色難の夏休み その六
「結構食ったな。それにしても祭りの飯は高いな」
味も量も普通以下なのに普通よりも値段が高い。
いつも騙されてるとわかっていながらも、つい買ってしまう。
「でも、祭りでお弁当を持ってくるのは違うでしょ。それにゴミの処理とかもあるだろうし」
「そりゃそうなんだけどな。食べ歩きもできないし」
高い理屈はわからなくもないけど、損をしているって考えの方が先行しちゃんだよな。
「夜市くんと胡ノ宮さん、ちょうどいい所に居た、瑠衣見なかった?」
「瑠衣先輩ですか? 見てないですね」
浴衣姿で駆け寄ってきた宮内先輩は、慌てた様子で息を切らしている。
荒い呼吸に軽くはだけた浴衣姿、その上首元には玉の様な汗が浮かんでいる。
なんと言うか、非常にエロい。
「夜市くん、彼女の前でその視線は頂けないよ?」
「なんのことかわかりませ――って千歳さん痛いからつねらないでくださいお願いします」
結構視線ってわかりやすいらしい。
千歳に思いっきり腕を腕をつねられた。
「エッチなのはほどほどにね。もし瑠衣を見つけたら教えてね」
そのまま慌ただしくまた走って行った。
それにしても瑠衣先輩も来てるのか。
「唯久くんってもしかして、宮内先輩の事結構気になってる?」
「そういうんじゃないって、宮内先輩ってなんかお姉さん感ってないか? 包容力って言うか、面倒見がいいって言うか」
「わかる気はする。私も結構相談しちゃってるし」
「そのせいか、宮内先輩の前だと変にカッコつけなくなったというか、思ったことそのまま出しちゃうんだよな」
この人の前では取り繕っても意味がない感じだ。
そうなるとお姉さんっていうよりも母親みたいなのかもしれない。
本物みたいに口うるさくないし。
「だからってさっきのは違うよね?」
「それは本当にごめんなさい」
浴衣ってどうしても色っぽく見えちゃんだよな。
千歳だっていつもと違って、髪を上げてるせいかうなじが色っぽい。
「それは私に向けてるから許すけど」
どうやらさっきと同じ顔をしていたらしい。
顔に出さないように注意しないとな。
「あんなに慌てなくても瑠衣先輩なら強いし平気じゃない?」
「俺は強すぎて心配だな」
主に絡んだ連中の生死が。
俺とやるくらいの魔法は使わないにしても、肉体の書換くらいなら使うだろうし、そうなると一般人で対抗できるのはオリンピックレベルの身体能力が必要だろうしな。
「あの慌てようがわかった気がするよ」
千歳も俺と考えに行きついたらしい。
「私も最近は加減を考えて動くぞ」
「いるなら正面から話しかけてください」
ようやく後ろから声をかけられても驚かなくなってきた。
この人はこういう人だと理解できて来たんだと思う。
「宮内先輩が探してるので、早く戻ってあげてください」
妙に刺々しい言い方で千歳は俺の腕を掴む。
いつも俺が瑠衣先輩に連れていかれてるから心配しているのだろう。
流石に今日は俺も反抗するつもりだ。
折角の祭りデートを不意にするつもりはない。
「そう邪険にするな。二人に話があるんだよ」
結局、俺達は瑠衣先輩に連れられ、人のいない空き地に連れてこられた。
「それで、何の用なんですか?」
「唯久の夢は千歳を守ることだったな」
「それがどうかしましたか?」
ビリビリとした威圧感が目の前から放たれる。
「さっき、見知らぬ女子の告白を耳にした。お前は千歳がいるから他とは付き合わないらしいな」
「そうですね。千歳以外には考えられませんから」
背中に千歳を隠す。
何となく察した千歳も素直に背中に隠れ、逃げる準備をしている。
「お前を好きな私は、どうすれば伴侶になれるのかを考えたんだ」
「その結果がこれですか?」
「ああ、千歳を殺してお前を手に入れる」
瑠衣先輩らしくないと思った。
乱暴だが一線を超えない人だと思っていた。
その行き過ぎた考えが恋煩いによる一時的な物だとしたら、この暴走はらしいのかもしれない。
「ルールは簡単だ。千歳が死ねばお前の負け、私が倒れればお前の勝ちだ。お前が勝てば大人しく身を引こう」
「やめませんか。なんて無理なんですよね?」
この空気は最初に会った時と同じだ。
公園の外には出られない。
ここに来た時点で受ける以外選択肢はないわけか。
「構えろ。この勝負に勝って私はお前を手に入れる」
瑠衣先輩はいつものように全身の力を抜く。
それに合わせて、俺も左手を前に半身になり構える。
最初に動くのは瑠衣先輩。
右半身を一気に沈め、公園の土を抉り取り散弾のよう発射する。
避ければ千歳を巻き込みかねない。
すぐさま左手を炎に変え壁を作り土を焼き尽くす。
「視界を塞ぐとは余裕だな」
右半身に炎を宿す先輩は、炎の壁を強引に切り裂く。
防御? 回避? 回避は間に合わない。
炎に変わっている左手で対抗するが、判断が少し遅れ力負けする。
姿勢が崩れると、弾かれた手は掴まれ一瞬で目の前は炎に包まれる。
熱くない、これは目くらまし?
そう考える時間が隙になる。
腹部に強烈な一撃。
体にある酸素は全て口から漏れ、新しく取り入れようとしても肺が圧迫され呼吸がままならない。
急激な酸欠に脳が意識を断ちそうになる。
唇を噛み、意識を無理に保たせる。
肺が動くイメージで魔法を使い、呼吸は元に戻せた。
「まだ足りないか」
二撃三撃と連続で繰り出され、痛みが俺の思考を乱していく。
復活しかけた体から力が抜けていく。
このまま気絶をすればいいんだろうか? それだけで俺は助かるんだよな。
でも、ここで頑張らないと千歳は死んじゃうんだよな。
背後に壁をイメージする。
防ぐ壁ではなく、足場になる壁だ。
足に力を込め、瑠衣先輩に掴まれた腕を軸に先輩の頭を跳び越す。
体をわずかに捻り、瑠衣先輩の腕をねじる。
「くっ」
人間の反射を利用し先輩が動く方に力を込め、先輩を地面にたたきつける。
「千歳、応援しててくれ。それだけで勝てるから」
「唯久くん、頑張って!」
「任せろ」
「さっきので私を倒さないのは余裕の表れか?」
「一人じゃ勝てそうになかったので、応援してもらってたんで」
骨に異常はなさそうだ、体中痛いけど問題はない。
そんなのは先輩との稽古ではいつもの事だ。
「もう負けません」
俺は改めて構えた。




