第十四章 フォーマメント、リゾート化計画 ~忘れることなかれ、我らフォーマメントの三原則!~
「方法はふたつあるのです」
ピエリーナが提唱する、ふたつの方法とは?
「とは!?」
「1:欲をこくのです」
「欲をこく!?」
「はいなのです。数千万、できれば数億、これだけの年収を一事業で稼ぐぞ、と目標を立てるのです。そのために何を仕入れ何を売るか、そして誰をターゲットとしてその商売を起こすか。そしてやるからには強気で『自分のサービスを推しまくる』のです。
手っ取り早い方法が、私たちより爵位が上の貴族に『媚と一緒に宝石を売れば』簡単なのです。例えば、錬金術で新しい結晶を創造して研磨し、かつてアルケモートを悪党から退け小英雄と呼ばれた私たちにしか作れない、誰にもマネができない、レアで究極の一品いかがなのです? と売って回るのです。
貴族は爵位が上であればあるほど見栄っ張りなのです。なので、黄金やダイヤなど最初から高価なもの、希少であるがゆえに高価なもの、有名画家の絵画など付加価値のあるもの、最新技術で作られたもの、『あまりにコアかつマニアックすぎてすぐには理解が追い付かないもの』、そのあたりの品物に飢えているのです。
その飢えを、私の錬金術ならすぐにでも! ……と言いたいところなのですけれど、宝石の結晶を作るにはそれなりの設備とアークルが必要なのです」
「つまり可能性はゼロじゃないと。もうひとつの方法は?」
「2:『そもそも商売とは社会貢献』なのです。自分の時間、技術、商品、肉体労働やおもてなしのサービス、それらを以って誰かを満足させてあげることで見返りを得るのです。
例えばそれはこの中ではアレットさんが得意で、探偵と言う立場から知恵や知識や経験から、王国議会からレッドフォート州の恋愛相談の女の子まで幅広く対応し、問題を解決したり、それに向けて自分の時間と手間をかけたりしただけの見返りを得るのです。
探偵としてこれまで活躍を重ねてきたアレットさんでもたったひとりでは解決できない事件があるでしょうけれど、つまりアレットさんの行動そのものが人に幸せを提供することで報酬を得る商売として体現させているなのです」
「なるほどッス。そのあたりは冒険者と同じッスね。ギルドにクエストを発注する人の要望に応じることでギャラを得る、ギルドはその両者をつなぐことで仲介手数料と言うギャラを取る、こうして三者の持ちつ持たれつの関係性を成立させると言うことッス」
「はいなのです。と言うことで、私たちはどこまで欲で動き、どこまで社会のために粉骨砕身できるかを考えないといけないのです。男爵と言う階級なんて今は忘れて、一事業者、開拓者の気持ちで考えるのです」
ピエリーナのその言葉に、パワードはひどく感心してあんぐりと口を開けていた。
「さすがは社長令嬢。私が言いたいことのほとんどを言ってしまいました」
「ありがとうなのです。でも『ほとんど』って、パワードさんもやっぱりこれでは足りないと思うのです?」
そう尋ねるピエリーナに、ワインを味わって答える。
「私が思うに、皆様のご意見や今後の目標、提供できるサービスやターゲットとする顧客、この土地の開拓に対するやりがい、それらを『それぞれの思うが儘に整理している』と思っています。それらを、『レヴェスターライヒ共和国』の経営学者『フェレナンド・ドルカ』の唱える経営の三柱『組織の定義づけ』、『マーケティング』、『成果と働き甲斐』に合わせて考えてみたいと思います。
ではここで言う組織とは何か。それはフォーマメントと言う地域をリゾート地として癒しを求める顧客にそれを提供する皆様であると言うことです。そして皆様の顧客は、まさに癒し、非日常、特別感、おそらくは『思い出』をも、この地に求めておいでの方々です。
ではマーケティングとは何か。それは『顧客は何を買いたいか』を論じるところから始まり、それはマルゲリータ様の『貴族は高価でレアで理解に苦しむものを求めている』とおっしゃいました。つまり、それらを提供すればよいのです。そしてここには、何も用意しなくても美しい湖水地方があります。ここで思い出を作れるものを提供すれば、国王陛下すら大金を出してお忍びで癒されにいらっしゃるでしょう。
では成果と働き甲斐とは何か。成果はもちろん顧客に満足していただくことと、それに見合う報酬を得ることがすぐに思い浮かぶことでしょう。それは冒険者としてクエストを達成しギャラを得て冒険者ランクを上げてクエスト発注主の『信』を得る、それが成果です。そして働き甲斐ですが、皆様が冒険者としての仕事を通じて喜びを感じたのであれば、まさにそれです。これから皆様はリゾート地のオーナーとして、喜びを抱き続けなければならないのです。私は、皆様のためにここにいるのです」
「なるほど、すべてまとまった感じがします。では」
空はひまりから絵筆を借り、余った建材に書き記した。
忘れることなかれ、我らフォーマメントの三原則!
・我々の存在意義を見つめ続けろ。
・クライアントの求めに応じろ。
・我々は、幸せでなければならない。
空はそう書いた建材をランタンの光に照らし、一同は静かに、そして力強くうなずく。
「最後のがいいッスね。我々は、幸せでならなければならない」
「ああ。今噛みしめている幸福が、いつ久しく続かんことを」
「これまでの旅路のように、大変なことも乗り越えて思い出にしてゆくのです」
「そして」
空は満天の星空を見上げる。
「『幸せを分かち合う』、それをわたしの幸せにしたいと思います」
そう迷いなく誓う空に、互いを見合うグレンとレリックは微笑む。
「私にできることは、ご恩返しのみです」
「開拓を楽しみにしているわ。今度は相談相手ではなく客として来たいものだわ」
翌朝。
「え、『遠征費』、ッスか……!?」
アレットの手には、レリックからの請求書が握られていた。
「そうよ。せっかくの休日をある領主の相談相手として呼ばれて自腹を切ってここまで来たのだから当然でしょう? 『地方視察と銘打って経費として申請する』こともできないんだから、当然よね?」
それでなぜ『フォーマメント』ではなく『アレット・ドイル』という個人宛で出すのだろうか。
「せめて、昨晩の料理と絶景で勘弁」
「できないわよ? それなりの立場を得たならば、こういう金銭勘定はきちんとしましょう? 『勘定が苦手な名探偵、アレット・ドイル卿』?」
その様子を見て、空、ひまり、ピエリーナは全てを理解した。
「あー」
「アレット、おそらく過去に」
「勘定間違えまくって、長官さんにとんでもないマイナスを抱えさせたのです」




