第十三章 湖水地方で家(その他)、建てます ~新年、あけましておめでとうございます。~
ひとつの年が終わり、新年元日の朝。
ひまりは朝早くから領主邸の屋根に上り、てっぺんの『軒』に腰かけて東の空を眺める。済んだ空気に冷たい風、それがヤマトの武人であるひまりの心身を清める。
そんな屋根に、空、アレット、ピエリーナも登ってきた。
「おお。皆、お早うござるな」
「おはようございます、ひまり。ひとつ暦が新しくなりましたね」
「そうでござるな。ヤマトでは年が明ければ、『新年あけましておめでとうございます、今年もよろしくお願い申し上げます』と申す。無事に新しき暦を迎えられたことを喜び合い、変わらずお付き合いしとうござるよ」
「アルビオン語圏にも『A Happy New Year』って言葉があるッス。やっぱり新年を迎えることは喜ばしいこと、そして心機一転って感じの機会ッスからね」
「そうなのです。気持ちを新しくして、これからもフォーマメントの開拓も空さんの過去を探す旅も、がんばっていくのです!」
「ありがとうございます、ピエリーナ。アレットとひまりも、今後ともよろしくお願いいたします」
「もちろんッス!」
「こちらこそでござる、空。……あっ」
ひまりが東の空を見やれば、地平線のかなたにオレンジ色の輝きが一瞬強くひらめく。そして輝きは地平線いっぱいに広がり、湖水地方の森を、霧に包まれた村や遠くの町を、空を飛ぶ鳥を鮮やかに照らす。幻想的なまでに美しい光景に、四人はただただ見入ってしまう。
「この地の初日の出……。拙者らを祝福してくれているようでござるな」
「私も、そう思うのです」
「はい。とても美しいものですね、初日の出と言うものは」
「祝福ッスか。そんなスタートも悪くないッスね」
霧が晴れ、完全に顔を出したところで、四人は地上に戻った。
ちなみにアシュレイは、まだ寝ている。
アシュレイを朝食に呼び、山菜のスープ、たれ漬けの魚を用いた麦飯、雪中キャベツを用いたロールキャベツで朝食とする(たれ漬けの魚は雪の中に埋めておくことで長期保存を可能とする)。そして雪で埋もれた正方形の修行場を整地すると、ひまりがあることを言い出した。
「相撲、ですか?」
「然様。相撲もまた神事であり、力士二人が土俵で見合い神様にご覧いただく、これは奉納試合でござる」
「あ、聞いたことあるッス。でもそれって『ちゃんこドカ食い』して体重を増やさないとダメな奴じゃないッスか。しかも男性じゃないと」
「ここはヤマトではござらぬ。初めから終いまでヤマトの規律に則るのではなく、奉納試合とするのであればその精神こそが大事であるかと」
「ヤマト人ってやつは本当に信心深いと言うかなんと言うか。分かったッス。とりあえず自分は見学ってことで」
アシュレイとアレットは相撲がどのようなものであるかを見学し、ピエリーナを『行司(審判)』として、『まわし』と呼ばれる相撲の道着に着替えたひまりと空(胸にはさらしを巻いている)が土俵と定めた訓練所で東西にて向かい合う。
「東、河上ひまり!」
「西、呉空!」
「では相撲の作法の説明でござる。攻撃手段は掌打と体当たりのみ。敗北の判定は土俵の外に出る、足裏より上が地に着く、掌打と体当たり以外の方法で攻撃すること。掴んでいい着衣はまわしのみ。この試合は神への奉納であり、何より武の心を忘れることなかれ。行司、合図を」
ピエリーナはひまり手作りの『軍配』を手に北に立つ。軍配には『乾坤一擲(運を天に任せ全てを賭けて戦え)』と書いてある。
「見合って見合って! はっけよーい……、のこった!」
ピエリーナが軍配を振り、空とひまりが腰を落とした状態から両拳を地面につけて試合開始とする。そして空は初手から掌打から仕掛け、ひまりは左手でいなしつつ空の回しをつかもうとする(反撃すれば、それすら弾かれると踏んだからだ)。
ピエリーナが「のこったのこった!」と叫ぶ中、空とひまりは土俵と見立てた修行場で取っ組み合う。「これがヤマトの決闘か」と見入るアレットだが、「新年早々元気なことだ」とアシュレイはあくびをかきながら三人を眺める。
「どうせ開拓も進まないんだし盗賊の来ようもないんだし動物たちは冬眠してるんだし、ねえ、あたしたちもいっそ冬眠しない? ねえしない?」
それはなかった。
しかし、まわしをつかんでの取っ組み合いは「自分たちらしくない」と思ったのか、結局いつも通りの八極拳と合気柔術での戦いに発展し、空よりも柔の技に秀でたひまりが空を雪の中に放り投げることで決着となった。
その後はまわしを脱ぎ捨てて水着姿になった空とアレット、さらしにまわし姿のひまり、ひらひらとした湯浴み着姿のピエリーナは庭で雪合戦を疲れ果てるまで楽しんだのだが、アシュレイはマンガを読みながら「よーやるわ」とつぶやいていた。




