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色難の夏休み その三

「さっきの電話の相手は誰なの?」


 部屋に入るなり、真面目な顔をした小紅ちゃんに詰め寄られる。

 グイグイ来る彼女に、俺は壁際まで追いつめられる。


「私に言えないような関係なの?」


「こんな風に追い詰められたら誰でも言葉はすぐに出ないでしょ」


 鼻先がくっつきそうなほどに顔を近づけられ、吐息が顔にかかる。

 女子特有の甘い匂いに、相手が小紅ちゃんなことも忘れ鼓動が早くなる。


「小紅や、離れてやれよ。唯久も男子なんだから、女子にそこまで近寄られたら緊張するもんだよ」


「うぅー」


 六輔の言葉に、小紅ちゃんは可愛く唸り声をあげながら少し距離を取る。

 でももうちょっと離れてくれた方が話しやすい。

 まだ小紅ちゃんから壁ドンをされている状態だし……。


「電話の相手は俺の彼女だよ。胡ノ宮千歳って言うんだ」


「……かの、じょ?」


「うん。同じクラスで気も合うし可愛いし良い子だよ。今度紹介――、ってどうかした?」


 説明をしている段階で、小紅ちゃんはへなへなと地面に座り込んだ。

 そしてフラフラとテーブルに戻り、参考書をパラパラめくり勉強に戻った。


「なあ、小紅ちゃんいきなりどうしたんだ?」


「気にしないでやってくれ」


「おう、わかった」


「小紅、兄ちゃんはお前の味方だからな」


「いいの、私が油断してただけだから」


 兄が妹を励ますいいシーンなのか?

 俺何か悪いこと言ったか?


 そのまま夕飯に呼ばれるまで勉強を教えていたが、なんとなく重い空気が部屋に漂っていた。

 夕飯を食べ始めるころには豪雨も小雨に変わっていた。


「今日は悪かったな、小紅の勉強を見てもらって」


「気にすんな、俺も飯がもらえたし、久しぶりにお前達とも遊べたしな」


 帰り際玄関で六輔と話すが、小紅ちゃんは姿を見せなかった。

 前は一緒に見送りに来てくれてたのに、やっぱりなんか怒らせることしたのか?


「小紅ちゃんは大丈夫か?」


「心配すんな、お前が悪いわけじゃない」


「わかった。何かあったらまた連絡くれ。勉強位なら見てやれるから」


「伝えとくよ」


 そのまま家に戻ると、小紅ちゃんからメッセージが届いた。


『勉強を教えてくれてありがとう。また教えてね』


 どうやら怒ってはいないらしい。

 俺は『いつでも聞いてくれ』とだけ返信した。


†


 翌日はチャイムの音で目が覚めた。

 パタパタと母さんが返事をしながら玄関に向かう。


 家の中から返事をしても外に聞こえてるのか?

 寝ぼけた頭でそんなことを考えていると、母さんが誰かと話し始める。

 ああ、回覧板か何かか?

 でも朝早くないか?

 時計を見ると十時を過ぎていて早いと言えるような時間ではなかった。


「唯久、お客さん来てるよ」


「ノックぐらいしろよ、それで誰? 六輔とか?」


 ノックもなしに入ってくる文句を言いながら、体を起こす。

 昨日なにか忘れ物でもしたか?


「こんな可愛い女の子」


「お邪魔してます」


 ドアの前にいた母さんが避けると、そこには夏っぽく白が基調のワンピースを着た千歳が立っていた。

 それに対して、俺の今の恰好はシャツに短パンという実にだらしなさ、その上部屋は散らかり放題の地獄絵図。


「千歳、リビングで待っててくれ。母さんには少し話がある」


「えー、母さんは唯久より千歳ちゃんとお話したいから遠慮しとく。じゃあ、片付けが終わるまでリビングでお茶しようか」


「はい。待ってるね」


 マジであのクソばばあは何を考えてやがるのか。

 これが原因で別れたりしたら一生恨んでやるからな。


 部屋の掃除と着替えを終えリビングに向かうと、千歳と母さんはかなり打ち解けていた。


「いつも唯久くんには助けて貰ってて、本当にありがたいです」


「ドラ息子をそんなに褒めてくれるなんて嬉しいわ」


「片付け終わったけど」


「あらそう、それじゃあお小遣いあげるから千歳ちゃんと遊んできなさい」


 珍しく一万円を渡され、二人とも外に追い出されてしまった。

 もしかして部屋片づけたのって無駄だった?

 とりあえず軍資金も貰ったし、言われた通り出かけるか。


「母さんうるさくてごめんな」


「ううん、凄くいいお母さんだね。私にも優しいし、元気イッパイって感じでいいよね」


「仕事が体力勝負って感じだからな」


「確か看護師だっけ? あんなに綺麗で明るいなら人気だろうね」


「そうらしいけど、俺はもっと落ち着いた人に看病されたい」


 たまに母さんの同僚や患者に会う機会があるけど、本当に人気らしい。

 元気を分けてもらえるとか言ってたけど、俺は逆に元気を吸い取られている気になる。


「そんなことより、今日って何か約束してたっけ?」


「してないと会いに来ちゃダメだった?」


「それは無いけど、約束忘れてたりしたのかと思って」


 小紅ちゃんの事で不機嫌にさせたみたいだし、これ以上変な心配をかけたくはないしな。


「してないよ。ただ一緒に居たいなと思っただけ」


「じゃあ、軍資金も貰ったし腹ごしらえから行こうか」


「そうだな。その後は一緒に特訓だな」


「「えっ?」」


 突然後ろから何者かに肩を掴まれた。

 いや、何者かっていうか、こんなことするのは一人しかいないんだけど。

 正体はわかりつつ、後ろを振り向くと瑠衣先輩が背後に立っていた。


「何してるんですか?」


「学園に向かう途中にお前達を見つけてな、用事もなさそうだったので、声をかけたまでだ」


「今デート中なんですけど」


「さあ行くぞ!」


「だから、今デート中……」


 有無も言わせず、俺は瑠衣先輩に引きづられながら学園に連行されてしまった。

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