心よりうれしく思う」
「んッス。今日はヤカも皆さんも大事なゲストッス。思う存分堪能して、不備はもちろん要望があれば何でも申し付けてほしいッス」
「であれば、釣り場と畑を所望する。外から買ってくるかリゾートが用意したフルコースを堪能するかではなく、自分で魚を釣り、作物を収穫し、質素でも不細工でも構わん、ここでしかできない自分だけの食を味わいたいのだ」
「それは確かに。体験型のリゾートもいいッスね。ゲスト収穫用の畑はどうなるか分からないッスが、メジャーなところでイチゴ狩りやブドウ狩りがいいかもッスね。今夜にでも検討してみるッス。メモメモっと……」
ひまりは、自分からボルタに話しかけに行った。
「……居心地悪いでござるか?」
「女神。いや、河上様でしたね」
「様はよしていただきとうござる。ひまりと呼んで構わんでござる、ボルタ殿」
「では、ひまりさん。改めてよろしく。この度はレイクサイドミニリゾート・イハトヴのオープンおめでとう。そしてそれに対し、元同僚や部下たちもこうして雇い入れてくれたことを心から感謝する。彼らも路頭に迷っていたんだ、僕のせいでね」
「そうと決めたのは空にござる。拙者が空に成り代わりボルタ殿の謝意を受け取らせていただこう。あと、もうこれ以上自分の過去を責めるのはよすでござるよ」
「ああ。このチーズ、うまいな」
「牛乳はアルケモートの農家の方から譲っていただいたものでござるが、酵素やその他添加物の配合量やチーズの製法などは、錬金術師であるピエリーナのオリジナルレシピによるものでござる。そちらの白いものはチーズ生成過程で出た謎の液体をさらにチーズとして生成したものでござる。名前は……、申し訳ござらぬ、忘れてしまった」
そこにピエリーナが「『ホエー』なのです~」と補足した。
「ははは。拙者もまだまだ勉強中の身と言うことでござる」
「あなたは前向きなんだな。俺は自責の念がぬぐえないと言うのに。本当だったら、このパーティーも辞退したかったよ」
「それは、よきことにござる」
「え?」
「そうやって自責の念を抱くと言うことは、それだけ他者をおもんぱかれ、自らの責任と向き合っていると言うことでござる。しかしそれは前を向き歩き出すためのものであり、いつまでもとらわれ続けていてよいものではござらぬ。貴殿は確かに故郷の永久追放と言う重罰を受けた。しかし、償いと言う形で進むことはできよう。償いは、貴殿が幸せでなければできぬことに他ならぬゆえに」
「……そうか。ありがとう、俺の女神」
ボルタはかつて後輩であった男にワインを注文した。
「ワインをもう一杯頼む。どうか、幸せに働いてくれ」
「先輩こそですよ。またいつでもいらしてください、ご近所なんですから」
ピエリーナは。
「お時間よろしいかな、マルゲリータ嬢」
「はいなのです? って、町長さん!」
そこには、アルケモートの町長『グリエルモ・ロッセリーニ』がいた。
「前にこうしてお話したのは、バレエ教室の練習中だったね。練習は大変か、ご両親の商売はうまくいっているか、そんな感じのことを話したような気がするが、そのあときみがセンターを外れると聞いて、次のバレエは花形が欠けてのステージとなるのかと落胆したものだが」
「えっと、そっ、それは……」
「聞いたよ。きみがドイル卿を追って旅に出た後に、リッコから」
「えっ!?」
「リッコは酷く後悔していた。きみやきみの両親の冤罪を吹聴して回ってバレエの花形から引きずり下ろしたと。そしてその後になってひどく後悔しながらステージに立ったとも。許してくれとは言わん。この節穴の目のわしを責めてくれて構わん。むしろわしから君に謝りに行くつもりだった。それがアルケモート錬金術協同組合設立に関することに忙殺され、まさかきみたちからここに招待されてここで謝罪することになろうとは思わなかった。言い訳にすらならんが」
「……町長さんって」
すると、ピエリーナはグリエルモにイノシシ肉の荒切りステーキが乗った皿を差し出した。
「確か、お肉はシンプルに塩コショウがお好きだったのです」
「よく覚えているね」
グリエルモは鉄の串で荒切りステーキを刺して頬張る。「よい焼き加減に味付け具合だ」とほめて平らげ、静かにうなずいた。
「……謝りたいことはたくさんあった。娘のきみに対する不義理は筆舌に尽くしがたいものだ。どう詫びてよいか分からんが、ひとつだけ確かに言葉にできるものがある。叙爵と領土の拝領、リゾートの開拓とオープン、誠におめでとう。罪滅ぼしの代わりに、精一杯支援させてもらいたい」
「ご祝辞ありがとうなのです。でも、罪滅ぼしとかそう言うのはいいのです。私はバレエの代わりに武術を習い、空さんについていってたくさんの物を見て回って悪い連中を倒して、その功績の先に今があるのです。ロッソも最高峰を目指すと言っていたのです。今は互いに、それぞれの目標を追いかけているのです。今は、それでいいのです」
「マルゲリータ嬢……。そうか。それでよいのか。やっとわしは救われた気がするよ」
そしてグリエルモも、鉄の串が乗ったチーズの皿をピエリーナに手渡した。
「嬢は錬金術師であり、我が町は錬金術の町だ。フォーマメント州とアルケモートの町、手を取り合ってゆきたいと思う」
「こちらこそ、なのです」




