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色難の夏休み その一

 着替えを終えると、いつの間にか到着していたバスに乗り込む。

 中は街中でもよく見かけるタイプのバスで、エンジンはかかっているのに運転手は不在。

 怪談話に出てきそうなバスの一番後ろに固まって乗りこむ。


『そんな後ろじゃなくてもいいよ。このバスは三番のビーチに居る人専用だから』


 バスに備え付けられているスピーカーから、学園長の声が聞こえてきた。

 どこかで見てるらしく、周りを見渡すと天井に設置されている監視カメラが全部俺達の方を向いている。


『全員乗り込んだみたいだし出発するよ』


 バスがゆっくりと動き出した。

 林道を真っすぐ進む。


「こんなに奥まった場所なんだな」


『奥まった場所を目指して作った場所だ。人気の少ないプライベート空間を意識したんだよ」


「やっぱり唯久くんの推理通り学園長が作ったんですね」


『正解だ。一応その場所は鏡の世界ということになってるから、他言はしないでくれ。世界の創造と聞いて拒絶反応を示す保護者もいるからね』


 そんな反応する保護者もいるのか。

 鏡の世界だって同じ世界の創造をしているのにな。


『君達にはもうバレてるんだから長々と走らせる必要はなかったな。今門を開くから待ってくれ』


 バスが止まると、目の前に大きな門が開かれた。


『普段ならワープだと理由を付けて町中を走らせるんだが、必要はないから校舎に直通してある。そこを潜れば昇降口にでる』


 俺達がバスから降りると、さっきまであったバスは霧散してしまう。

 言われた通りにバスも通れる門をくぐると、昇降口に出てきた。


「お帰り、楽しかったかい?」


 小屋の中でくつろぐ学園長は自分もバカンス気分で、聞いてきた。

 小屋の中に見えるビーチもあの施設と連動している場所なのかもしれない。


 そのまま学園長と二三言葉を交わし、戻ったことを知らせる署名をし手続きは完了した。

 これが終わらないと、自動的に捜索がされるらしい。


 これから大鉄と大牧はもう少し特訓してから帰ると言っていたので、俺達は二人で帰宅だ。


「海楽しかったな。普通に生きてたら体験できないことばかりだった」


「そうかもね。でも、今度はもう少しゆっくりしたいな」


「少しはしゃぎたな」


 海底探索に全力のバレーボール。

 ゆっくりしたのは最初に浮き輪で浮いていた時くらいか。

 千歳としては少し楽しくなかったのかもしれない。


「だからまた行こうね」


「そうしようか」


 今度ははしゃぎ過ぎないように二人で行くのもいいかもしれないな。


「よっす唯久、久しぶりだな」


 不意に肩を叩かれ、振り向いた先に居たのは六輔だった。

 編入するまで同じクラスにいた宮内六輔。

 宮内先輩と同じ苗字だが、関係は一切ない赤の他人だ。


「六輔、こんなところで何してんだよ」


「それはこっちのセリフだよ。お前こそデートか?」


「デートと言えばデートだな」


 ダブルデートはデートとついてるけど、デートで良いんだろうか?

 デートって二人きりってイメージがあるんだよな。


「ってことは彼女なんだな。凄いなこんな美人を彼女にするとか、流石A組に編入するだけのことはあるな」


 俺達が話していると千歳は袖を軽く引く。

 そうか、何度か話に出したことはあったけど、まだ紹介してなかった。


「このうるさいのは宮内六輔。俺の幼馴染で腐れ縁だ。宮内先輩と名字は一緒だけど無関係だから」


「初めまして、胡ノ宮千歳です。唯久くんとはお付き合いさせていただいています。いつも唯久くんがお世話になってます」


 相当緊張しているらしく、深く頭を下げ母親みたいになってしまっている。


「六輔って呼んでください。幼馴染なんで、なんかあったら言ってください。懲らしめてやりますから。ってかお前も彼女ができたなら教えろよ、最近付き合い悪いから気にしてたんだぞ」


「それは悪かったな」


「それなら、二人で遊んで来たら? 私ばっかり唯久くんを独占してたら申し訳ないから」


「そうだな、明日とか予定あるか?」


 付き合いが悪いってところが千歳的に引っかかったのか、そんな話を進められた。

 確かに最近A組とばかりというか、千歳とばかり一緒に居るし、たまには魔法とか忘れて遊ぶのもありか。


「彼女さんがそう言うなら、明日は久しぶりにゲーセンでも行くか」


「じゃあ、昼過ぎに迎えに来てくれ」


「おう。それじゃあまた明日な」


 約束をすると、六輔は商店街の方に歩いて行った。

 もしかすると、小紅ちゃんに買い物を頼まれていたのかもしれない。

 あそこは兄妹仲いいからな。


「迎えに来てくれるってことは、二人の家って近いの?」


「家のマンションから徒歩二分だな」


「ご近所さんだね」


「中学卒業まではほぼ毎日一緒だったな」


 家族間でも仲がいいのもあって、旅行とかも一緒だった気がする。


「それじゃあ、私が六輔くんから唯久くんを盗っちゃったんだ」


「盗ってくれて助かったよ。あいつといつまでも一緒だと彼女出来そうにないんだよ」


 そんな話をしながら千歳を家に送った。

 いつか六輔の事も紹介しようとしていたからタイミングは良かったかもしれない。

 たまには男子同士で遊ぶのも悪くないよな。

 千歳の前だとどうしてもカッコつけちゃうし、久しぶりに馬鹿みたいな話で盛り上がるか。

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